TVerの現状とこれからのビジョン 〜VR FORUM 2022レポート
編集部
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 20212」が、2022年11月29日(火)〜12月1日(木)にオンライン開催。過去最大23セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化やDXの流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探る。
本記事ではこのなかから、11月30日開催のキーノート「TVerの現状とこれからのビジョン」の模様をレポート。リアルタイム配信や「TVer ID」開始など、民放公式テレビ配信サービスとして視聴者との接点を増やすTVerの現状と今後のビジョンについて、株式会社TVer代表取締役社長 若生伸子氏がプレゼンした。
■10月に“過去最高”月間2.5億回再生/2000万ユーザー達成。T・F1・M1層の増加が加速
キーノート前半はTVerの現状についてプレゼン。今年10月26日で開始7周年を迎えるなか、今年10月には過去最大となる月間2000万ユーザー、2.5億再生を達成。動画再生数は直近2年半のあいだに約3倍と大きく増加を続けている。
利用者構成比は人口動態に近い形で分布しており、全体の31.3%を占めるF1(女性20〜34歳)・F2(女性25~49才)層をはじめ、ティーン層・M1(男性20〜34歳)の割合が増加。ビデオリサーチの調査によると、ライブ配信や追っかけ再生の新規ユーザーの約半数がTVerに定着しているという。
■ドラマ・スポーツが再生数“新記録”を牽引。報道特番のリアルタイム配信も
配信ラインアップでは、ドラマ・スポーツコンテンツが人気を牽引。なかでもドラマ『silent』(フジテレビ)は見逃し配信再生数がTVerサービス開始以来の最高記録を更新し、現在も「回を追うごとに再生記録を塗り替える勢い」(若生氏)という。
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今年初めての配信となったプロ野球日本シリーズでは、リアルタイム配信がサービス開始以来最高のWUB(週次ユニークブラウザ)数となったほか、6月に実施した「キリンチャレンジカップ2022・日本対ブラジル戦」ライブ配信では同時接続数が20万デバイスを突破。うち85%がスマートデバイス経由で視聴され、平均視聴時間は約50分と高い記録となった。
今年7月に発生した安倍晋三元首相銃撃事件では在京民放キー局5局による報道特番を地上波と同時にリアルタイム配信し、報道面でも存在感を発揮。「他の有料配信プラットフォームと比較しても、テレビ放送とTVerのリアルタイム視聴・見逃し視聴には一定の相乗効果が見られる」と、若生氏は親和性の高さを強調した。
■堅調に推移の「TVer ID」デバイス横断の利便性とマーケティングメリットを強調
今年4月にスタートした「TVer ID」の登録数も堅調に推移し、2022年度内に500万ID達成が視野に。若生氏は「デバイスを横断してユーザーの分析が可能になり、よりユーザーに寄り添ったサービスが展開できる」とし、さらに「TVer IDの取得利用により、アンケートデータ以外でユーザーの解像度が上がる」と広告主へのメリットを強調する。
「(TVer IDを通じて)ユーザーにベネフィットを還元しつつ、アドバタイザーには満足度の高いマーケティングスキームを提案する」と若生氏。個人を特定しない形でユーザーデータを集約した「データクリーンルーム」のPOC(Proof of Concept:概念実証)実施にも触れ、「(ユーザーからの利用)許諾の範囲の中で高い精度のターゲティング獲得も目指していきたい」と述べた。
■ローカル局との取り組みも強化。“特集企画”で「地域を越えたムーブメント共有」を狙う
続いて若生氏は、各地のローカル局との取り組みについても紹介。人気番組を表彰する「TVerアワード」では関西広域圏をエリアとする朝日放送テレビの『相席食堂』、鳥取・島根の山陰地域をエリアとするさんいん中央テレビの『かまいたちの掟』がそれぞれ特別賞を受賞するなど、これまで地域外で見ることのできなかったローカル番組への注目がTVerを通じて高まっていると語る。
今年1月には、ローカル局のコンテンツ配信をテーマにした総務省の実証事業に協力。ローカル局5局(札幌テレビ・静岡朝日テレビ・中国放送・TVQ九州放送・さんいん中央テレビ)との取り組みのほか、全国の民放連加盟放送局113局へのアンケート、コンテンツ配信に関する研修会などを通じてコミュニケーションを深めているという。
今年9月中旬から10月中旬にTVerで実施された「サウナ特集」では、キー局・BS局制作の番組とともに、各地のローカル局によるサウナ関連番組を提供。「地域を越えてムーブメントとコミュニケーションを共有できる企画でマネタイズできるよう、今後も検討していきたい」と若生氏は意気込みを語った。
■コネクテッドTV 経由での視聴が全体の約3割に。「専用ボタン」でユーザー獲得を狙う
続いて話題は、ネット結線されたテレビデバイス「コネクテッドTV」に関する施策について。直近2年半の間にテレビデバイス向けアプリを経由した週次の動画再生数は約8倍に大きく成長し、「TVer単体の再生数の約30%に手が届く勢い」(若生氏)という。
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「有料課金のサービスでは、アクセスボタンの搭載がユーザー獲得を大きく左右するポイント」と若生氏。今夏より「REGZA(レグザ)」のリモコンにTVerへのアクセスボタンが搭載されたことに触れ、「引き続きテレビデバイス拡張に向けて最大限の努力をしたい」と述べた。
■TVerが掲げる“強み”と「これからのビジョン」
キーノートの後半は、TVerのこれからのビジョンについて。若生氏は4つのテーマを掲げ、その方針と意気込みを述べた。
(1)ユーザビリティを意識したサービスの拡充
「ティーンを中心にTVerを介してテレビコンテンツに触れるケースが多く、SNSと連携しながらリアルタイム配信・ライブ配信・見逃し配信をそれぞれの視聴スタイルで楽しんでいる。ユーザーの声に耳を傾けながら、一層のサービス拡充に努めたい」
(2)コネクテッドTV対応の強化
「TVerのCMは全デバイスにおいて完視聴率が高く、有音で再生される。なかでも高い認知結果が出ているコネクテッドTVについて、UI/UXの最適化を含め強化していきたい」
(3)広告セールス
「TVerの本線ともいえるファーストパーティー(1次)データの拡充とともに『TVer ID』を活用し、クロスデバイスで最適なフリークエンシーの検証と制御を目指していきたい」
(4)ローカル各局との連携
「(ローカルならではの)ニッチな情報や(熱狂的な)ユーザー間のコミュニケーションがユーザーの関心を引き起こすケースが多い。その可能性をどうビジネス化するか、シンプルで使い勝手のいいスキームをローカル局の皆様にご提供していきたい」
■これまでの“目的型視聴”に加え、「日々訪れたくなるプラットフォーム」に
キーノート終盤、若生氏は、インターネット広告費における動画広告のシェアが外資プラットフォーマーに占められている現状に触れ、「国内のコンテンツプロバイダーとしてユーザーや広告主に選ばれるポジションを確保することがTVerとして最大の使命」とコメント。「これまでのような“目的型視聴”に加え、日々訪れたくなるプラットフォームになるためには、ユーザーに対するさらなるサービス拡張が必要」と危機感を覗かせる。
「ユーザーのニーズに対応すべく、放送局のコンテンツを多様なデバイスとサービス形態でお届けする」と若生氏。「テレビ局の取材や編集能力のスキルは破格のものだと自負している」と力を込め、「それをユーザーにどう届けられるか。コンテンツの楽しみ方を開放していくことが新しいメディアの扉の開放に繋がる」と締めくくった。
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