TBS・WOWOW共同開発「Live Multi Studio」米CES2025出展 担当者インタビュー
編集部
「Live Multi Studio(LMS)」のピッチを行う永山氏
TBSが2025年1月7〜10日(※現地時間)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー展示会「CES 2025」に出展。WOWOWと共同開発した映像・音声・制御信号伝送ソフトウェア「Live Multi Studio(LMS)」の展示とピッチを行った。
LMSは、TBSとWOWOWが共同開発した、映像・音声・制御信号伝送ソフトウェア。一般的なインターネット回線を用いて放送局クオリティーの映像伝送を行うことができ、TBSのテクノロジービジネスを牽引する製品だ。
同ソフト最大の特徴は、1つの帯域から「超低遅延映像」と「遅延ありだが安定した高品質な映像」を作ることができる特許技術「Multi Latency」機能。ポート開放が不要で簡単に接続できるほか、タリーなど制御信号の送信にも対応し、映像制作分野をはじめ、VTuber事業、イベントやメディアアート、機器遠隔制御等多くの分野から注目を集めている。
現在はmacOSアプリ、iOSアプリに加え、マルチメディアプログラミング環境「TouchDesigner」のプラグイン形式で公開中。2024年11月からは新たにWindows対応のベータバージョンも公開されている。
今回は、実際にCES2025への出展を担当した株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局テックビジネス推進室長 中野 啓氏、同局未来技術設計部 永山知実氏にインタビュー。昨年出展した世界最大級のインタラクティブ見本市「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)」に次ぐ新たな場所としてCESへの出展を決めた経緯と、その手応えを伺った。
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■「LMSの映像伝送技術を放送以外の分野にも」CESへの出展に踏み切った経緯
――今回CESへの出展を決められた経緯についてお聞かせください。
中野氏:これまでTBSはSXSWに出展していましたが、我々のLMS技術をよりグローバルな視点で評価してもらうことを目指し、テクノロジーの見本市として世界的に認知されているCESへの出展を決めました。
永山氏:エンタメ色が強く、映画や音楽などのコンテンツがメインのSXSWに対して、CESはより広い分野の最新技術が集まる場となっています。LMSの映像伝送技術を放送以外の分野でも活用できる可能性を探るためには、CESが適していると考え、出展に踏み切りました。
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――お二人がそれぞれ担当された役割、取り組まれたポイントは?
中野氏:今回は責任者として、出展の管理と視察を兼ねた役割を担いました。CESに初めて出展するということで、TBSのテクノロジーをどのようにアピールできるか、模索しながら進めました。
永山氏:LMSのビジネス面を担当している関係から、今回のCESでは展示企画やブースでお客様とのコミュニケーションを担当しました。来場者との対話を通じて多くの学びがありました。
――今回の具体的な展示内容についてお聞かせください。
永山氏:今回はLMSに特化した展示ということで、モニターでサービス紹介ムービーを流しながら、デモンストレーションとして東京のTBSに設置したカメラをゲームコントローラーでリアルタイムに遠隔操作できる仕組みを展示し、遠距離でも低遅延で高画質な映像を伝送できることをアピールしました。
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――来場者の反応はいかがでしたか?
永山氏:4日間の会期中、650名以上の方にお越しいただきました。興味深かったのが、その半数以上が映像制作とは異なる分野の方々であったということです。異業種の方も含めて決裁権を持つプロの方々と具体的な商談をさせていただく機会も多く、新たなビジネスの可能性を感じました。実訪問以外にメディア露出もあり、TBSのグローバルな取り組みをPRする場になったと思います。
中野氏:CESというだけあってテクノロジーに詳しい来場者の方が多く、具体的なディスカッションをすることができました。中には「この技術はこういう使い方もできるのでは?」と提案してくださる方もいて非常に有意義な場となった一方、グローバル展開を進める上で整えなければいけない部分が多々あることも実感しました。
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――今回の出展は視察も兼ねてということでしたが、CES全体の印象はいかがでしたか?
永山氏:「AI」という言葉があちこちのブースから聞かれたのが印象的でした。サムスンが「AI for All」というスローガンを掲げ、掃除機やヘルスケア製品までさまざまな企業によるAI搭載製品が登場するなど、AI分野の成長がトレンドとして際立っていました。
中野氏:サステナビリティ分野の進展も顕著で、ENEOSのデータセンター向け冷却装置や、環境に優しい紙のバッテリーなど、興味深い技術が多数展示されていました。特に韓国ブースの盛り上がりが印象的で、国全体としての勢いを感じた一方、日本のスタートアップも技術力の高さが際立っていました。CES全体を通じて、AIとサステナビリティが今後の主要トレンドであることを強く感じました。
■民放連賞&Tech Direction Awards W受賞 開発プロセスや技術ディレクションも評価
――2024年、LMSは「日本民間放送連盟賞 技術部門 最優秀」ならびに「第1回 Tech Direction Awards デジタルサービス部門 SILVER」など数々の賞を受賞しました。これらを振り返っての感想をお聞かせください。
中野氏:放送業界のプロフェッショナルからの評価を得たという点で、民放連の最優秀賞を受賞したということは開発者やチームメンバーにとって大きな自信につながりました。業界内での認知度や信頼性も向上し、「民放連で紹介されていたLMSですよね」と言われるなど、受賞が広く知られるきっかけにもなりました。
永山氏:Tech Directionの受賞も重要な成果でした。このアワードは特定の業界に限定されず、クリエイターやメーカーなど異なる分野の専門家とLMSを共有する機会となりました。LMSの技術そのものだけでなく、開発のプロセスや技術的なディレクションが評価された点も意義深いと感じています。これらの受賞によって開発チームの士気が向上し、技術の価値を再確認できる機会となりました。
――放送業界をはじめ、今後どのような領域でLMSを活用できそうでしょうか?
永山氏:自動車関連産業やメーカーにおける工場機械の遠隔操作などにも活用できると考えています。操作以外の用途としてはリアルタイムでの映像監視、遠隔地の双方向コミュニケーションなどに応用できる可能性があります。
中野氏:DX促進の面でも活用できると考えています。現在はZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsなどのツールを活用してリモート会議が行われていますが、会議室同士をつなぐ際には大画面モニターを使用することが多く、それに見合った高画質の映像も求められています。ここでLMSを導入することで、高解像度かつ遅延の少ない映像伝送が可能となり、より臨場感のある会議環境を実現できると期待しています。
――国内でLMSを体験できる場所はありますか?
永山氏:共同開発元であるWOWOWと連携し、個別にご体験いただけるデモの機会をご提供しています。興味のある方はぜひお問い合わせいただければと思います。
――最後にメッセージをお願いいたします。
永山氏:LMSは昨年11月末に有償化を開始し、Windows版のベータ提供も始めました。今後はSDKの提供や専用ハードウェアの開発など、新たな展開も予定しています。まだまだ進化の途中ですので、映像業界のみならず多くの業界の方々と連携しながら、新たな価値を提供していければと思います。
中野氏:TBSがテクノロジー事業に取り組む目的は、単なる利益追求ではなく、社会課題解決への貢献にあると考えています。今後も新しい技術を積極的に発信していきますので、ぜひご注目ください。