現実とデジタルの「リアリティ融合者」に企業はどう向き合うか 〜メディア環境研究所「メディア定点調査2023」レポート
編集部
左から山本泰士氏、森永真弓氏、瀧﨑絵里香氏
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所主催「メディア環境研究所 プレミアムフォーラム2023夏」が2023年7月4日、大手町三井ホールで開催された。今回のテーマは「膨張するメディアリアリティ」。対話型AIやメタバース、仮想人格などのテクノロジーが急速に進化するなか、拡張する生活者のリアリティという観点からメディアとしてのアプローチのヒントを探った。
本記事では、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー 兼 上席研究員の山本泰士氏、同上席研究員の森永真弓氏、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の瀧﨑絵里香氏による発表「膨張するメディアリアリティ」の内容を伝える。
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■生活者間で、現実とデジタルの「リアリティ融合」が鮮明に
「昨年2040年のメディア環境を予測するとフィジカル、VR、ARを始めとしたメディア環境の多層化が起き、その中で自分の居心地の良さを求める『多場化』と、その場の中で自己実現を図る『多己化』が進む」と山本氏。「その未来に向けた変化のスピードが急速に早まってきている」とし、同研究所による「進化するデジタル技術の普及と生活意識に関する調査」の結果を紹介する。
同調査は、全国の15〜69歳の男女3,400人を対象にWEBアンケート形式で実施。
「オンラインの集まりに『つなぐ』『アクセスする』ではなく『行く』と言ってしまう」と回答した割合は、15〜19歳で41.4%、20代で33.2%に達したという。
「久しぶりに対面で会っても、SNSで日々見かけているので久しぶりの感じがしない」という回答は、15〜19歳で42.8%、20代で40.6%、さらに50代20.3%、60代18.3%と中高年層でも約2割の水準に。
山本氏はこれを踏まえ、「生活者がデジタルの空間、存在、行動に対し強いリアリティを感じ始めている」と指摘する。
特に15〜29歳の若年層においては、「架空のキャラクター(小説、漫画、ドラマ、アニメ、VTuberなど)に恋をする(43.0%)」という回答が「テレビやネットの有名人に恋をする(39.5%)」を上回る結果に。
「オンライン上で 仲良くなっても本名や職業を知らないままでいる」という回答については、15〜29歳に加えて30〜40代でも「居酒屋や旅先等で、知らない人と仲良くなる」を上回った。
若年層だけでなく、「AIにわからないことを質問・相談する」という回答はすべての年代で40%以上、「有名な観光地や興味のある国や場所にバーチャル空間で訪れる」もすべての年代で30%を超えるという結果になった。
「これまでフィジカルで行うことが当たり前だった旅や、稼ぐことまでもがデジタル上でのリアリティを帯びつつある」と山本氏。「いまや日常、自己実現、ともに生きる存在までもがデジタル空間に内包されている」とし、「生活者の間に“リアリティ融合”とも言える状況が広がろうとしている。未来に起こる変化に備えてこのリアリティ融合をし始めている生活者を知る必要がある」と述べた。
■「VTuber活動で“大人”になれた」デジタル空間での振る舞いが現実の“自分”を変える
後半は森永氏と瀧﨑氏が、フィジカル空間とデジタル空間を同一のリアリティ感覚で捉える生活者「リアリティ融合者」の実態について発表。調査データやインタビュー紹介を通じて、その実態に迫る。
「3D空間内で友人や仲間が集まるメリットについて、デジタル空間に身をおいてない人は『非日常感、寂しさの解消、現実逃避』を挙げるが、実際に身を置いている当事者は『幸福感やリラックス、成長』を挙げている」と森永氏。
メタバース空間を通じて国際交流から恋人探しまで実現したという大学生へのインタビューを取り上げ、「現実世界を仮想世界が補っている」「メタバースのほうがより自分らしさを出せる」とのコメントを紹介する。
「リアリティ融合している人たちは、日常的なデジタル上での交流や経験を通して、外見にもとらわれず、その人の本質を捉えて付き合うという価値を獲得している」と森永氏は語り、「稼ぐより自分のことを楽しく見てくれる人を大事にしたい」「VTuberとしての振る舞いを通じて、現実社会でも“大人”になれた」という20代VTuber男性のコメントも紹介。
「デジタル上での出来事が現実空間の自分と相互に影響しあっている」と森永氏は語る。
■フィジカル体験の“代替版”づくりでなく、その場に流れる“日常”と向き合うことが必要
続いて瀧﨑氏が、「リアリティ融合」と高い親和性を持つ生活者に関する分析結果を紹介。「フィクション好きの人や“推し”の対象を持つ人、ChatGPTなど生成系AIの利用経験がある生活者において、現実空間とデジタル空間との間に同じ程度のリアリティを感じる割合が高い」と指摘する。
「もともと架空の世界観に慣れ親しんでいる人ほど、新しいテクノロジーやサービスを受け入れやすい。新しいテクノロジーに興味を持っているかどうかではなく、本来の(コミュニケーション)目的の中で自然と生活をしているうちに馴染み、リアリティ融合が進んでいくのではないか」(瀧﨑氏)
森永氏は、今後増えていく「リアリティ融合者」へ企業が向き合うための指針として、「いま自分たちのコンテンツを楽しんでいる既存客の行動を“見える化”し、事後共有できるようにすることが必要」とコメント。
「単なるイベントではなく、継続してそれらを追体験できる場を設けることで、その盛り上がりが新たな顧客を呼ぶことに繋がっていく」と語る。
「リアリティ融合者は受動的なサービスの享受ではなく、場に対する介在性や寛容性を求めている」と森永氏。
「『メタバース空間の野球場で野球をやりましょう』というような“フィジカル体験の代替版”を作るのではなく、あくまでその場で営まれている “日常”に目を向け、その中に企業体としてどう参加していくかが非常に重要になっていく」と述べた。