アジア成長で7600人参加の映像トレードショー【「香港フィルマート2025」現地取材レポート・前編】
ジャーナリスト 長谷川朋子
香港貿易発展局(HKTDC)が主催するエンターテインメント・コンテンツ見本市「香港フィルマート2025」が3月17日(月)から20日(木)までの期間、香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された。参加者数は昨年を上回り、7600人以上の業界関係者を集めてアジアを代表するトレードショーとしての存在感を示した。今年はAIやアニメにフォーカスが当たり、アジア全体のクリエイティブ産業の勢いも反映させていた。現地取材した「香港フィルマート2025」を前・中・後編にわたりレポートする。
■ASEAN出展社数は昨年の1.5倍、バイヤー参加者率15%UP
今年で29回目の開催となった「香港フィルマート2025」はアジア最大級の映画とテレビのトレードショーの勢いを見せつけた。主催する香港貿易発展局の発表によると、香港島北部の灣仔地区にある香港コンベンション&エキシビションセンターのホール1を会場に42か国・地域から7600人以上が参加し、34の国と地域から約760社・団体が出展したことがわかった。参加国数は昨年より若干下回るも参加者数は増加し、なかでもASEAN諸国からの参加が大幅に増えた年となった。ASEAN諸国の出展社数は昨年の1.5倍、バイヤー参加者率は15%アップし、好調ぶりを示した。

現地で開催されたプレスカンファレンスに出席した香港貿易発展局事務局次長のパトリック・ラウ氏は開催前から流れに乗っていたことを明かし、盛況ぶりを伝えた。
「今年は出展案内開始後、僅か数か月で34の国と地域から申し込みを受けていました。出展社数は昨年と比べて30%増です。例年通り中国からの参加は多く、今年はタイが大きな存在感を示しています。フィリピンやベトナムなどASEAN諸国の参加も積極的でした。さらにオーストラリアやインドなど出展国が広がりました。インドの初参加を受けて、ボリウッド特集を企画するなど我々が力を入れているセッションの充実にも繋がっています。中東からサウジアラビアの参加も今年は初。カザフスタンなど中央アジアの国々も初参加し、参加国の広がりを感じています」。
ラウ氏が話す通り、新たにナショナルパビリオンブースを展開した出展国数が増え、オーストラリア、カンボジア、フランス、インド、マレーシア、サウジアラビア、ベトナムが今回初出展を果たした。ナショナルパビリオンブースの数は30以上に上った。また実際に会場ではタイが最も存在感を示していた。昨年に続き大型ブースを展開し、さらに今年は香港と中国勢が並ぶ会場入り口正面に配置し、広々とした商談ブースに圧倒されるほどだった。国際流通コンテンツを揃えるタイの制作力と需要の高さを象徴するものでもあった。タイ文化庁は今回、2つのフォーラムを開催し、同国の文化産業の現在地を紹介した。

■日本の出展社数36社に留まる

日本は今年もパビリオンブースを構えた。ユニジャパンがとりまとめたパビリオンに日本テレビなど10社が参加、民放連がとりまとめたパビリオンにはNHKエンタープライズ、テレビ朝日、テレビ東京、フジテレビ/FCC、WOWOW、毎日放送、読売テレビ/読売テレビエンタープライズ、ABCフロンティア、関西テレビ、名古屋テレビ、中京テレビ、東海テレビ、北海道放送の13社が参加した。これにTBSテレビや東宝、東映など単独ブースを展開した13社を加えて、日本の出展者数は計36社に上った。

40社の出展参加があった昨年より縮小されたのは、日本各地域のフィルムコミッション団体や民放ローカル局の出展参加が見送られたことが大きい。東名阪民放局以外の参加は北海道放送のみに留まった。グローバル動画配信プラットフォームが主要国際流通プレイヤーとなり、先のタイなど競合国がアジアの中で増えている状況も影響しているだろう。日本コンテンツの海外展開は立て直すべき時期を迎えていると言える。
一方で長年にわたりマーケット参加を続けている日本に対して、香港貿易発展局の事務局次長を務めるパトリック・ラウ氏は前向きにコメントした。
「日本の参加は我々にとって常に心強いものです。また日本のアニメーションは世界中で視聴され、高く評価されています。世界中のマーケットでアニメ作品の注目度がますます上がっていることも事実としてあります。我々としては、技術力は業界を発展させる非常に重要なポイントにあると見ており、国境を超えた企業間のコラボレーションにも重点を置いています。そんななか、日本のプレイヤーをはじめ投資家、パートナー企業共に価値ある役割を果たし続けていただけると、私は信じています。日本の映像産業はさらに国際化することでその強みを享受するようになるとも思っています。私の息子は『ウルトラマン』シリーズが大好きで、素晴らしい作品をいつも楽しんでいます。日本に感謝しています」。
■新設「プロデューサーズ・ハブ」1300人以上参加
ラウ氏が指摘した「国際コラボレーション」は今年の香港フィルマートのキーワードの1つにもなっていた。「映像業界が成功を収めコラボレーション分野や地域間のコラボレーションが不可欠です。香港フィルマートの方針にも置き、7,000人以上の映像関係者や投資家が香港フィルマートで出会うことを期待しています」とラウ氏が補足する。
国際コラボーレションを促進する具体的な試みとして、今回「プロデューサーズ・ハブ」が新設された。文化・スポーツ・観光局、クリエイティブ産業発展機構(CCIDA)、香港映画発展局、香港貿易発展局(HKTDC)が共同開催したもので、人気を集めた。プログラム参加者数は1300人以上に上ったことが報告されている。香港および世界各国のプロデューサー同士のネットワークを構築し、共同制作を促進することを目的に、パネルディスカッション、トークイベント、ワークショップ、ビジネスマッチングなどが展開され、パネリストは地元香港の映画製作者に加え、海外のプロデューサーも多数参加した。

「国際共同制作:リスクと報酬のバランス」をテーマにしたプログラムのハイライトでは、クリエイティブな才能の統合や資金源の多様化、視聴者層の拡大といった内容が盛り込まれ、各国のプロデューサーに国際的な視点を提供する場として機能していたように感じた。
国際間の売り買いの場としてだけなく、映像業界の発展を見据えた取り組みが強化された香港フィルマート。中編は今回の本命エリアだった「AI Hub」についてレポートする。