情報のデジタル化から生活のデジタル化へ~メディアイノベーションフォーラム2017(前編)
編集部
博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所は、11月9日に東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスのザ・ガーデンホールにおいて、「メディアイノベーションフォーラム2017」を開催した。昨年度までは「メディアビジネスフォーラム」というタイトルで開催されていたこのフォーラムは、13回目を迎えた今回から“ビジネス”が“イノベーション”という言葉に替わり、スマートスピーカーを始めとする生活面でのイノベーションが急速に進展する時代について紹介された。
この模様を前編・後編に分け、この前編では“生活者にとってのメディア”の役割の変化についてレポートする。
■メディアの定義が変わるというインパクト
フォーラムは、博報堂DYメディアパートナーズ代表取締役社長・矢嶋弘毅氏が「デジタルトランスフォーメーションが進む時代には、メディアの定義が変化していく」ということを言及することからスタート。
同社はこれまで、テレビ・新聞・雑誌・ラジオ・インターネット・アウトドアという6つの大きな枠組みでビジネスをサポートしてきた。しかし矢嶋社長は、「これからは車も家も、人や道路も、あらゆるモノが通信インフラでつながる。あらゆるモノをメディアとして捉えていかなくてはいけない時代に入ってきた」と新たな時代の到来を実感しているという。
またこの状況は非常に大きなビジネスチャンスであると考えていることから、「短期的な収益ではなく、持続的に収益を確保できるプロフィットデザインを作っていきたい」と述べた。
■メディアの価値を、3つの未来で見る
続いて登壇したメディア環境研究所の吉川昌孝所長は、まず「Is it 1995 again?」というワードを紹介。これは今年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト、米国オースティンで開催される音楽・映画・インタラクティブなどの世界最大級のイベント)のあるセッションでのテーマで、ウィンドウズ95が発売され家庭・生活・ビジネスのデジタル化が一気に進んだ年と同じような変化が起こるのではないかとの示唆がなされたという。
そしてすべての位置情報や履歴がデータ化されるビッグデータを制御するAIが登場し、「あらゆる生活領域や産業セクターまでがIoTによってつながり、デジタルトランスフォーメーションが進んでいくのではないか」と続けた。
吉川所長はまた、「このような時代に、これからのメディア環境や価値を捉えるためには、生活のイノベーションに着目して、次の3つの未来から考えるべき」だと提言した。
・技術の未来=技術が可能とするもの。可能性として「あり得る未来」
・生活の未来=生活者が、こういう生活をしたいという「ありたい未来」
・ビジネスの未来=技術の可能性と生活者のニーズを受けた「あるべき未来」
以上の視点で本フォーラムの報告と提言、パネルディスカッションが行われることを説明し、「生活のイノベーションは一つの方向だけではありません。いろんな方向のヒント、仮説をみなさまに提供できれば」と締めくくった。
■未来のメディア環境を見つける~メディアイノベーション調査と海外実態取材から~
メディア環境研究所の加藤薫主席研究員は、未来のメディア環境を予測するため、米国の先進事例と共に、日本と比較して特徴的なサービスが展開されている地域として選んだ中国とタイにおいて実施したメディアイノベーション定量調査と実態取材の結果を公表した。
定量調査では、米国(ロサンゼルス)、中国(上海)、タイ(バンコク)、そして東京において、新しい技術で可能になる6領域(買物支援、健康・運動支援、新しいメディア・情報サービス、VRで生まれるコンテンツ、運転支援、音声操作)の30のサービス項目の興味度について比較した。さらに、同研究所の斎藤葵上席研究員が各国の実態取材について紹介した。
その結果を要約すると、次の通りだ。
ロサンゼルス:広い家という住環境により、家の中のモノや情報の操作・コントロールに対する欲求が高い。
上海:都市生活の確実性と効率性を求め、実空間への個人ログインともいえる技術を活かして、モノや人の移動をスムーズにする欲求が高い。
バンコク:都市や生活インフラが未発達な状況で、くらしを変える様々なサービスに興味を持つ。
東京:個の生活を便利に、楽しくするものに興味が集まる。
斎藤上席研究員は、この結果を受けて「同じ技術をベースにしていても、生活者が置かれている環境や課題によって未来の生活の表れ方が異なる」と分析。
そして加藤主席研究員は、「個人・家の中・都市・社会というそれぞれのレイヤーで未来の生活が表れ、生活のデジタル化をもたらす新しいサービスはこれらの領域とレイヤーのどこかの課題を解決している」とし、それを考えてみることの大切さを訴えて報告編を締めくくった。
■メディアはどうなるのか?~新しい役割を担うアシスタンスメディア~
生活のデジタル化がビジネスにどういった変化を起こすのかについて、加藤主席研究員は「スクリーンの外に着目して考えました」と新たな視点を提示。これまで、情報のデジタル化はメディア業界にとってスクリーンの中でのできごとだったが、これから進む“生活のデジタル化”はスクリーンの外に進んでいく、と。
そして「私たちはこれまでのマスメディア、デジタルメディアに加え、生活者を理解し助けていく新しいメディアの領域『アシスタンスメディア』という領域を考えました」と提言。マスメディアは生活者に新しい何かを知らせてくれる「報」のメディアで、デジタルメディアは生活者自身が探索できる「探」のメディア、そしてアシスタンスメディアは、生活の実行を助けてくれる「援」のメディアなのだと定義した。
このアシスタンスメディアによって、広告やコミュニケーションの姿やあり方は大きく変わる。またこれまでのメディア産業や生活産業とある領域では競合し、ある領域では連携の可能性があるという。
加藤主席研究員は、「この領域は一社単体ではカバーできない。自社と他の産業領域をどう捉えて、どう事業に取り組んでいけば良いのか、新しい発想が求められる」と締めくくった。
後編では、この次のアクションについて議論が行われたパネルディスカッションについてレポートする。