動画配信だけがテレビとネットの価値を最大化させる手段じゃない~O2O2Oの仕組みを確立、HAROiDが提供するテレビの未来とは?(前編)~
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビとインターネットを組み合わせてできることを最大化すること。それを具現化しようとしているのが株式会社HAROiD(本社:東京都港区)だ。オンエアからオンライン、そしてオフラインへと繋げる「O2O2O(オー・ツー・オー・ツー・オー)」の仕組みを確立させた「INTERACTIVE LiVE CM」はその取り組みが評価され、このほど「2017 57th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」にてゴールドを受賞した。着実に成果を挙げているなか、同社代表取締役社長兼CEOの安藤聖泰氏は、今後の事業展開をどのように見据えているのだろうか。テレビ×ネットの連携サービスに長年携わってきた安藤氏が考えるテレビの未来とは何か。
■テレビのリーチ力を繋げるインタラクティブCM
株式会社HAROiDは日本テレビ放送網とクリエイティブ企業のバスキュールが合弁会社として2015年に設立した会社である。日本テレビ放送網で入社以来、地上デジタル放送やワンセグ放送の立ち上げに従事しながら、インターネット関連サービスの企画にこだわってきた安藤氏が、設立当初から代表取締役社長兼CEOを務めている。
冒頭の通り、HAROiD社が目指すのは「テレビとネットの組み合わせを最大化すること」。テレビ局は今、インターネット関連の人材を動画配信に集中しがちだが、「動画配信だけがテレビとネットの組み合わせでできる事業ではないはずだ」と、安藤氏は力説する。
「我々はテレビの価値をインターネットの力でさらに引き出すことを目指しています。『金曜ロードSHOW!天空の城 ラピュタ』の放送でツイート数の世界記録を作った“バルス祭り”が近頃、盛り下がっているという声も聞こえてきますが、“バルス祭り”のようなテレビ放送で生み出すことができる瞬間エネルギーには価値があり、問題はそれをテレビビジネスと密接に関わってきた15秒、30秒の広告の世界に繋げていないことでした。一方で、早くからナショナルスポンサーのネット広告を手掛け、テレビ広告に対抗した企画を成功させてきたバスキュールの代表の朴正義氏は、ネット広告にも足りない何かがあると疑問を持っていました。だから、テレビとネットのそれぞれの弱みを克服すれば新しい価値を生み出すことができるだろうと、一緒にやっていくことになったわけです」
こうして、テレビとネットを組み合わせた広告ビジネスを手掛ける日本で唯一の会社として事業がスタートし、電通とビーマップから増資も受け、2015年9月にはひとつのサービス形態として、「INTERACTIVE LiVE CM」を発表した。
「INTERACTIVE LiVE CM」とは、「全国のお茶の間をリアルタイムに繋ぐ数万人から数百万級のお祭りです」と安藤氏は説明する。スマホを基点に、タップやスワイプ、ジャイロセンサなどを使用しながら、CMと視聴者をリアルタイムに接続させ、“壮大なゲーム”に参加するようなエンターテインメント性の高いCMを作り上げたのが「INTERACTIVE LiVE CM」である。さらに、そのテレビCMからウェブ、店舗までの流れをシームレスに繋ぐO2O2Oの仕組みを整備した。
「テレビCMで興味を持たせても、それを繋ぐ橋渡しがうまく機能していなければ、ウェブ検索すらしてもらえません。“興味”と“サイト来訪”との間には相当、根深い分断があり、店舗にCM商品を置いてもらうことにもハードルがあったりと、テレビCMによるO2O2O展開はポテンシャルがありつつも、課題が多かった。それを複合的に解決していくことで、リアルマーケティングができる仕組みをINTERACTIVE LiVE CMとして発表しました」
■20分で先着6万本のクーポン〆切り
KIRINの事例「絶対押すなよ!氷結ゲット~ダチョウ倶楽部のあの王道ネタにみんなで参加!~」(CM出演:ダチョウ倶楽部)では5社のコンビニチェーンと連携し、CMに参加した視聴者は先着順にコンビニで「氷結」1本を無料で受け取ることができるキャンペーンを実施した。TVCMからコンビニ店頭までの流れを確立させたINTERACTIVE LiVE CMによって、CM中は約600万回のタップを記録、ヤフー検索ランキング2位(2016年9月20日)、約20万件のSNSシェアを獲得。用意した15万本分のクーポンコードはわずか数時間で配布が終了した。
「SNS時代はガラケー時代に比べて事後の盛り上がりが凄い。SNSでシェアされた情報からも参加者が増えていることがデータ上でもわかります。その波及効果を改めて感じました。また好意的なコメントが並んでいたことも注目したい点です。提供したKIRINさん、出演したダチョウ倶楽部さんに対して“ありがとう”といった感謝の言葉が多く投稿されていました。TVCMを通じて視聴者に感謝してもらうことは、これまでにない現象でしょう」
この「絶対押すなよ!」に続き、今年4月には日本テレビ系「踊る!さんま御殿!!2時間SP」と『ぐるぐるナインティナイン」の放送内で「淡麗バブリーキャンペーン」(CM出演:平野ノラ)を展開し、さらに6月には「キリン のどごし スペシャルタイム presents だるまさんが転んだSpecial」(CM出演:波瑠)を実施した。「キリン のどごし」の際はCM放送開始からこれまで最短の20分で6万本のクーポン配布が締め切られるほど盛り上がりをみせた。
■テレビの禁じ手を使って、視聴者参加を促す
成果を出した理由は何なのか。安藤氏は「先着」と「ローテク」、「流通との連携」だと明かす。
「手元のスマホを使って視聴者に参加していただくことの難しさをこれまで痛感してきました。視聴者はクーポンをもらうためにテレビを観ているわけではありません。どうしたら企画に参加してもらえるのか考えた結果、テレビの禁じ手を使うことに。それは“先着”です。“抽選”よりも早く申し込めば確実に手に入ることが可能な“先着”にすることで、参加者の熱量を上げることに成功しました。
ゴールデンタイムの時間帯の場合、仮に“抽選”だとしてもアクセス集中によるシステム負荷は膨大であるにも関わらず、先着となるとそのアクセスピークは数倍から数十倍になります。その上で、“抽選”の場合は、一旦応募を受け付けておいて、後ほど当選者に連絡をすれば良いにもかかわらず、“先着”の場合は正確に応募順位を特定し、直ぐさまメールでクーポンを送り返す必要があります。このハードルの高さが従来では実現不可能とされ“禁じ手”としていた理由です。しかし私たちは技術的にこの高いハードルを安定的に乗り越えることが可能となりました。またクーポンコード引き換えまでのプロセスを敢えてローテクにしたこともポイントでした。技術を使えば、いくらでも簡素化することも可能ですが、手元のスマホで自ら検索してもらうことにこだわりました。これがヤフーの検索ランキングを上昇させ、SNS上でシェアされるきっかけになったと分析しています。それから、何より流通との連携も大きかった。スポンサーとコンビニがパートナーとなって連携したかたちはこれまでないやり方です。バラバラだったつながりがKIRINさんの協力によってシームレスに繋げることができました」
他にも、KDDIの1社提供でHAROiDとBSジャパン、バスキュールの4社共同で「流星放送局プロジェクト」の展開も実施された例もある。1年で最もたくさんの流星が降るとされる「ふたご座流星群」のピークに近い日の昨年12月、検知した流星の情報をスマホやテレビへリアルタイム通知し、「流星×スマホ×テレビ」が連動する体験を届けた。
ここで安藤氏に「テレビとネットを繋げるカギは今のところスマホにあるのか」と投げかけると、「スマホにこだわるつもりはない」という答えが返ってきた。これまで取り組んできた事例は身近なスマホをうまく利用しているのだが、どういうことか。後編ではその理由と共に、安藤氏が考えるテレビの未来について触れていく。
テレビのスマートデバイス化で“ラクチンメディア”が完成する~HAROiDプラットフォームに460万人が登録するその価値(後編)~