テレビにとってリテールメディアは敵か味方か?~テレビとの親和性を探る~ InterBEE2024レポート
編集部
左からNEC深田航志氏、北陸朝日放送 伊藤祐介氏、ゲート・ワン 速水大剛氏
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2024」を2024年11月13~15日にかけて幕張メッセで開催。昨年より約2,100名多い33,853名が来場した。
本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。今回は11月13日に行われたセッション『テレビにとってリテールメディアは敵か味方か?~テレビとの親和性を探る~』の模様をお伝えする。
電通が発表した「2024年の世界の広告費」では、デジタル広告費が引き続き高成長を維持し、シェアが58.8%に達するという予測が出た。中でもリテールメディアの予測成長率は20.8%と大きく、SNSや検索連動型広告をもしのぐ勢い。特に米国では小売大手のウォルマートをはじめ、消費者の購買行動とブランドのマーケティング戦略に大きな影響を与えるメディアとして位置付けられている。
本セッションでは、リテールメディアの先端を行く米国での動きを参照しつつ、リテールメディアと相性が良いとされるテレビ連動マーケティング戦略の事例を紹介。人口減少を迎えるこれから日本において、より効果的なマーケティング媒体としての期待が高まるリテールメディアの最新動向と展望をひもとく。
パネリストは、株式会社ゲート・ワン 取締役COO 速水大剛氏、北陸朝日放送株式会社 エリア・イノベーション推進局 部長 伊藤祐介氏。モデレーターを日本電気株式会社 CIBUメディア統括部 MEグループ シニアプロフェッショナル 深田航志氏が務めた。
■2027年には1兆円規模へ 成長するリテールメディア市場の構造とビジネスモデル
最初に深田氏が、リテールメディアの市場規模について紹介する。2023年時点で3625億円だった市場は2027年には9300億円へと成長し、約1兆円規模になると予測。「国内のリテールメディア広告市場規模は3600億円程度で、アメリカの大手小売業・ウォルマートのリテールメディア売上とほぼ同じ規模。アメリカのリテールメディア広告市場規模は8兆円あるが、そのほぼ8割以上がオンラインのリテールメディアである(Amazon)」と紹介した。
「3年後の市場領域は大きく分けて、コンビニアプリをはじめとする『店舗事業者領域』と、Amazon、楽天などをはじめとする『EC事業者領域』の2つに分かれる。店舗事業者領域は1390億円、EC事業者領域は7942億円の市場規模になる」(深田氏)
「リテールメディア領域への参入を通じ、メーカーと消費者をつなぐ役割を担う企業が増加している」と深田氏。
代表的なビジネスモデルとして、「ECメディア」「小売データを使った広告配信」「小売アプリ」「店内サイネージ・電子POP」の4つに分類しつつ、カオスマップの形式で、小売事業者におけるオウンドメディアや、広告メディア、データプラットフォーム、ソリューション提供などのプレーヤー領域を説明した。
■視聴率62.4%! ブランドリフトと来店促進を両立する「ファミリーマートビジョン」
中盤は「店内サイネージ・電子POP」にフォーカスし、パネリスト両名がそれぞれ店頭で展開するリテールメディア施策について紹介。最初にゲート・ワン速水氏が、全国のファミリーマート店頭で展開する「ファミリーマートビジョン」についてプレゼンした。
「ファミリーマートビジョン」は「お客様の店舗体験を楽しくするメディア」をコンセプトに掲げ、店内に設置された大型ディスプレイを通じて来店客向けに情報を発信。現在、全国の60%にあたる約1万店舗に設置されており、2週間で最大5500万人にリーチ可能という。
同ビジョンではAIカメラを活用し、店舗ごとの顧客特性や時間帯、エリア別に広告を配信。1日を4つの時間帯に分け、時間帯ごとの客層の変化や行動特性を考慮して、配信内容を最適化しているという。
「10〜20代の認知度は約70%に達しており、若い世代をターゲットにした広告展開が効果を発揮している。店舗売上を分析した結果、設置店舗では未設置店舗に比べて1日あたり3.9人の来客増が確認されるなど、高い効果が裏付けられている」(速水氏)
効果測定として、広告接触者と非接触者をIDベースで比較分析し、購買意識や行動の変化を測定できるほか、初回購入者とリピーターの割合把握など、詳細な購入者分析が可能。この分析はアンケート調査も組み合わせて行われ、接触後の意識変容を1週間後に追跡する仕組みも整備されているという。
「広告主の業種割合はファミリーマート店頭への卸売企業が40%で、残りの60%はサービス業や不動産、金融関連案件など、幅広い分野に展開している。特に最近は官公庁や自治体からの利用が増えており、新たな広告媒体としての活用が進んでいる」(速水氏)
現在はビジョン専用の番組制作強化など、メディアとして新たな視聴者層の獲得に取り組んでいると速水氏。「これまでのサイネージが『オーディエンスが向こうから来るのを待つ』ものだったとしたら、ファミリーマートビジョンは『自らオーディエンスを呼び込む』サイネージになりたい」と展望を示した。
■「テレビ×リテールは相性抜群」CM×店舗連動展開で購買促進する北陸朝日放送
続いて北陸朝日放送 伊藤氏がプレゼン。リテールメディアとしてのテレビの強みにフォーカスした販売促進施策を紹介した。
同局が、リテールメディア事業に取り組むきっかけは、番組コンテンツ連携を強めた流通企画の実施と、視聴率以外での施策効果可視化によるものだとした。
2008年頃より食品メーカーの商品を紹介するレシピ番組を制作し、番組で取り上げた商品を放送と同時に石川県内の食品スーパーチェーン全店舗に設置した「サイネージ付き商品棚」に陳列する施策を実施。テレビCMの放送と店頭での展開タイミングを完全に連動させることで、購買行動を促す仕掛けだ。
「施策期間中と前年同時期の売上を比較した場合、2倍になることも珍しくない。テレビと店頭連携の親和性の高さは長年の実績として証明できる。」(伊藤氏)
さらに同社では、2017年頃よりインテージと連携して購買データを活用、視聴率以外の指標で効果可視化をすることに挑戦。施策終了後3日程度で検証出来たことも含め、メーカー側から高い取り組み評価を得たこともきっかけで、リテールメディアを推進するに至った。
北陸朝日放送では、テレビに留まらず、SNS、アプリ、デジタルサイネージなどの複数メディアを統合的に運用。SNSでは静止画や短尺動画、またデジタルサイネージでは店舗内の動線に合わせた短尺コンテンツを展開するなど、顧客接点にあわせたコンテンツ制作を実施している。
また、行動に合わせてアプリへプッシュ通知を送る施策も行っており、あるケースでは、テレビ広告とSNS広告とアプリ通知、デジタルサイネージを組み合わせた結果、対象商品の売上が220%増加。複数の顧客接点を一貫した戦略で設計することで、広告効果が最大化されることが実証されたという。
「石川県だけで実施しても得られる効果は限られるが、全国の系列局ネットワークを活用すれば、同じ施策を他地域でも展開可能」と伊藤氏。現在、食品メーカーや流通チェーンとの複数の地域をまたぐ全国規模での展開モデルを開発中であると述べた。
■リテールメディア展開には「メディア横断の効果検証・業界横断型の協力体制」が必須
後半は、リテールメディア運営における課題と展望についてパネルディスカッション。深田氏は「広告主ごとにKPIが異なるため、統一的な効果測定が難しい現状がある」といい、複数メディアを横断した効果測定の難しさを指摘する。
「購買数を重視する企業と認知度向上を目的とする企業では評価軸が異なるため、効果測定には高度なデータ解析技術が求められる」と深田氏。今後はAIや機械学習を活用し、メディア横断型の効果検証を強化していく必要があると語る。
一方、伊藤氏は、人材の育成が急務であるといい、「テレビ業界はデータ解析やデジタルメディア運用に精通した人材が不足している」とコメント。「さらには、小売業や流通業との連携に必要な知識を持った人材は非常に限られている」と語る。
「今後は自社だけで完結させるのではなく、会社を超え、さらには業界を超えた、企業連携が重要だ」(伊藤氏)
あわせて伊藤氏は、流通チェーンや食品卸業者との連携により、商流に合わせたマーケティングモデルを構築していると紹介。中部広域エリアにて店頭広告やデジタル施策を組み合わせた実証実験を行い、新たな成果が得られつつあるとした。
速水氏はデータ活用の観点にフォーカスし、「広告代理店、メーカー、小売業が一体となってデータを活用することで、消費者により近いマーケティングが可能になる」とコメント。伊藤氏同様、さらなる業界間連携の必要性を訴えた。
■テレビのパワーでリテールメディアの顧客訴求を後押しする
「購買行動の流れを考えると、テレビで認知を獲得し、リテールメディアで購買効果を狙うというのが非常にわかりやすい組み合わせ」と速水氏。「ニーズが顕在化していないユーザー層に対して”蛇口を開ける“、すなわちタッチポイントの間口を広げるためには、テレビとリテールメディアの連携が効果的」と語る。
「オーディエンスの計測手法が全く異なる以上、テレビと店舗間との効果測定指標を統一させることは非常に難しいが、売上効果や購入効果、意識変容をどう実証していくかという点では、比較的リサーチ等をしていけば実証できる部分もある」(速水氏)
リテールメディア事業の成功の鍵について、「親会社である小売のコミットメントの強さが最も重要」と速水氏。「弊社の場合、『ファミリーマートビジョン』を急速に1万店舗まで拡大できたのは、ファミリーマートのコミットメントが非常に大きい」という。
その一方で速水氏は「コンビニは、その地域でどういう存在になれるかが非常に重要」といい、地域メディアとしてのテレビ局との連携について言及。「ローカルコンテンツや地域に寄り添う番組は、我々にとって非常に魅力的」と語った。
今回のセッションを振り返り、伊藤氏は「社会問題に対する市場の縮小に対して、何か手を打っていきたい」とコメント。速水氏も「各局の方とどんどん連携をして、地方ならではの情報を発信していきたい」と展望を述べた。