「すぐ手にして見られる…」がキーワードの若者メディア接触の現状【Inter BEE 2016レポート】
FUMIKO SATO
放送はどう変わり、どのように進化するのかをテーマに、広告会社のメディア研究部門が生活者視点で行った最新メディア行動研究結果のセッションをInter BEE 2016にて傾聴した。今回は若年層のメディア接触の現状と、求められるテレビの在り方について考えていきたい。
■若年層の就寝前モバイル行動密着調査から見えてきた視聴行動の分散化
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 メディアビジネス研究グループ グループマネージャー 加藤 薫氏(以下、加藤氏)から、若年層の就寝前モバイル行動密着調査の結果が報告された。まずはその模様を簡潔にまとめてみたい。
●被験者(1)19歳の女子大学生Kさん
就寝前の視聴時間:2時間39分
デバイス:スマホ
モバイル行動:SNSを見ながら、料理やヘアメイクの動画をYouTubeにて視聴。その間もSNSをチェック、LINEを受信すれば即返信と細切れで画面を切り替える。寝る直前にはYouTuberによる大好きなアニメシーンのまとめを視聴し就寝。
加藤氏は彼女の視聴動向を「SNSやLINEなどのコミュニケーション機能を裏で走らせつつ、動画は気分の赴くまま、効率よく面白いところだけを短時間でチェックしようとする傾向があり、スマホも縦のまま利用している」といったポイントを上げた。
●被験者(2)20歳の男子大学生Tくん
就寝前の視聴時間:3時間
デバイス:スマホ、iPad、テレビ
モバイル行動:スマホを操作しながらタブレットで定額制動画(ドラマ)を視聴し、テレビでは録画ドラマを視聴するという3スクリーンを利用。iPad・テレビのドラマはそれぞれ流しっぱなしで、主にスマホ操作にてLINEのやり取り、SNSチェック。就寝直前になるとiPad一台で、幼少期から見ていたアニメを視聴し就寝した。
加藤氏は彼の視聴動向を、「トリプルスクリーンで“見る”より“流す”状態。メインとサブの取り決めがない上、特定のコンテンツを見るでもなく何となく“あたり”で見ている」と指摘した。
今回の調査結果によると、このような就寝前行動は、若年層世代にとっては当たり前だそう。女子大学生で言えば、せわしなく画面を切り替え視聴しているように感じられるし、男子学生についてはスマホばかり操作しiPadにもテレビにも全く目を向けていないように思えるが、彼ら若年層は、無意識のうちに多くのスクリーンを処理できる世代と言えるようだ。
また、株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員 森下 真理子氏(以下、森下氏)からは、「お子さんを持つお母さんにインタビューすると、幼児期からタブレットを手にし、音声で自分が見たい動画を探す、テレビにChromecast(クロームキャスト)でミラーリングした状態で動画を探すといったことが当たり前になっています」と報告。若年層の視聴動向も気になるところだが、さらにデジタル化が進んでいる現代の子供たちが成長したときのことを想像すると、また今とは違う視聴動向が見受けられるだろう。
■若年層は“ながら見”が当たり前
上記、調査結果を受け、モデレータとして進行を務めた株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ 統括責任者 奥 律哉氏(以下、奥氏)は、「テレビ局がゴールデン・プライムと言っている大切な時間が、寝床に取られている」と考察。パネリストの株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長 吉川 昌孝氏(以下、吉川氏)は、「モバイル利用時間は長いが、視聴行動は分散化され、1個のコンテンツを楽しむ時間はものすごく短い」と指摘。それを受け加藤氏からは、「動画もSNSも次から次へという“Chain Viewing”がなされ、視聴行動としてはすべて“従”で“主”がない“Simul Viewing”というのが若年層のキーワードとなっている」と結論を述べた。
すべてのデバイスにおいて“ながら”傾向や流し見が多いことが若年層の特徴であることがわかったが、彼らが本当にじっくりと視聴する環境は一体どこにあるのだろうか。そう問うたとき、『多様化する動画視聴の実態!人々にプレミアム感を与える「テレビ」の現状』でもお伝えした通り、やはり行き着くのはテレビだとパネリスト4者は回答した。
■「そこにある、すぐに見られる」が現代の消費者行動
若年層の就寝前モバイル行動密着調査では、被験者はともに最後は好きなアニメの動画を視聴し、それに寝かしつけられるように就寝へと入っていったわけだが、基本的に初めての動画をモバイル端末で視聴するということはほぼないに等しい、といったデータが出ている。この「繰り返し見ているものを好んで視聴する」という状況を考察すると、コンテンツの寿命は長くなっていると言えるのではないだろうか。
そんな疑問を解消するかのように、生活者がどのようなコンテンツに興味を示すのかという調査結果を加藤氏が報告。今回は利用層と支出層を分けたコンテンツファン消費行動調査を行ったそうだが、それによると従来型放送サービス消費、ライブストリーム消費、モバイルカタログ消費、推し語り消費、従来型2次元コンテンツ消費の5つのスタイルに分類することができたそう。中でも顕著に表れたのが、スマホ・タブレットで大量にコンテンツを消費するがお金は使わない“モバイルカタログ消費層”が増えていることだ。
この現象を見て加藤氏は、「好きだから、流行っているからという理由で視聴するようなコンテンツ主導だった時代が終わり、そこにあるから、すぐに見られるからという理由で、サービスがけん引する消費行動が2015年から見受けられるようになった」と見解を示した。
■生活者に寄り添ったテレビの新たな試み
そこにあるから、すぐに見られるから……の逆説は、そこにないから、すぐに見られないから。だからテレビ離れが進んでしまっているという指摘もあるだろうが、テレビからも消費者に歩み寄りを見せようとしている動きがある。
その一例として挙げられるのが、一部の地域で始まった“タイムシフト・チャンネル”で、本来の編成軸の1時間遅れで番組やCMをそのまま放送するという試みが始まっている。実際、この取り組みを行った結果、+10%以上の視聴率が獲得できたというデータも上がっているから驚きだ。
また、株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部長 美和 晃氏(以下、美和氏)からは、同時配信が実現した場合の視聴時間量は確実に上がる、という試算結果を発表した。こうした視聴者に寄り添う取り組みをより具現化していくことが、テレビの価値を高め、コンテンツの価値を高めることにつながると言えるだろう。
■テレビスクリーンという一番いい環境は廃れない!
今回のセッションを傾聴し感じたのは、どのデバイスが優れ生活者に好まれるかではなく、これからはテレビもタブレット端末もスマホも、すべてを可視化していかなければテレビの価値は高まらないということだ。テレビからモバイルへ、インターネットからテレビへと行き交いながらも、生活者のいるところ、見ているところにテレビのスクリーンが存在し続けることは、どうやら間違いないだろう。
[vol.1]「プレミアム感を与えるテレビが一番いい環境デバイス」と研究結果から判明【Inter BEE 2016レポート】
―セッション参加者―
○モデレータ
・奥律哉氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーションラボ、統括責任者)
○パネリスト
・吉川昌孝氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所、所長)
・加藤薫氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所メディアビジネス研究グループ、グループマネージャー)
・美和晃氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーション研究部長)
・森下真理子氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーション研究部、主任研究員)