テレビ朝日のホールディングス化は何を築いたのか?
編集部
2016年度の視聴率で全日、ゴールデン、プライム、いずれにおいても2位となり、2016年度のスポット広告収入では開局後に初めて2位となるなど、好調な推移を見せるテレビ朝日。特に『グッド!モーニング』や『羽鳥慎一モーニングショー』といった朝のベルト番組が好調で、全日の視聴率を押し上げている。
■2020年以降への備えとして発足した「テレビ朝日360°」
そんな中、4月からは2017年度から2020年度までの4か年にわたって推進する新経営計画「テレビ朝日360°」をスタートさせた。地上波、BS(2K/4K)、CS、インターネット(AbemaTVなど)、メディアシティにそれぞれコンテンツを360°戦略的に展開するという計画だ。コンテンツとしては、従来の報道やスポーツ、ドラマ、バラエティ、アニメなどに加え、ゲームやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、さらにはAIを活用した先端的な分野も視野に入れている。
背景には、2020年以降の景況に備えておきたいという経営判断がある。現在、日本では、官民一体となって東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた先行投資が行われているが、閉幕後はその反動による景気後退が予測されている。収入の主軸が放送収入(広告収入)であるテレビ局にとって、その打撃はとても大きなものになると見込まれる。2020年東京オリンピック以降の不確実な時代、少子高齢化による市場収縮の時代、インターネットがより一層存在感を増す時代、どのような時代でもコンテンツが全ての価値の源泉であるとして推進するのが「テレビ朝日360°」だ。
その基盤となっているのが、2008年4月にテレビ局にも認められた認定放送持株会社制度、いわゆるホールディングス化だ。日本では1997年12月の独占禁止法改正以降、さまざまな業種の企業が持株会社制度を取り入れ始めた。しかし、テレビ局には、できるだけ多くの者が表現の自由を享有でき、同一企業による複数のテレビ局の支配を防ぐために定められた「マスメディア集中排除原則」によって、ホールディングス化が認められていなかった。
■経営基盤強化のために認可されたテレビ局のホールディングス化
では、どのような経緯でテレビ局にもホールディングス化が認可されたのか。テレビ朝日ホールディングス 経営戦略局 経営戦略部長の小林直治氏に伺ってみた。
「テレビ業界においては、2011年の地上デジタル放送への完全移行に伴う設備投資が多額なものになるため、地方のテレビ局の経営が圧迫されることが懸念されていました。そこで、テレビ局でも資本を集中し経営基盤を強化できるように、マスメディア集中排除原則を緩和し、資金調達能力の高い持株会社制度を導入することが認められたのです。
マスメディア集中排除原則が緩和されたとはいえ、その規制がなくなったわけではありません。認定放送持株会社制度は、2つ以上の放送事業者を子会社化することができる制度ですが、最大12エリア(12都道府県)までと上限が設定されています。
例えば、在京キー局は関東ですでに7エリア扱い(東京都、神奈川県、千葉県、茨城県、埼玉県、群馬県、栃木県)となっています。これに関西の準キー局(放送エリアは6エリア扱い)を加えようとすると、12エリアの上限を越え13エリアとなってしまうため、在京キー局と関西の準キー局が同列の子会社になることができないような仕組みです。また、外資20%規制が適応され、株主一人当たりが議決権も33%を超えて保有ができないようになっています」(小林氏)。
■テレビ局のホールディングス化の狙い
在京キー局では、フジテレビが2008年10月に認定放送持株会社の認定を取得しホールディングス化。以降、TBSテレビ、テレビ東京、日本テレビと続き、2014年4月にテレビ朝日がホールディングス化することで足並みが揃った。テレビ局のホールディングス化のメリットはどこにあるのか。
「最近はテレビ局もさまざまな事業を行っているように見えますが、今でも収入の大きな部分は放送収入が占めています。ところが、放送収入は日本の経済状況に大きく影響します。テレビ朝日もリーマンショックでは大きな波を被ってしまい、今後はさらに厳しい波が来るかもしれません。
一方、日本の大手企業は、これまで大きな不況に直面したり厳しい経営環境に置かれたりしても、さまざまな構造改革を行って生き抜いてきました。それは、やはりホールディングスという企業形態を活用することで多角化やグループ企業の効率化を進めてきたという一面もあったと思います。テレビ局が生き残っていくためにも、ホールディングス化によってグループの競争力を高め、景気変動の影響を受けにくい経営体質を作り上げていくことが重要と考えています」(小林氏)
■ホールディングス化によって高まった系列局との連携
ホールディングス化によって、テレビ朝日、ビーエス朝日、シーエス・ワンテンの3社は、テレビ朝日ホールディングスの傘下で完全子会社となった。この3社が中核となって結束を固め、積極的にコンテンツへの投資を行うことで番組作りの質を上げ、収益を上げていく構えだ。一方で、2017年3月には、静岡朝日テレビ、福島放送、東日本放送という3つの系列局を持分法適用関連会社とした。そこにも、明確な経営戦略が見える。
「地上波メディアの価値を今後も維持向上させていくためにも、系列局との連携が大切です。テレビ朝日ホールディングスにおける系列局の役割は、大きく2つあります。コンテンツ面から見ると取材やニュース発信の拠点としての役割を担い、もう1つはメディア価値を保つためのタイムセールス上の営業戦略としての拠点です。マーケットが低成長・停滞時代を迎える中で、系列局とは連携と結束をさらに強める必要があります。そのために、系列局を関連会社としてホールディングスの中に迎え、、いろいろと経営戦略の選択肢を増やしていこうと思っています」(小林氏)
ホールディングスという企業形態を取ることによって、経営基盤を固めたテレビ朝日。今後はどのようなコンテンツ戦略を行なっていくのか、またテレビの未来はどうなっていくのか。後編では、「AR、VR、VOD…ホールディングス化のメリットを生かすコンテンツ戦略」などについて聞いてく。