報道局をデジタル報道局に!テレビ朝日が取り組むYouTube・TikTokでのニュース配信
編集部
テレビ朝日 報道局クロスメディアセンター 柴田広夢氏と佐藤俊輔氏
株式会社テレビ朝日が運営する、YouTube公式アカウント「ANNニュースチャンネル(以下ANNnewsCH)」のチャンネル登録者数と、TikTokで展開される「テレ朝news」のフォロワー数が共に300万人を突破した(2023年1月)。
2009年9月29日にスタートした「ANNnewsCH」は、ANN(※1)系列26局が取材し、『ANNニュース』『スーパーJチャンネル』『報道ステーション』『ABEMA NEWS』などで放送したコンテンツの切り出し配信を行う。ニュースだけでなく、独自のオリジナルコンテンツも配信しており、テレビ局が手がけるニュースチャンネルの草分け的存在として注目されている。(※1 ANN:All-Nippon News Networkの略称)
同社報道局クロスメディアセンターで、両コンテンツの運用・更新作業などを手がける佐藤俊輔氏と柴田広夢氏に、両チャンネルの運営や、人気の秘訣などについて、話を伺った。
■「報道局をデジタル報道局に」
佐藤:僕が配属されたのが2019年です。来た時はすでに「ANNnewsCH」は10年目を迎えていて、既に歴史があり、「登録者数100万人を越えれば金の盾がもらえるらしい」と100万人の大台を目指すような形でみんなが動いていました。
柴田:私も同じです。2019年から配属されました。
――インターネットでのニュース配信はテレビ朝日の社内ではどのような位置付けで行われているのでしょう。
佐藤:会社はニュースのデジタル展開に力を入れていて「報道局はデジタル報道局になる」という強い目標のもとに取り組んでいます。
柴田:立ち上げの時も「ニュース配信をYouTubeでうちがいち早くやろう!」という強い意思があって、チャンネルの立ち上げに「GO」を出したと聞いていまして、テレビ朝日はこの部門には力を入れて来ました。
――登録者数が立ち上げ以降、右肩上がりに伸長。特に伸びたと思われる取り組みをご紹介いただけますか?
佐藤: 2020年より「ANNnewsCH」がこれまでに取り組んできた「速報」「深掘り解説」「ライブ」「アーカイブ」「テーマ別ライブ」のほかに縦型動画の「ショート」を加えたフルラインナップで、世界的関心事である新型コロナウイルス感染症とウクライナ情勢を全力で配信したところ、連日1,000万視聴を大きく突破するアクセスを集めてきました。これにより、登録者も大きく増加し、2020年3月に100万人を突破、2021年8月に200万人、2023年1月に300万人を突破いたしました。
――収益面に関してはいかがでしょうか?
佐藤:報道局のデジタル展開は、デジタルの力で今まで届きにくかった層にもリーチし、より多くの方にコンテンツを届けるのがミッションです。収益やビジネススキームに関してはあまり気にせずに自由に仕事をさせてもらっていますが、視聴回数や登録者数の増加とともに、収益面でも貢献していると聞いており、非常に励みになっています。
――YouTube、TikTok共に何歳ぐらいの人が視聴しているのでしょうか。
佐藤:YouTubeは25~34歳の方の視聴が最も多く、次に18~24歳、35~44歳と続きます。ネットでニュースを見ることが日常になっている学生さんや働き盛りの方々が、特にスマホを用いて手軽にニュースに触れるという使い方をしてくれているのだと考えています。
柴田:TikTokのフォロワー層はもう少し若くて、10代、20代を中心によく見られています。でも、最近、40代、50代の方に「TikTokを見ているとテレ朝のニュースが出てきて、安心できる」という声もいただくことがありました。最近はそういった方も含めて幅広い層がTikTokを見ているのかなと思っています。
――YouTube、TikTokでは見られるニュースのジャンルや人気の動画の傾向が微妙に違ってくるのでしょうか。
柴田:TikTokはやはり同世代が出てくるニュースということで、小学生、中学生、高校生が活躍したニュースや、事件に巻き込まれてしまったという内容のものがよく見られていると思います。10代の絡んだニュースが見られているというのが数字にも出ています。あとは、知名度のある人のニュース。例えば芸能人や人気アスリート、ネット界隈で知名度のある方のニュースもよく見られます。衝撃度の高いニュースなども高い関心を集めています。
――YouTubeはどうでしょうか。
TikTok と同じように、YouTubeショートでも縦型動画を出しているんですが、TikTokとYouTubeショートではよく見られる動画の傾向が異なり、数字の出方が全く違います。YouTubeショートでは、衝撃度の高いニュースがよく見られる傾向があるように思います。また、投稿後一週間以上経ってから数字が伸びるものもあったりします。例えば、このレーザー核融合が初めて成功したというニュースは投稿直後はそこまで多くみられていなかったのですが、2か月ほど経ってから数字がぐんと伸びました。
佐藤:YouTube本体のほうは、災害や事件事故、衝撃映像、エンタメ・スポーツなど…映像が強い、いわゆるテレビニュースの王道的なものがもともと強かったのですが、最近はウクライナ情勢だけ、中国だけ、北朝鮮だけといったように分野を絞って、その分、深く追求した企画や日銀総裁の会見全編、担当記者の徹底解説など硬派なものもよく見られています。そして、これらが登録者増につながっています。このあたりがTikTokとは異なる特徴です。
■オリジナルコンテンツの拡大を目指す
――ニュースの切り抜き配信以外のものも配信して行こうという計画はあるのでしょうか。
佐藤:オリジナルコンテンツを少しずつ増やしていきたいと思っています。
柴田:テレビの切り抜きでなく、縦型動画をこのコンテンツ用に撮って出すというのも実験的にやっています。でも普通のニュースを出すよりはまだ数字が取れない現状があります。オリジナル動画でもヒットを出したいという気持ちはあるので、何をしようかというのを今試行錯誤しています。
――TikTokでは渋谷のスクランブル交差点をライブ配信するなど、ニュースとは違った面白い試みにも挑戦されています。
柴田:スクランブル交差点の配信は、YouTubeでもやっているのですが、面白いのはTikTokではそこに海外の方がかなり多く見に来ているところです。チャット欄を開くと、英語圏だけでなく、いろいろな国の言葉で書き込みが行われていて、注目度が高いのだと感じています。海外ユーザー向けのコンテンツも今後出していけたらと考えています。
佐藤:ただ、スタンスとして、インターネットでよく見られそうな内容ばかりに寄っていくのではなく、「伝えるべきものはしっかり伝える」というニュースコンテンツとしての役割もきっちり守った上でチャレンジしていければと考えています。ネットでニュースを見るスタイルが完全に定着した世界への適応は必須だというのは自分たちの基本的な考えです。既存コンテンツの見直しはもちろん、特に「オリジナルコンテンツの開発」と「縦型動画ショート」に関してはスピード感を持って対応していきたいと思っています。一方で、デジタルの世界でも「テレビ朝日」が選ばれ続ける存在であるために、タブーを設けず、あらゆるサービスに積極的に取り組んでいく姿勢も大事にしていきたいです。
――ニュースコンテンツでいえばW杯やWBCのような大きなイベントのニュースはかなり人気の内容になっているのでしょうか。
佐藤:人気はあります。でもスポーツは権利の問題もあってなんでも配信していいというわけではありません。バスケ、高校野球、サッカー、プロ野球と全て条件が違います。それでもスポーツはチャンネルを大きく伸ばす起爆剤的なコンテンツであることは間違いないので、与えられた条件の中で知恵を絞り、最大限にやっています。
柴田:今だとWBCはやっぱり盛り上げていこうというのがあって、積極的に展開しています。試合ハイライトや、大谷選手、ヌートバー選手のプレーに関するニュースはもちろんですが、選手の試合がない日の過ごし方も…ダルビッシュ選手がラーメンを食べに行ったとか、佐々木朗希選手がデッドボールを当てたチェコの選手にお菓子を持って会いに行ったというニュース。他にも、観客の掲げる"おもしろメッセージ"や"ペッパーミル"の売上が急増中といったニュースなど、WBC関連の動画は爆発的に見られています。
――Z世代向けの企画はやっていますか。
柴田:オリジナルまでは手が回っていないのですが、Z世代やそれに近いディレクターが作業をしているので、地上波などからコンテンツをチョイスする際にZ世代の感性を活かしています。
■月食の中継や、ライブ配信が登録者増に貢献
――「ANNnewsCH」や「テレ朝news」の登録者が爆発的に増えていることにはもちろん理由があると思います。登録者数を増やすことに貢献度の高いコンテンツは何でしたか。
佐藤:「ANNnewsCH」に対してはABEMAの貢献度がかなり高いです。ABEMA NEWSは速報やオリジナル番組を24時間放送しているニュース専門チャンネルで、速報が次々と入ってきます。そこで放送した速報をANNnewsCHにもアップし始めてから、YouTubeの登録者数がグンと伸びました。「ANNnewsCH」の強みといえば「速報」と言われるベースはそこから始まったといっても過言ではありません。2017年には24時間ノンストップニュース配信「JapaNews24」も開始しました。これはいつ見ても最新ニュースがストリーム配信されるサービスで、キー局としては日本初の試みでした。これを流しっぱなしで見るユーザーが多く、こちらも登録者増・視聴回数増に大きく貢献しました。
――ニュース配信以外で貢献度の高いコンテンツはありますか。
佐藤:記者会見などのライブ配信も人気なんです。意外なところでは天体関係、例えば月食の配信とか、天体ショーの分野は人気です。その瞬間をみんなで共に眺めてコメントを打ち合うというのが一つの文化になっているのかなって考えています。ロケット発射の瞬間なども人気です。年末年始だと、善光寺の除夜の鐘を配信もしたんですけど、これも意外に数字が伸びました。
――ドキュメンタリーの分野はどうなんでしょうか。
佐藤:ドキュメンタリーや深掘り企画は非常に評価されている分野です。特にテレビ局ならではの取材力を活かした深いものほど、視聴回数だけでなく、登録者増にも大きく貢献してくれています。逆に衝撃映像などのニュースは視聴数は爆発的に伸びますが、登録者増にはつながりにくい傾向があります。ユーザーは今、より内容の濃いもの、より知的好奇心を満たしてくれるものを選んでいると感じています。そういう意味で、新しく生み出されるものはもちろんですが、テレビ朝日が過去60年以上に渡って制作してきた膨大な映像群は、まさに宝の山。こちらも、今後、しっかり発掘して、コンテンツとして改めて世に出していきたいと考えています。
――ライブ配信は、確かに各局のオリジナルの色を出しやすいジャンルかもしれないですね。
佐藤:今までは、地上波とABEMAという2つの強力なコンテンツメーカーから供給してもらったニュースでやってきて、それでうまくやれていました。しかし、今後はオリジナルをもっと強化していかないといけないという危機感を持っています。ビジネスやお金、便利や節約、健康や美容、ペットやゲームなど、ユーザーに身近で役に立つ情報に深く切り込んでいこうといったアイディアが出ています。それらを自分たちがオリジナルでやるのか、各出稿部と一緒にやるのか、それ以外のやり方を作っていくのか… これまでは少ない人数で、配信本数を増やすことを中心にやってきましたが、今後はどういう立ち位置で成長させていくのか、しっかり戦略を練って進んでいきたいと考えています。
――登録者数は現在300万人。今後はもっと登録者数を増やしていきたいと考えているのでしょうか。
佐藤:300万人というのは通過点でしかないと思っています。300万人になったから何かが変わったわけでもない。これからも誠実にニュースをお届けするというスタンスを大事にしながら400万、500万と数字を伸ばせればいいなと考えています。今は他社さんも全力で取り組まれており、競争が激化しています。ユーザーのニュースに対する目もシビアになっています。300万人に満足することなく、これからも世の中のニーズを的確に捉え、変化を恐れず「テレビ朝日だから。ANNだから」と指名していただけるファンの方を1人でも多く増やせるよう、全社一丸で取り組んでいければと考えています。
柴田:ニュースがTikTokで流れてきてどこの局のニュースか意識せず見ている人が多いと思うんですけど、テレビ朝日のニュースだと認知されて、ニュースといえばテレビ朝日だと思っていただけることを目指しています。これからの配信もぜひ楽しみにしていて下さい。