映像制作を民主化する目玉の「AI Hub」【「香港フィルマート2025」現地取材レポート・中編】
ジャーナリスト 長谷川朋子
香港貿易発展局(HKTDC)が主催するエンターテインメント・コンテンツ見本市「香港フィルマート2025」が3月17日(月)から20日(木)までの期間、香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された。参加者数は昨年を上回り、7600人以上の業界関係者を集めてアジアを代表するトレードショーとしての存在感を示した。今年はAIやアニメにフォーカスが当たり、アジア全体のクリエイティブ産業の勢いも反映させていた。現地取材した「香港フィルマート2025」中編は今回目玉となった「AI Hub」の話題をレポートする。
■ソニーなど10社展示、カンファレンスに3900人
マーケットトレンドを反映した今年の「香港フィルマート2025」が力を入れた話題の1つに「AI Hub」の新設があった。香港貿易発展局の事務局次長を務めるパトリック・ラウ氏は現地開催のプレスカンファレンスで「今や誰もが生成AIについて話題にし、重要なテクノロジーであるAIは今年の香港フィルマートを象徴するものでもある」と話す通りだ。
新設の「AI Hub」は香港映画ポストプロダクション専門家協会と香港映画プロデューサー・配給者協会が共同で企画したもので、AI関連のパイロットプロジェクトの展示ゾーンとAIソリューションの可能性をテーマに専門セッションを企画したカンファレンスコーナーが設けられた。

映像技術の話題を取り入れる試みは、実は昨年から始まっている。最新AIを紹介するバプティスト大学や、バーチャル・プロダクション・スタジオの開設を発表する香港デザイン学院など香港教育機関の出展を売りにし、会場には香港拠点のクリエイティブ・テック企業Votion Studiosによる最新の制作技術とリアルタイム・コンテンツ生成の実演を行うバーチャル・プロダクション・スタジオを設定していた。
今年はより集客力を意識し、「AI Hub」というゾーン名に相応しく参加者の関心を引く構成に改善されていた。制作、ポストプロダクション、配信、プロモーションの各用途にわたる革新的なAIソリューションを展示する香港演芸学院(HKAPA)映画テレビ学部やソニー、レノボなど10社が集結し、展示ゾーンに出展した。各社の展示に足を運ぶ参加者が途切れないほど盛況ぶりだった。
ソニーCineAltaシリーズのカメラなどを搭載した撮影ロボット「Daystar Bot」を展示したレノボの担当者は「映画製作スタジオから相談を受けて、爆破撮影シーンの現場での活用を見越し、開発した」と話していた。実用化がイメージできる展示が並んでいたことも関心を集めた理由の1つにあった。

AI特化のカンファレンスコーナーは連日にわたり香港や中国の撮影現場担当者が続々と登壇し、実用レベルの議論が行われていた。常に人だかりができていたほど関心を集め、期間中、3900人以上が参加したことがわかった。
■「競争力を高めるAI活用」を議論
AIに関する話題はメインのセッションプログラム「エンターテインメント・パルス」でも取り上げられた。「Gearing up for the AI Opportunities:AI好機に備える」と題したセッションで香港のアニメーションスタジオHong Li Animation StudiosのプロデューサーであるYu Zhixin氏や中国・北京を拠点としたHeguang Post-Productionの副社長Liu BaoYu氏、アメリカから参加したMalka MediaのAIストラテジストDavid Carpenter氏、中国最大級の法律事務所Zhong Lunの弁護士Jihong Chen氏などが登壇した。
テーマは「AI技術の急速な発展とそのエンターテインメント産業への影響について」という壮大なものだったが、中国、香港、アメリカを拠点にする登壇者それぞれの視点からAIツールの進化と適応することの重要性、AIが作品に与える影響など具体的な話が繰り広げれられた。

AIソリューションはエンターテイメント業界の新たな可能性を開き、クリエイティブ力を高める助けになる一方で、従来の手法を置き換える可能性があることから、「AI技術の導入が制作に与える影響を慎重に評価する必要がある」「AI技術の急速な進化に対応するための継続的な学習と適応が求められる」「AI技術が作品の創造性を阻害する場合、どのようにして人間の創造性を維持するかを考慮する必要がある」といった意見が上がった。
またAIツールを効率的に活用することにより、制作コストの削減が期待されることも指摘された。「少ないリソースで作品制作数を増加させることができ、AIツールの進化により、さらなる効率化が期待される」などと利点に目が向けられた。
中国Heguang Post-ProductionのLiu BaoYu氏は、「新しい芸術表現の形を模索し続けるなかで、伝統芸術を尊重しながらAIをうまく活用すべきである」とまとめ、Zhong Lunの弁護士Jihong Chen氏は「競争力を維持するためにはAIの習得が今や不可欠である」と強調した。また香港のHong Li Animation Studios のYu Zhixin氏は「将来的にはビジネスモデルが変化する可能性がある。香港の国際的なポジションの向上や競争力そのものを高めるものになると期待する」と展望を示した。AIストラテジストのDavid Carpenter氏が「AIは映像製作を民主化するものになる」と語っていたことも印象深かった。
展示とカンファレンスを組み合わせることによって、マーケットの中で展開する「AI Hub」の役割を高めた効果もあったのではないか。マーケットニーズを汲み取る取り組みはスポットライトが当てられたアニメにも共通していた。後編に続く。