家庭向けマイクロLEDテレビがいよいよ登場!?「CES2025」で見た“次世代テレビ”
IT・家電ジャーナリスト 安蔵靖志
2025年1月8日から11日にかけて、米ネバダ州ラスベガスで世界最大級のエレクトロニクス関連見本市「CES 2025」が開催された。自動車メーカーだけでなく、ソニーと本田技研工業のジョイントベンチャーであるソニー・ホンダモビリティがEV(電気自動車)を出展するなど注目度の高い技術が移り変わってはいるものの、リビングの中心にある大型テレビも年々進化を遂げている。
2024年に開催された「CES 2024」では「透明テレビ」や「折りたたみ式テレビ」などが登場したほか、液晶テレビの高輝度化が注目された。「CES 2025」ではどのような進化を遂げたのだろうか。
サムスンとLGの2社が「透明テレビ」をアピール!「CES2024」で見た“次世代テレビ”まとめ
■明るい液晶テレビに対抗し、有機ELテレビも大幅に高輝度化を実現
CES 2024ではハイセンスが最大10000nit(ニット)を実現した110インチの量子ドットミニLED液晶テレビ「110UX」、TCLが最大5000nitを実現した115インチの量子ドットミニLED液晶テレビ「QM891G」を発表したが、それに対抗してサムスン電子とLGエレクトロニクスが最大4000nitを実現した有機ELテレビを発表した。
液晶テレビはバックライトにLEDを用いることから、有機材料を発光させる有機ELテレビに比べて高輝度化が比較的容易に行える。ただし有機ELテレビは画素一つひとつが発光する自発光タイプのため、液晶テレビのような光漏れがなく高コントラスト化しやすいメリットがある。有機ELテレビは焼き付きが怒りやすいというデメリットもあるため、「明るくて焼き付きしにくい液晶テレビ」か「比較的暗くて焼き付きしやすいけどコントラストが高くて画質が良い有機ELテレビ」という棲み分けがあった。
サムスン電子の子会社であるサムスンディスプレイがCES 2025に先がけて発表した独自有機ELパネル「2025 QD-OLED」は、高度なパネル駆動技術と新たな有機材料を採用したことで、前年度に発表したQD-OLEDパネルから約30%明るさが向上し、ピーク輝度4000nit超えを実現した。
LGエレクトロニクスは4K有機ELテレビ 「OLED evo TV」の最新モデルとして、映像・音声のワイヤレス伝送に対応した「M5」シリーズ、ハイエンドモデルの「G5」シリーズなどを発表した。
進化した「Brightness Booster Ultimateテクノロジー」を備えており、光制御アーキテクチャと光ブーストアルゴリズムを強化した。これらのシリーズは「第4世代OLED(有機EL)テクノロジー」を採用しており、第3世代有機ELパネルの発光層を赤と緑の層に分離した「プライマリRGBタンデム」を採用することで色の明るさが約40%増加(2100nits)し、ピーク輝度は33%向上して4000nitsを実現したとのことだ。
第4世代有機ELパネルは2024年に約10年ぶりに米国市場に再進出したパナソニックのフラッグシップテレビ「Z95B」シリーズにも採用されており、パナソニックが独自に開発したパネル冷却システム「サーマルフロー冷却システム」を搭載することで放熱性を向上している。
■ハイセンスが136インチの家庭向けマイクロLEDディスプレイを発表
ハイセンスが世界初のコンシューマー向け136インチMicroLEDディスプレイ「136MX」を発表した。マイクロLEDパネルがバックライトを数百から数万のブロックに分けて部分駆動することで高コントラスト化しているのに対し、マイクロLEDパネルは画素ごとにLEDを配置することで有機ELパネルと同様の自発光型パネルとなっている。
ハイセンスの136MXは実に2488万3200個(横3840×縦2160ピクセル×3原色)の自発光型LEDを搭載し、コントラスト比は100万:1、最大輝度1万nitsを実現。色域もBT.2020規格の約90%をサポートしており、鮮やかで忠実な映像を再現できるとしている。
2025年中に発売予定で価格は不明ですが、一応「手ごろな価格で入手できる形で提供する」とのことだ。家庭向けといっても富裕層向けではあるだろうが、今後高輝度化・高画質化したマイクロLEDテレビが普及していくことを期待したい。
TCLの子会社であるTCL CSOTも163インチのマイクロLEDディスプレイを参考出展した。日本でもハイセンス傘下のTVS REGZAが2023年3月に100インチ量子ドットミニLED 4Kテレビを発売し、2025年2月にはさらに大型の110インチ量子ドットミニLED 4Kテレビを発売する予定になっている。世界的にテレビの大型化が進んでいる中で、近いうちに163インチもの大型テレビも発売されることになるのかもしれない。
■AIで音声を調整したり、見たいコンテンツを提案
CES 2025ではAI(人工知能)の積極的な活用をアピールする企業が多かったが、その中でもAIをテレビの音質調整やコンテンツ提案への活用を表明したのがLGエレクトロニクスとTVS REGZAだった。
LGエレクトロニクスは基調講演の中で、人の声を好みに合わせて調整したり、コンテンツを提案してくれたりする「AIサウンドレコメンデーション」を発表した。マイクロソフトの生成AI「Copilot」を活用しており、声によってユーザーを認識する「Voice ID」でパーソナライズすることでその人の好みに合わせて設定を変更するとのことだった。
TVS REGZAが参考出展したのが、AI技術によってユーザーが見たいコンテンツを提案する次世代技術構想「レグザインテリジェンス」だ。「AIボイスナビゲータ」に自然かつあいまいな会話で語りかけても、その人が見たいコンテンツにたどり着けるように提案してくれるというものだ。
TVS REGZAは、AIによって人の声と環境音を分離することで、その人が聞きたいサウンド環境を作り出してくれる「AIオーディオリミックス」も展示した。環境音を抑えて人の声を強調するボイスモードや、環境音を強調して実況音声をわずかだけ残すスタジアムモードなどをデモしていた。
AIは既に高画質化に活用されているが、音質(聞きやすさ)の向上にも活用できるというのが興味深い。確かに写真に写り込んだ人やものをAIで消去する技術なども実用化しているため、アイデア次第で今後AIが活躍する機会は増えそうだ。画質面では正統進化した感のあるCES 2025だったが、今後はどのような機能向上にAIが寄与していくのか要注目だ。