ファクトベースで創出!“テレビ”を輝かす新しい企画の作り方
編集部
異なる業界からスペシャリスト3名を集めて繰り広げる白熱のトークセッション「シェイク!Vol.13」が、株式会社IPGの本社(東京都中央区築地)にて10月20日に開催された。今回は過去2回、開催した企画の第3弾。テーマは、「どうしたら作れる、面白い企画」だ。
出演者は、昨今話題となっている番組『池の水ぜんぶ抜く』シリーズの仕掛け人、テレビ東京プロデューサーの伊藤隆行氏。5歳の息子が自分の作品の値付けをして販売するWeb美術館「5歳児が値段を決める美術館」で注目を集めたアートディレクター/プランナーの佐藤ねじ氏。「ぷよぷよ」の生みの親で、アナログゲームの創作やライターなどマルチな顔を持つ、ゲーム作家の米光一成氏の3名だ。
面白い企画はどのように着想されるのか?
各業界のヒットメーカーである3氏は、ヒットを生む、面白い企画をどのように着想しているのだろうか?
まず、米光氏は現在「ヘモグロビン(仮)」という新たなゲームを構想中であることを明かした。「ヘモグロビン」という言葉を発すると、なんだか「口が気持ちいい」「言うだけで楽しくてしょうがない」という直感的な発想が出発点だ。「『ヘモ』『グロ』『ビン』を口にしながら書かれたカードを出していくんでしょうね、きっと。完成イメージがあるので、あとはそこを目指して試行錯誤していくだけ。なんだけど、悩みに悩んでいます」と米光氏は語る。思わず口にしたくなる言葉からゲームの構造を作っていくという発想術に彼ならではの独自性を感じさせる。
続いて伊藤氏は「ヘモグロビンをテレビ的に発展させるとしたら?」という話題の流れで、伊藤氏なりの番組作りのプロセスについて紹介した。
①上野公園の中にある老舗の日本料理店を訪れた
②そこで、上野公園に西郷隆盛の銅像があることを思いだし……
③調べているうちに、こういった著名人の銅像は全国に約4000体あることがわかった
④いろいろ銅像を調べていくには、全国に足を運ばざるを得ないだろう
⑤この銅像巡りは、立派な歴史バラエティーができる!
このようなプロセスで伊藤氏の番組は作られるという。「上野公園内の日本料理店にある西郷隆盛の銅像」には、壮大な歴史バラエティーにつながるアイデアが秘められているのだ。
「テレビは展開も大きく、内容も伝えられます。そこから何を皆さんにお伝えするのかを考えると、ワクワクします」と伊藤氏は話す。
一方、佐藤氏の場合は、実際に存在するものをリサーチするのではなく、個人の妄想を突き詰めて着想するという手法が多いとのことだ。
「『銅像』って、なぜか両手を広げて止まっているように見えるものが多いと思うんです。メデューサと目を合わせたから石化したとか色々な物語があって今、ここに銅像があるという設定にするかな」
と銅像のビジュアルを用いてARコンテンツと絡めて遊んでいくアイデアを披露した。
そして佐藤氏は、伊藤氏の着想が“ファクトベース”であることに注目し、発想の方向性に自身と違いがあることを指摘した。つまり、テレビのコンテンツは真実をベースにしているのである。
そんな佐藤氏の発言に対して、伊藤氏は「確かに結構、事実ベースですね。その辺に転がっているけど、全然知らなくて通り過ぎているようなものを拾い集める方にいくかもしれない」と答える。
『池の水ぜんぶ抜く』も、まさにファクトベースで創出された新しい企画の成功例であるといえよう。
「そんなに狭いところにフォーカスを当ててやることがなかったですが、やってみると奥が深い。年齢もあるのかな、最近はそういうことを考えますね」。
企画の受け手側は、何をポイントにジャッジすべきか
続いて、恒例の質疑応答コーナーに移る。
まず、客席からは「企画書を受け取る側の採用ポイントは?」という質問が。
伊藤氏は「難しい質問ですね~」と唸りながらも、企画書を受け止める側の目線から真摯な面持ちで発言する。
テレビ東京の企画書は、表紙にタイトル・デザイン画・企画提出者の名前を記載するなどフォーマットが決まっているが、伊藤氏がジャッジのポイントとしているのは「表紙のパンチ力」だ。つまり、タイトルをパッと見た瞬間に「自分の気持ちがどう動くか」である。テレビ番組表のラテ欄では、番組タイトルだけでいかに視聴者の想像を掻き立て、興味を誘うことができるかが重要だという。
「一目惚れしてしまうタイトルもあります。しかし、多少つまらないタイトルだとしても、もっとこうしたら面白くなるかもと想像して、一緒に制作したくなるようなものを選びます」と伊藤氏は語る。
伊藤氏が『池の水ぜんぶ抜く』の企画を提出した時、当初、上層部から反対意見が多かったという。それは逆に、それだけ「気になるもの」であったという証拠でもある。「こんなのをやられたら困ると思わせるタイトルをつけた企画書の勝ち」と伊藤氏は分析する。
「企画の保険」は禁止!視聴者が想定外の番組を創りたい
シリーズ第5弾の放送が期待されている『池の水をぜんぶ抜く』。反響の大きさを実感した伊藤氏が感じているのは「まだあったな、テレビ」という大きな手応えだ。
テレビ業界は放送開始から70年。その歴史の中で、スキルは進化しているが、着想に関しては諦めモードに入っていると伊藤氏は指摘する。すでに企画は出尽くしており、キャスティングなど方法を変えて新鮮に見せるというのが、近年のテレビ番組の作り方になってしまっているという。
伊藤氏が一番嫌う業界用語は、視聴率を担保するという意味で「企画の保険」だという。「その考え方はテレビ東京では禁止です。同時にテレビ東京らしいものも禁止しています。“テレビ東京でしかできないもの”をやりましょう! と近々、局内に通達する予定です」と伊藤氏は語る。
「これからも視聴者が想定外の企画を、ある程度大ぶりでもいいから保険をかけないでやっていきたい」と決意を固めた伊藤氏。作り手の意識改革が、テレビをより一層輝かせるために求められているといえるだろう。
尚、次回(11月27日)の「シェイク!Vol.14」は、「今」をテーマに、竹中 功氏(株式会社モダン・ボーイズCOO/謝罪マスター/著述家)、野村 和生氏(フジテレビ 総合事業局 コンテンツデザイン部 部長職)、谷口 マサト氏(LINE株式会社 チーフプロデューサー)が出演する。