テレビのスマートデバイス化で“ラクチンメディア”が完成する~HAROiDプラットフォームに460万人が登録するその価値(後編)~
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビとインターネットを組み合わせ、O2O2Oのスキームを開発する株式会社HAROiDが独自に構築するプラットフォームのユーザー登録者数は約460万人に上る。大量の視聴者同時参加企画「INTERACTIVE LiVE CM」で実績を作り、能動的なユーザーを広告主と繋げる仕組み作りを加速させている。目指すはテレビのスマートデバイス化。だが、果たしてテレビはアップグレードできるのか。同社代表取締役社長兼CEOの安藤聖泰氏が前編に続いて、インタビューに応じた。
■テレビとネットの組み合わせで地域密着サービスも提供
HAROiDが運営する「HAROiDプラットフォーム」の登録ユーザーは今年4月に400万人を超え、現在460万人を数える(2017年10月10日現在)。同社のID最新状況レポートによると、HAROiDにアクセスしたスマホ端末のID数は1億1154万台。そのうち460万人が「HAROiDプラットフォーム」メールアドレス登録している。性別や年齢、地域などの属性を入力した人数は全体の6割に上り、性別は女性が半数以上を占め、年齢は若年層から50歳代までほぼ均等に年代が分布されているという。またHAROiDが管理しているテレビ端末のID数は806万台に上り、そのうち個人を特定した状態で、テレビとスマホの横断追跡できる数は5万人だ。「テレビを起点とするIDとして国内最大のプラットフォーム」と自負する。
このプラットフォームを構築してきたノウハウを活かし、総務省の「ブロードバンドの活用による放送サービスの高度化に関する調査研究」事業企画のひとつに採択されている検証サービスもある。テレビとインターネットを組み合わせ、地域密着の新たな広告提供モデルや視聴者ニーズに合ったお得情報を提供することによって、地域ニーズに沿いながら地域経済活性化に取り組むものだ。
讀賣テレビ放送と静岡第一テレビの協力を得て、実証事業が行われている。テレビを観るとポイントがもらえ、地元のお得な情報や催事イベントも知ることができ、紹介されたお店や催事イベントでもポイントがもらえる好循環によって、One to Oneサービスの実現を目指す。
「静岡第一テレビとはローカル番組とタイアップし、人気のある北海道展イベント告知でターゲティング広告を試みています。実際に試みた視聴ログによる嗜好性の分析事例では、スイーツ好きのクラスタにスイーツ情報満載のメルマガを送ると、その効果は明らかな結果に。セグメントをしなかったユーザーのメールに対して、CTR(Crick Through Rate)に4倍の差がみられました。
嗜好性の抽出はネットでは当たり前の話ですが、テレビのCMはターゲットに合わせて差し替えることはできません。こうした検証を通じて、危機感を持ったローカル局ができることにチャレンジする手助けになればと思い、取り組んでいます」
来店効果検証ではチラシなどのテレビ以外のイベント告知に比べて、テレビの方が12倍の告知効果があったこともわかった。
「オンエアによって来店を押し上げる効果は明確であり、地方経済に地元テレビメディアが貢献できる余地はまだあることを証明した」とまとめる。
■ローテク統一のインターフェースが結局は広く普及する
テレビ視聴の広告価値を追求しているその先に、何を見据えているのだろうか。「テレビそのものをスマートデバイス化していくことを目指しています」と安藤氏は答える。
「今のところスマホを使ったケースが多いのですが、テレビとネットを繋げるカギはスマホに限るとは思っていません。今はテレビを観ながらリビングにあるものがスマホだから使っているだけです。今後はスマートスピーカーなどもリビングに置かれるかもしれません。例えば、まもなく公開予定ですが、HAROiDではテレビとスマートスピーカーを連携させるテクノロジーを開発し、テレビを見ながら声で語りかけるだけでテレビ放送と連携したサービスを受けられる仕組みを構築しました。スマートフォンを手に持ちながらテレビを見る必要はありません。Amazon Echo 等のデバイスに対して「アレクサ、テレビノートにメモして」「アレクサ、テレビノートを開いてお店をチェック」などと話しかけることで、テレビで放送中のCMの商品やグルメ番組などで紹介されたお店や施設、バックで流れていた曲などを記録し、専用のサイト「HAROiD Note」上で確認することができます」
声だけでテレビの情報をメモ!HAROiD、Amazon Echo対応のサービスを提供
これらの取り組みについては、11月15日から幕張メッセで開催InterBEEのHAROiD出展ブースでも紹介される。
このようなハイテク方面の取り組みを続ける一方、実は安藤氏が一番注目しているのは「テレビリモコン」だという。
「データ放送のdボタンが普及したのも使い慣れたリモコンだからこそ。日テレ『ZIP』のデータ放送企画『ZIP!deポン!』は何年も続けているうちに、連日100万人が参加するようになりました。ハイテクではなく、誰でも触れて、何気に便利なローテクで統一したインターフェースが結局は広く普及していくのです。ただし、スマホにこだわり続けようと思っていない理由はそれだけではありません。テレビ自身がスマート化し、デバイスが高機能化することによって、裏側でクラウド処理し、表は”ラクチンメディア”になっていけば、スマホに頼る必要がなくなるでしょう。個人的にはダブルスクリーンは不健全だと思っていますから」
また、こだわらないのはスマホに限らない。
「通常番組でもネットと連動しながらテレビの価値を追求していきたい」と話す。「より多くの方に興味を持ってもらえるエンタメ番組でもいずれは実証していきたい。CMの成功例を積み重ねていくことで、トリガーを引くことができれば。テレビ局の社員である時は気づいているようで気づいていなかったことも多く、こうして外の立場になって、テレビ局本体はネットに対する理解や知識、リテラシーがまだまだ低いことを実感します。むしろスポンサーの方がテレビとネットの組み合わせの効果に期待し、意識の変化が高いようにみえます。だからテレビCMの使い方が変われば、山が動くと信じています。我々が橋渡しとなって、これからもテレビとネット、流通、ユーザーを繋げていきたいです」
新たな取り組みが期待されるなか、これまで難しいとされていたマスの広告効果測定サービスのリリースを来春に控える。独自技術により、テレビ視聴のログとオンライン上のユーザーを紐づけることで、個人を識別しながらリターゲティング広告を配信するサービスが提供される。ネットの時代にテレビが乗り遅れていることはまだあるようで、技術開発力とサービス発想力のあるHAROiDの出番は続いていきそうだ。
[前編]動画配信だけがテレビとネットの価値を最大化させる手段じゃない~O2O2Oの仕組みを確立、HAROiDが提供するテレビの未来とは?(前編)~