AR、VR、VOD…ホールディングス化のメリットを生かすコンテンツ戦略
編集部
2008年4月、テレビ局にホールディングス化(認定放送持株会社制度)が認められた。これにより2008年10月にはフジテレビが、続いてTBSテレビ、テレビ東京、日本テレビ、そして2014年4月にはテレビ朝日がホールディングス化をし、在京キー局は足並みをそろえた。このホールディングス化で、テレビ界に何が起きたのか? テレビ朝日ホールディングス 経営戦略局 経営戦略部長の小林直治氏にお話を伺った。
■先端的なコンテンツ開発を推し進める「テレビ朝日360°」
テレビ朝日の新経営計画「テレビ朝日360°」は、地上波とBS、CSなどの既存3波に、インターネットとメディアシティを加えた5つの事業を大きな柱としている。その1つとして、AR・VR・AIなどを活用した先端的なコンテンツに関しても積極的に取り組んでいくため、新規に社内でイノベーション推進プロジェクトを立ち上げ、外部のパートナーと共同開発、研究や協業などをしていこうという動きもある。そういった戦略にも、ホールディングス化のメリットが生かされているようだ。
「テレビ朝日として、地上波は今後も基幹メディアであることに変わりはありません。ただ地上波だけに軸足を置いて事業を進めていくという意識は、もう変えなければならないと思っています。同時に、コンテンツ作りの1つの広がりとして、新しい技術も積極的に導入していきます。ARやVRなどは、新しい技術が出てきたからとりあえず対応しようということではなく、コンテンツ作りの幅を広げるために利用します。それによって、今までのような平面映像では想像できなかった新しいアイデアが生まれます。そのため、新経営計画では新規事業の投資に300億円という枠を設けました。われわれだけで実現できなければ、すでにARやVRのコンテンツを制作している企業に投資やM&Aをすることもあるでしょう。そういうことが行える基盤があるという面でも、ホールディングス化のメリットは大きいと思っています」(小林氏)。
■3波連携にもホールディングス化のメリット
一方、放送の基幹となる3波連携についてもホールディングス化のメリットが生かされている。もともと、テレビ朝日とビーエス朝日は番組の編成上密接な関係を保っていたが、そこには別会社という壁があった。その壁がホールディングス化によって取り払われた。
「3波が同列の100%子会社化となることでグループの一体感が高まり、密接な関係を築いていくことができるようになりました。また、資本面だけでなく地理的な面からも一体化を強めるために、ビーエス朝日の拠点を原宿から六本木に移転させました。これによって、社員間のコミュニケーションも高まり、業務に弾みがつきました。著作権上の問題なども、地上波だけでなく、BS、CSについての権利も同時にクリアすることで編成上の効率化が図れます。さらに、試合終了時間の予測ができないプロ野球の中継や、午前に始まって午後までかかるゴルフトーナメントの中継など、地上波の時間枠では放映しきれないコンテンツをBSでリレー中継をするなど、3波を使ってコンテンツの補完を行っていきます」(小林氏)
■放送で培ったノウハウをインターネットにも生かす
一方で、近年インターネット広告の売り上げが新聞広告の売り上げを抜き、さらに堅調な伸びを示している。インターネット広告の売り上げはテレビ広告の売り上げと比べるとまだ倍近い差があるが、若者のテレビ離れなどによって静観できない状況にある。
テレビ朝日では、インターネットを中核事業の1つと位置付け、ネットの世界にもより積極的にコンテンツを展開していく。単にインターネットと連動するコンテンツを制作するのではなく、地上波で培ってきた経験やノウハウを生かしたコンテンツを制作し、インターネットで配信していくことを目指している。とはいえ、インターネットとテレビにはそれぞれの特性があるので、その特性に合わせたコンテンツ作りを考えなければならない。
「たとえば、報道や情報番組のコンテンツに関しては、テレビはインターネットのメディアよりも、より信頼性の高い情報を提供しています。しかし、ただ単にテレビの情報はインターネットの情報より信頼性があると言ってしまうだけではなにも伝わりません。なぜテレビが信頼性の高い情報を送り出すことができるのかを、きちん伝えなければならないと思っています。テレビは現地できちんと取材をして、さらにその情報を内部の複数の目で確認した上で発信しています。そのための拠点が、全国に置かれているのです。そうやって得た信頼性の高い情報をインターネットで提供していると積極的にアピールすることで、新興のインターネットメディアと戦っていきます」。
コンテンツの視聴形態もインターネットの登場によって変化してきた。かつて、ビデオ機器の登場によってコンテンツをリアルタイムではなく録画して見るスタイルが定着したが、最近はタイムシフト視聴と呼ばれるように、視聴者が“見たいときに、見たい番組を、自分の見たい見方で見る”という時代になった。こういった流れによって、コンテンツのマネタイズも変わってきた。
「録画によるタイムシフト視聴ではマネタイズが難しかったのですが、インターネットによるビデオオンデマンド(VOD)の登場によって、タイムシフト視聴でもコンテンツのマネタイズが可能になりました。かつてのパッケージ化やDVD化といったコンテンツの2次利用が、VODという形になったのです。今後VODで収益を上げていくためには、民放公式テレビポータル“TVer”のように、テレビ局の壁を越えて業界全体で取り組んでいくことも重要になってくるでしょう」(小林氏)。