“水どう”藤村Dも登壇!テレビは「PRに最適な拡声器」<シェイク!>【前編】
編集部
株式会社IPGの本社(東京都中央区築地)にて、業界関係者が集う「シェイク!Vol.17」が4月20日に開催。今回のテーマ「気になるコンテンツの見つけ方」で、その模様を前・後編で紹介。前編となる今回は、「現代のテレビの役割とは?」という話題をピックアップしてお届けする。
出演者は、『水曜どうでしょう』の生みの親でもある北海道テレビコンテンツ事業室 クリエイティブフェロー/エグゼクティブディレクターの藤村忠寿氏。『デイリーポータルZ』ウェブマスターのイッツ・コミュニケーションズ株式会社の林雄司氏。『注文をまちがえる料理店』発起人のNHK制作局 開発推進ディレクターの小国士朗氏の3名という顔ぶれからもわかるように、チケットは即日完売、「シェイク!」史上最多の参加者が集う中、まさに抱腹絶倒のトークセッションとなった。
■テレビは拡散ツール ~活用法が変わりつつあるテレビの現状~
各々の自己紹介から始めることになった「シェイク!vol.17」だが、それぞれの経歴や事業内容が一言では語り尽せないほど豊富かつユニークであるため、スタートから漫談のようなボケとツッコミの楽しいやり取りが展開。テーマから脱線しながらも、林氏から、「現在は北海道テレビでどのような仕事をしているのか?」と藤村氏に質問をしたところ、「『水曜どうでしょう』のDVDを作っている」と回答した。「テレビ局に入社した当初は、視聴率の高い番組を作ることが仕事だと思っていたが、番組を編集してDVDにしたら何百万本も売れたことから、番組制作でもらうスポンサー料よりもはるかに多い資金調達ができた」と現状を語り、その事例から「テレビには告知機能がある」という結論に至ったと続けた。
小国氏もその意見に同意を示し、「テレビは拡声器である」と発言。それに対し藤村氏も頷き、「要はテレビをどう使うか。拡散するためにいい番組を作ってはいるけれど、その拡散の仕方、利用方法が一辺倒になっている」と指摘した。それに付け加える形で小国氏からも、「テレビが強く、1番だった時代はあったけれど、インターネットの出現により必ずしもそうとは言えなくなった。ならばテレビを拡散のためのツールと捉えてうまく利用するという発想も必要」と続け、「やはり大事なのはコンテンツ」と強調した。
これを受け林氏も、「民放各局で毎年行っている夏フェスも、各局がテレビ放送を利用して宣伝している」と具体例を挙げた。また、『注文をまちがえる料理店』に関しては、「もし同レストランをテレビ番組として制作すると、視聴者には認知症が暗いテーマに受け止められてしまいそうだが、実際に足を運んでみると、認知症の人が楽しく働く場だとわかり、明るい話題になりそう」と、制作者の意図と視聴者の受け取り方の違いやその幅、そして現代におけるテレビの活用法に触れる発言がなされた。
■放送を続けることが重要!
番組終了後の現在でも毎週、『水曜どうでしょう』を放送しているという藤村氏は、その理由を「DVDを販売するため」と語り、「すでに視聴率には関心はなく、放送を続けることで、一人でも多くの新規視聴者を獲得し、DVDの売上につながればいい」と考えていることが伝えられた。
DVD制作の楽しいところは、「昔のVTRをより面白く編集しなおせる点と、テレビのように尺を意識しないで作れる点」で、「テレビの役割が変わってきた今、番組を作り続けること以外にも大切なことがある」と本音を口にする場面も。すると、番組制作のディレクターから番組の“価値を届ける”ディレクター業務に転向した小国氏もその意見に同意し、自身が心臓病を患ったことを機に番組制作をしなくなった経緯が語られた。小国氏は、番組制作をしなくなり、改めて周りを見てみると、「番組作りに携わるスタッフがなんとなくしんどそうにも見えるし、自分自身のことを言えば、番組制作をしていたときは間違いなく苦しかった」と当時を振り返った。
■セオリーは壊すもの!違和感を覚えるくらいのコンテンツが肝
藤村氏は番組制作が苦しい理由を「自分なりの楽しみや面白さを持ち制作に取り組めないからである」と語り、その原因を「テレビ制作が単調になっているから」と分析。それというのも、予算や利益、視聴率といった数字が掲げられてしまうこと、そして、番組制作を始めた先人たちのやり方や知恵を引き継いで、そのセオリーに沿って効率化を図ってきてきたことで、「夕方の番組ならこう」「バラエティ制作はこう」といった先入観や決め付けが制作側にあることが大きいとし、「それをやり続ける以上、現状は変わらないし苦しみは続く」と意見した。
そして、「セオリーは壊していくもので、最初に違和感があるくらいのインパクトがないと目立たない!」と自身の考えを述べ、続けて「横の局と勝ち負けを争うのではなく、作っている側が楽しんでいるかを追求することで、今までとは違う番組制作ができるのではないか」と意見した。そう言えるのも、自身が手がけた『水曜どうでしょう』では、一回の撮影で何週分といった枠を決めない、綿密な予算立てをしない、納期が嫌いだから休みたくなったら再放送を流すといった破天荒な制作現場ではあったが、その奇抜さがヒットにつながったのではないかと語った。
すると、毎日SNSにNHKの番組のエッセンスを凝縮したネット用短尺動画を制作・配信している「NHK1.5チャンネル」の編集長をつとめる小国氏の現在の業務について、林氏から、「(以前の番組制作に比べて)ネットコンテンツの制作は楽しい?」と聞かれると、「それはそれで気を抜くと“作業”になる瞬間があるから辛いなと思うこともある」と小国氏は回答。それから、「1年近く毎日配信していると、最近ではヒットする傾向がほんの少しだけわかってきた」ことから、「ともすると、我々作り手がユーザーの意向にすり寄っていってしまい、コンテンツがどんどん真面目になっていく傾向にある。テレビも昔は色々なことに挑戦していたが、いつしかそれをしなくなっていったように、ネットでも今、同じような動きがあるのではないか」と付け足した。
それを聞いた林氏は、『デイリーポータルZ』のライターには、「真面目な記事は誰でも書けるしワンパターンだから、もっとふざけた記事を書いて欲しい」と常々依頼していることも明かされた。続けて藤村氏も、「台本含め、枠組みがきちんとし過ぎるからトークや内容が薄まる。でも、それがテレビの作り方だと思っている人が多い」と業界の問題点を指摘した。
後編、「“テレビ”を作る発想の変化と進化、固定概念を壊して見出す新たな可能性<シェイク!vol17>【後編】」に続く。