TBS日曜劇場『御上先生』スピンオフショートドラマ『御上先生には内緒。』が見せるマルチスクリーン展開の新機軸 〜担当者インタビュー~
編集部
左から)伊吹(伊吹とよへ)氏、米永圭佑氏、中西真央氏、藤原倫太郎氏
TBS日曜劇場『御上先生』が、スピンオフショートドラマ『御上先生には内緒。』を配信。同ドラマの公式TikTokアカウントをはじめ、ショートドラマ専門プラットフォーム・UniReel、TVerなど複数のプラットフォームで展開され、新たな視聴者層の開拓を目指している。
同局では初というショートドラマ配信の取り組み。その背景にある狙いとは。ドラマ本編と並行しての制作の現状や手応え、今後への展望を担当者に伺った。
■プロフィール紹介
中西真央氏
株式会社TBSテレビ コンテンツ制作局 ドラマ制作部所属。日曜劇場『御上先生』プロデューサー。ショートドラマ『御上先生には内緒。』を企画・制作。
藤原倫太郎氏
株式会社TBSテレビ コンテンツ戦略本部 総合プロモーションセンター プロモーション部 兼 プラットフォームビジネス局 CSメディア事業部、新規IP開発部所属。『御上先生』の地上波・TVerでの視聴を促すプロモーションの一環として『御上先生には内緒。』を企画立案。
米永圭佑氏
株式会社QREATION 代表取締役・StudioQエグゼクティブプロデューサー。縦型ショートドラマ、IP開発、デジタルコンテンツ制作に関わる企業として『御上先生には内緒。』の企画とプロデュースに参加。
伊吹(伊吹とよへ)氏
株式会社QREATION 取締役・StudioQクリエイティブ統括。『御上先生には内緒。』演出と脚本を担当。自身もクリエイターとして活動する。
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TikTokでスピンオフショートドラマ『御上先生には内緒。』を見る
■ターゲットの若者層に対する「視聴への入口」としてショートドラマに着目
──TBSでは初めてのスピンオフショートドラマ制作となりましたが、そのきっかけについてお聞かせください。
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中西氏:スピンオフというと、これまでもTBSドラマでは、有料プラットフォーム限定でオリジナルコンテンツを多く制作していたのですが、今回は学園ドラマのスピンオフということで、とくに若年層との接点を増やしたいと考え、かねてその勢いに注目していた「ショートドラマ」を制作してみようと思いました。
「日曜劇場」という枠は固定のファン層に長く厚く支えて頂いている一方、若い方々たちに見ていただきづらいという面もありました。ただ、長い年月をかけて築き上げてきた枠としての強さには自信がありましたし、今回は作品の内容としても若い方々に届いてほしい要素が多かったので、その層への間口を広げようと。しっかりした土壌だからこそ、新しいチャレンジに対しても寛容な空気があったことも背景としては大きかったです。
藤原氏:マーケットインの視点からショートドラマの流行に注目し、日本だけでなく海外でもホットな市場であると捉えていました。まだまだ成長の余地がある分野だと考える一方で、作品の持つ力をより引き出す方法を模索していたところ、今回の企画相談の話を中西からもらいました。社内にノウハウが全くなく、設計や制作方法などすべて手探り状態からスタートしましたが、しっかりと視聴される形を確立できれば、従来の地上波放送やTVer、U-NEXTといった配信プラットフォームでの本編視聴にもつながる施策になると考えました。
中西氏:今回の『御上先生』の見どころのひとつが、生徒役を務める29名の個性豊かな若手キャストたちです。ターゲットである若年層に届き、かつ気軽に視聴してもらえる形を考えた際、彼ら彼女らにスポットを当てたショートドラマをTikTokなどのSNS上で展開するのが良いのではないかと思い、企画を組み立てていきました。
──TikTokをはじめ、TVerやUniReelなど、様々なプラットフォームへ展開されていますが、そこにはそれぞれどのような狙いから選定されたのでしょうか。
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藤原氏:まずTikTokについては、ロジック面でも詳しいメンバーをチームに擁していたことから、しっかり組んでいこうと考えました。さらに「横型画面でもしっかり見せたい」という話が上がり、TVerでも配信することにしました。またUniReelについても、縦型ショートドラマのプラットフォームとして『日本のショートドラマ市場を創っていく』という挑戦に賛同した事をお伝えしたところから、ご協力を頂ける事になりました。
中西氏:TVerでの配信については、日頃からテレビに接する層の方たちにも知っていただき、ドラマへの関心を持っていただくきっかけにしようという狙いもありました。実際、TikTokを使用していない私の母親から「TVerで見た」と連絡をもらい、その効果を実感しました。笑
■ジャンプカットは使用せず、ショート動画でも没入してストーリーを楽しめる構成に
──今回のショートドラマでは、シリアスな雰囲気を持つ本編とは対象的に、29名の生徒たちのクスッと笑える日常風景が描かれている点がとても印象的です。制作サイドとして、どのような狙いを持って取り組まれましたか?
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米永氏: TikTokやショート動画ならではの特性を活かして、普段テレビをあまり見ない若年層の方々にも作品や生徒の皆さんの魅力を伝えたいという狙いがありました。ショート動画は拡散力が高く、認知を広げるのに適しているため、より多くの人に作品を知ってもらうきっかけになればと思いました。
本編は、重厚なテーマで緊張感のあるシーンが多く含まれているからこそ、スピンオフでは、ドラマ本編では描ききれない生徒役キャストの皆さんの素敵な個性や、学園モノならではの楽しい日常の雰囲気を感じていただけるようなコンテンツをお届けしたいと考えました。そうしたコンテンツが一つのきっかけとなり、視聴者の皆さんに作品をより身近に感じていただければと思っております。
──ショート動画ならではの文法を取り入れる上で、工夫された点や狙いについて教えてください。
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伊吹氏:特にこだわったのはテンポ感です。最近のショート動画ではテンポを速めるのが主流ですが、今回はあえてそれに倣わず、演者さんの表情や感情をじっくり伝えられるようにしました。素晴らしいキャストの方々が揃っていたので、視聴者の皆さんはしっかり最後まで見てくれるだろうという確信がありました。そのため、テンポを極端に早めることなく、自然な流れで物語を楽しめるよう設計しました。
具体的には、ショート動画にありがちなジャンプカットは用いず、シンプルな起承転結のストーリーと学校での「あるある」ネタを取り入れることで、誰もが共感して楽しめるテーマと編集を意識しました。
例えば、初回では「テストで名前を書き忘れる」という誰もが一度は身近に体験したことがある設定にすることで、生徒たちの日常感を演出しました。
@mikamisensei_tbs 『 #御上先生には内緒。 』 4限目「本命or義理?」 〈出演〉 徳守 陣 役 #八村倫太郎 (@八村倫太郎/ Rintaro Hachimura ) 櫻井 未知留 役 #永瀬莉子 伊原 宙 役 #渡辺色 (@色 ) 川島 圭祐 役 #藤本一輝 #日曜劇場『 #御上先生 』ドラマ本編はTVer・U-NEXTで無料配信中✨ 〈プロデューサー〉 中西真央(TBS)/藤原倫太郎(TBS)/米永圭佑(QREATION) 〈脚本・監督〉 伊吹(伊吹とよへ)(QREATION)/小森裕己 〈制作著作〉 TBSテレビ 〈制作協力〉 QREATION( @株式会社QREATION ♬ オリジナル楽曲 - 「御上先生」日曜劇場【公式】
■本編の現場でショートドラマも並行撮影「さながらパラレルワールドのような面白さ」
──撮影機材や、技術面で工夫された点についても教えてください。
米永氏:ショートドラマの撮影機材自体は通常のドラマと大きく変わるわけではありませんが、今回は特にカメラの使い方にこだわりました。具体的には、一眼レフなどの本格的なカメラを縦型にして撮影しています。スマホで撮るのではなく、あえて高品質なカメラを使用することでリッチな映像表現を実現しました。また、絵取りの観点でも、出演者の皆さんの素敵な芝居や空気感を、スマホで見たときに、どうすれば最も魅力的に伝えられるかにこだわって撮影させていただきました。
中西氏:この撮影スタイルは、現場にとっても大きな刺激となりました。縦型動画ということでカメラもモニターもすべて縦になっているのですが、その光景自体、これまでのドラマ現場にはない光景で、直接制作に携わるスタッフ以外もみんな興味津々といった様子でした。
撮影方法自体が新しい挑戦だったため、QREATIONのみなさんの助けを借りながら進めさせていただきましたが、TBSとしては非常に学ぶことが多く、通常のドラマ制作とは異なる面白さを感じながら取り組めたと思います。
──ショートドラマの撮影はどのように行われましたか?
中西氏:本編を撮影する裏で、別班としてショートドラマの撮影を並行して進めていました。本編の外観や廊下のロケ地として実際の学校をお借りしているのですが、ショートドラマも同様にそちらの学校をお借りして撮影させていただきました。
撮影現場では壁一つ隔ててまったく別々のストーリーが動いていて、なんとも不思議な気分でした。本編の撮影現場では生徒役以外の俳優陣がシリアスな演技を繰り広げる一方、ショートドラマの撮影現場では生徒役のキャストが元気に飛び跳ねたり、走り回ったりしているという、さながらパラレルワールドの様相でしたが、そんな様子をキャスト陣も面白がってくれ、作品全体の面白さや魅力につながっているようにも思います。
■ショートドラマは、作品の魅力を直感的に伝える「注目のウィンドウ」
──今回の施策を通じて感じた、ショートドラマという形式への魅力をお聞かせください。
伊吹氏:「サクッと見られる」という利点を持つショートドラマですが、豪華キャストの皆さまとかけ合わさることで、若い世代の方々にとっても一瞬で感情移入して楽しめる上質な作品になるんだと強く感じました。エンターテイメントの可能性は無限大ですね。笑
中西氏:短い時間で何度も繰り返し見ていただく仕組みであることから、画面に釘付けとなって作品に強く没入していただきやすく、さらに動画の最後に「TVerで配信中」や「夜9時放送中」といった告知を入れることで、より長尺のドラマへスムーズに誘導できるという可能性を強く感じました。SNS時代ならではの視聴導線の作り方であり、テレビドラマとデジタルコンテンツの新しい関係性が生まれていると思います。
米永氏:ショートドラマにはリアルタイムで視聴者からコメントが寄せられるため、視聴者がどこでどのように感じられたかが即座にフィードバックされます。コメントを見ていると、出演者の魅力や登場人物同士の関係性、物語の深みといったものを「こんなふうに楽しんでくれているんだ」という発見がありますし、初めて動画を見る人にもそれが直感的に伝わるという点が魅力だと感じました。
藤原氏:ショートドラマは、出演者の演技や素の表情をより魅力的に伝える「注目のウィンドウ」として機能すると、今回の施策を経て感じました。実際、欧米や中国でも同様の流れが見られており、作品自体のクオリティや制作方法の進化にもつながる可能性を感じました。