「放送局はこの後どうなっていく? テレビの価値を最大化」〜VR FORUM 2022 レポート
編集部
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2022」が、2022年11月29日(火)〜12 月 1 日(木)にオンライン開催。過去最大 23 セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化や DX の流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探る。
本記事では、12月1日開催のキーノート「放送局はこの後どうなっていく? テレビの価値を最大化」の模様をレポート。一般社団法人日本民間放送連盟 会長 遠藤龍之介氏司会のもと、サントリーホールディングス株式会社 常務執行役員 水谷徹氏、株式会社 TBS テレビ 取締役 中谷弥生氏、日本テレビ放送網株式会社 執行役員コンテンツ制作局専門局長 髙橋利之氏が、それぞれ広告主・放送局の目線でテレビの魅力を語った。
■若者が抱くテレビ CM への安心感 購買への波及力はネット広告の約4倍
まずは遠藤氏が広告媒体としてのテレビの価値にフォーカス。中谷氏は「若年層のテレビ離れが聞かれるが、テレビ CM が生活者の態度変容に寄与する力は依然として強い」とデータを示す。
民放連の生活者向けアンケートでは、テレビCMについて「欲しい・利用したいと思うきっかけになる」と言う回答が、インターネット動画広告の約4倍高いスコアを記録。「とくに若い人ほどテレビ CM に安心感を持ち、ネット広告だけで商品購入を決めることに不安を感じている」(中谷氏)
「デジタル広告は直接メッセージを届けたいお客様に向けたターゲティングが可能という面では便利だが、お客様の立場にしてみると『追いかけられているように感じる』面もある」と水谷氏。
「デジタル広告そのものを否定するわけではないが、ただ単に『新発売です、何円値引きです』という広告ではお客さんはファンになってくれない。そういった点でもエモーショナルにメッセージを届けられるテレビの価値は大きい」(水谷氏)
「営業の経験を重ねて気づかされたのが、番組コンセプトに対するスポンサー様のご理解の深さ」と高橋氏。「この番組はどのような気持ちで作っているのか、という制作者側の気持ちをとても大切にしていただくことが多い」といい、「単に商品を露出させるだけでない、より深い視点でのプランニングを心がけている」と語る。
これに対し、「商品が提供したい価値『パーパス』を内包する番組があれば、視聴率にかかわらず絶対に出稿したい」と水谷氏。「たとえ視聴率が 5%だったとしても、自社の商品を購入していただける可能性の高いお客様の含有率が非常に高く、広告としてはこれ以上になく効率的な出稿となる」と強調する。
■「できなくなったこと」より「できるようになったこと」が多い
「昨今のコンプライアンス強化によって、表現の幅が狭まり、昔ならばできたことも今はできないのではないか」という遠藤氏の問いかけに、「技術の面ではそれ以上にできることが増えている」と高橋氏。
「昔はちょっとしたロケに出かけるにしても大きな ENG カメラに音声、照明と、多くの機材とスタッフが必要だったが、いまはディレクターがスマートフォン片手に撮影してしまうこともできる。編集にしても、テロップ入れにしても、昔にくらべたら格段に手軽になっている。打ち合わせもリモートで済みますし、働きやすさは格段に向上している」(高橋氏)
さらに高橋氏は、「スポンサーの方々のご理解にしても同様」という。
「ダンスの特技を持つ高校生たちが日本一を目指す特番『THE DANCE DAY』を制作した際、まだ実績のない初回、しかも 3 時間という大型番組ながら、多くのスポンサーの方々が番組の主旨に賛同してくださり、ご支援をいただくことができた。不景気だから、コンプライアンスが厳しいからと言い訳は必要なく、面白いと感じて下さる取り組みにご協力をいただける余地がまだあると感じた」
■「わかりやすくて楽しい」日本のバラエティは海外で大人気
韓国をはじめ、アジア発のコンテンツが世界で高く評価がされている現状を踏まえ、話題は日本発のテレビコンテンツが持つ国際競争力に。すでに数々の番組が配信されているが、人気を集めているのは意外なものだという。
「日本テレビが海外に販売しているコンテンツのなかでもっとも収益を上げているのが『マネーの虎』(2001〜2004 年放送)。予算をかけず、会議室でロケをしていたような番組だが、海外版の『Dragon’s Den』(英 BBC)、『Shark Tank』(米 ABC)は豪華なセットを舞台にシリーズが続いている。この番組はフォーマットのみの販売でかなりの収益を生み出しており、『制作にお金がかかるから世界に売り出せない、ということもないのだ』と気づかされる」(高橋氏)
「日本のバラエティはとてもわかりやすく、言語の壁を越えて『楽しい』という雰囲気が伝わりやすい。TBS では『SASUKE』をベースにしたアニメ『Ninja Warrior』が海外で人気を得ている」(中谷氏)
「マツコ・デラックスさんと村上信五(関ジャニ∞)さんが MC を務める『月曜から夜ふかし』も、リアルな日本の生活が見られるということで、中国で大きな人気になっている。民族的、文化圏的にも近いものを感じてくれているのかもしれない」(高橋氏)
「海外というより、アジアという文化圏のくくりで見ることに勝機があるのではないか」と水谷氏。「タイやフィリピンには日本に強い憧れを持つトップスターがたくさんいる」といい、「彼らと一緒に番組を作れば、いっきにアジア圏に向けて展開できるのではないか」と期待を覗かせる。
「民放連でも『東京ドラマアワード』という海外を意識した賞を設けている」と遠藤氏。「これまでも『ギャラクシー賞』や『橋田賞』など、日本国内の素晴らしいドラマを表彰する賞があったが、ここで視点を変え、海外に対する汎用性がある作品を展開していきたい」と語った。
■「見たことないものを見せられる」テレビの価値
最後はこれからのテレビの展望について議論。「生活者との絆を作りたい、ブランドのパーパスと寄り添いたいとき、そこには視聴率は関係ない『ブランドとの絆』という目的が生まれる」と、水谷氏は広告主側の視点から語る。
「私たちは物を売るのではなく、物がある豊かな暮らしを提案している。だからこそ、その生活において広告は、頑張りに対するねぎらいの気持ちを感じたり、見たら元気になったり、クスッと笑えたりするものでなければならない。そういった意味でも、放送局のみなさんにはぜひ自分たちならではの個性を発揮していただきたい」(水谷氏)
「視聴率ももちろん大事だが、これから業界を目指す人々にとっていまの放送業界が『こういう世界で働きたい』『こういう意味のあることをしたい』と思ってもらえる存在かどうか、ということは常に考えるようにしている」と高橋氏。「視聴者の見たいものを見せるのではない、見たことないものを見せるのがテレビなのだ」と、日本テレビ創始者で日本の民間テレビの祖、正力松太郎氏の言葉を挙げる。
「この精神が、日本テレビの歴史のなかで『世界陸上』や『箱根駅伝』『24時間テレビ』といった番組につながっていったのかもしれない。誰もやったことがないことにはリスクがつきものだが、それを乗り越え、新しいことにチャレンジできる場をこれからの若い人々に提供していきたい」(高橋氏)
これに中谷氏は「最近の若い方々は我々の世代のように何年も下積みを重ねてという感じではなく、早く結果を求める優秀な人が多い」と語り、「できるだけ年次関係なくチャンスを与えて行けたら」とコメント。「いまや発信できるツールやデバイスはたくさんある。配信コンテンツなど、地上波に限らない活躍の場を作っていくことが重要」
「リラックスした空間にいながら、好きなときに好きな格好で大画面のコンテンツを楽しめるのがテレビの大きな魅力だ」と水谷氏。「いつ点けてもずっと何かしら面白いものが流れていて、知らないことを知れる。そういう価値がテレビにはある」と力を込めた。