コンテンツ価値最大化に向けたテレビ局の新たな挑戦 〜『VR FORUM 2023』レポート
編集部
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のビジネスフォーラム『VR FORUM 2023』が、2023年11月28日(火)にオンラインで開催。今回は「各社と共にメディア業界の変革を目指す Co-transformation」をテーマに掲げ、多様化するメディアや生活者と向き合いながら最前線でビジネスを展開する各界のキーパーソンを迎えてのディスカッションが繰り広げられた。
今回はこの中から、セッション「コンテンツ価値最大化に向けたテレビ局の新たな挑戦」の模様をレポートする。
OTT経由での動画視聴時間の増加やコネクテッドTV(CTV)の浸透など、放送を取り巻く競争環境が激しくなる中、テレビ局の間では放送だけに頼らない新機軸の取り組みが始まっている。本セッションでは独自の挑戦に取り組む4社の担当者が登壇し、配信やD2C、地域創生など様々な領域における強みやコンテンツを生かした最新の成功事例を軸に、未来のテレビ局のあり方や事業変革のヒントを探る。
登壇者は朝日放送(ABC)テレビ株式会社 コンテンツプロデュース局長の井口毅氏、関西テレビ放送株式会社(カンテレ)コンテンツ統括本部 コンテンツビジネス局 局長の竹内伸幸氏、静岡放送(SBS)株式会社 事業変革推進室長の奈良岡将英氏、中京テレビ放送株式会社 メディア戦略局長の桑原久夫氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ ネットワークユニットマネージャーの合田美紀氏が務めた。
■配信全盛期のコンテンツ価値最大化 鍵は「グローバル展開」「エンゲージメント強化」
まず合田氏が、ビデオリサーチによる調査結果を紹介。全国主要7地区の12〜69歳男女においてはコロナ禍中の2020〜2021年を境に地上波以外の動画視聴が増加。「地上波テレビの視聴時間を凌駕する勢い」だという。
「配信プラットフォームの利用率もCTVの普及が追い風となって大きく上昇し、関東地区におけるテレビのネット接続率は約65%に達している」(合田氏)
テレビコンテンツ視聴の場がデジタルへと徐々にシフトするなか、テレビ局はどのような戦略を取っているのか。登壇4局がそれぞれの事例を紹介する。
『エルピス』をはじめとする自社制作ドラマが配信でも大きな話題となっているカンテレは、「自社で配信プラットフォームを持たず、配信可能なOTTに全方位でコンテンツを供給するスタンス」(竹内氏)。動画配信の売上は直近5年間で128%に成長し、事業売り上げ全体の約半数を占めるまでになったという。
「既存の放送収入に加えて、キャッチアップやSVODを主力とするコンテンツビジネス収入が増大した。これまで費用負担の大きさがネックであったドラマにおいても、大きな利益を出せるビジネスモデルができている」(竹内氏)
ABCテレビは、関西ローカルの深夜番組『相席食堂』がTVerで配信され、全国でファンを集める人気に。2023年には「TVerアワード」特別賞3年連続受賞した。
「テレビの本放送とキャッチアップの両輪で巷の話題を繰り返しながら、コアな視聴者層を広げていくことができた」(井口氏)
さらに2023年からは「Amazon Prime Video」を通じ、世界150の地域での配信を開始。番組公式のファンコミュニティ「FC相席食堂」を開設し、イベントやグッズなどのリアル展開に乗り出し、ファンとのエンゲージ構築にも積極的だ。
一方、「配信売上は地上波売上の100分の1以下」(桑原氏)という中京テレビは、プラットフォームの特性にあわせたコンテンツ展開に舵を切る。
2023年には同局初となるレギュラードラマ『スーパーのカゴの中身が気になる私』をSVODで配信。また、AVODでは自社バラエティ番組のショート動画も配信。「配信での再生数を増やすことにより、地上波への誘引を図っている」という。
一方、SBSは「マスコミュニケーションを脱し、静岡の一人ひとりに向き合う」というスローガンを掲げ、自社アプリ「静岡新聞SBSデジタル@S+(アットエスプラス)」を運営。
番組の書き起こし記事をはじめ、系列の静岡新聞と連携したニュースや、地元で盛り上がるサッカーに関する取材記事を発信。「閲覧データの分析を通じて生活者が望む情報を把握し、サービス展開に活かしている」(奈良岡氏)と語る。
■多面展開、潜在ファン発掘、コミュニティ化… テレビ局が取り組む「収益最大化策」
後半のパネルディスカッションでは「コンテンツ価値の最大化」から踏み込み、各局が取り組む「収益最大化戦略」が紹介された。
カンテレが取り組むのは、系列や外資・国内問わず多くの動画プラットフォームへ多面的にコンテンツを配信する「トータルリーチ戦略」。「どこにいてもカンテレのドラマを視聴できる環境を作り、自局ブランドの認知に繋げることが狙い」(竹内氏)という。
「供給先のOTTの視聴率ランキングを通じて注目され、配信を見た人が地上波での視聴に回帰する動きもある。可能な限り総視聴人数を増やし、多面的な収入を大きくしていきたい」(竹内氏)
「『どれくらいの収益をトータルで稼げているか』という点が番組の評価軸になりつつある」(井口氏)というABCテレビは、収益軸を「地上波の広告収入」「キャッチアップ、SVODプラットフォームでのセールスを含めた配信収入」「イベント、グッズ、DVD販売収入」の3軸に分類。コンテンツの特性に応じて収益構造を組むことで利益の最大化を図っているという。
一方、中京テレビは「これまで得意としてきたバラエティだけでなく、『配信で売り上げが上がる』番組の形を模索している形」(桑原氏)。サイエンスプロデューサー・米村でんじろう氏が出演するミニ番組『でんじろう先生のはぴエネ!』は、地上波と並行して行っていたYouTube配信で新たなファン層を掘り当てた。
「夏休みシーズンに再生数が急上昇し、自由研究の参考に子どもたちが多く視聴していることがわかった。これからは『配信で伸びやすいコンテンツ』として教育番組へも積極的に取り組んでいきたい」(桑原氏)
このほか、同局では人気情報番組『PS純金(ゴールド)』の公式ファンコミュニティを開設し、番組企画のリクエストや名場面集の配信を会員限定サービスとして展開。コアなファンへのエンゲージ強化へつなげるとともに、閲覧ログから解析した嗜好データをマーケティングに活用している。
さらに、総務省からの補助金を活用した放送コンテンツの海外展開施策も見られた。カンテレではベトナム国営放送との共同でかつてのヒット番組『パンチDEデート』をリメイクし、現地で放送。「国民の平均年齢が若いお国柄もあり、10年に渡って人気番組となっている」(竹内氏)という。
■コンテンツ価値の最大化には「作り手とマーケの統合」が必須
セッションの最後は登壇4社がそれぞれの現状を踏まえ、コンテンツ価値最大化につながる体制作りにフォーカス。「売るための組織づくり」を赤裸々に語る。
「ドラマは脚本段階で販売され、配信コンテンツに関しても良い作品であれば配信前の時点でもう海外へと売れていく」と竹内氏。コンテンツのプリセールスに注力し、得られたキャッシュで新たな投資を行う好循環が生まれているとしたうえで、「契約フローや販売ルートの整備は必須」と強調する。
「コンテンツビジネスを推進する環境整備や権利処理作業は、単独の部署ではなく全社的な組織連携によって行われるべき。関西テレビでは2020年に編成部門とコンテンツ部門が一つの本部に統合された」(竹内氏)
カンテレ同様、ABCテレビでも制作部とコンテンツビジネス部が統合されて『コンテンツプロデュース局』が発足。企画からセールスまで一気通貫の体制が構築され、昨対比160%という高い売上成長につながっているという。
「営業、編成も含めて全社的な協力を得られるようになった。セールスの際に得たニーズを企画にフィードバックし、事業としてより高い成長が見込めるコンテンツを作っていくというサイクルが生まれている」(井口氏)
すでに体制づくりが回り出している2局の現状を踏まえ、桑原氏、奈良岡氏はコンテンツ価値の最大化に貢献する人材像を語る。
「ビジネススキルを持ったプロデューサーの育成とマーケティング体制の強化が急務。組織上、すぐに体制を変えることが容易ではないケースもあると思うが、それでも各人レベルでのマネタイズ意識の変革や外部アライアンスの強化など、取れるアクションは多いはずだ」(桑原氏)
「なにより、まずは勝ち筋を“探索”できる人材を増やすことが大事だと思う。さまざまな形を模索しながら、『うまくいきそうだ』という手応えが得られたものをきちんと型化し、仕組み化できるようにすることから始めていきたい」(奈良岡氏)
今回のセッションを振り返り、合田氏は「コンテンツ価値の最大化に向けた方向性として、放送エリアを越えて、全国、さらには海外へコンテンツを届けることで収益を上げる”global”の方向と、デジタルを活用して生活者や地域と一層つながることでエンゲージメントを深める”localの方向と2軸に整理される」とコメント。「どの取組みもコンテンツを起点とした制作力や取材力、IP創出力が軸足という点が非常に印象深かった。本セッションが、とりわけローカル局の皆様の新しいチャレンジへのきっかけとなれば大変うれしく思う」と結んだ。