オーディエンスの変化を知る!メディア環境変化のダイナミズム「実践広告スキルアップセミナー」レポート
編集部
コートヤード・マリオット 銀座東武ホテルで、東京広告協会による「実践広告スキルアップセミナー」が7月12、13日に開催された。全体テーマは「今こそオーディエンス・ファーストへ~広告デリバリーとエンゲージメント深化を目指す~」というものだ。
2日間にわたって行われた同セミナーの初日テーマは「オーディエンスの変化を知る。デジタルデータ活用を含めて、各種メディアとオーディエンスの関係性の今後を考える」で、各界の専門家が登壇し行われたセミナーのうち、本項では電通総研の奥律哉氏による“オーディエンスインサイトから見たメディア環境変化のダイナミズム”と題されたセミナーをレポートする。
■視聴者にとって大事なのは通信環境である
奥氏はまず、情報通信・メディア業界のロードマップを示すことからセミナーをスタート。このロードマップは、2012年を起点に2020年の東京五輪を経て、2023年までに業界が歩むと予想される道筋を示したものだ。
2018年の平昌冬季五輪、2020年の東京五輪を目指して、放送系では4K、8Kといった高精細な放送が始まる。また一方で、NHKが放送の常時同時配信を検討するなど、外出先でもスマートフォン(以下、スマホ)やタブレットを使い、家庭の固定テレビで見るものと同じ放送コンテンツを見ることが簡単にできる可能性がある。
しかし奥氏は、「視聴者にとって一番大事なものは通信」だと指摘。「第5世代通信の5Gは現在の4Gの約100倍のスピードになり遅延がほぼなくなります。IoTやビッグデータというものを実現させるためには必要不可欠な通信サービスで、人だけではなくモノや車、すべてのものがネットでつながる時代になります」と続けた。
また、5Gでつながるコミュニケーション領域では、いったい誰が、誰の責任において、どの通信回線や情報経路をたどってユーザーに情報を届けているのかが、さらに希薄になると言及。奥氏は「今見ている映像や記事の発信元が、NHKなのかYouTubeなのか、あるいは朝日新聞なのか、最新データかどうかさえもユーザーには分からなくなるだろう。広告メッセージもかなり気をつけなければ厳しい状態になる」と、新しい時代の課題を示した。
■大きな可能性を秘めた、テレビでの動画視聴
奥氏はまた、テレビ、パソコン、タブレットやスマホ・ガラケーの携帯端末それぞれの普及率に触れ、テレビは今や一人に一台という時代ではなく、全員にはリーチし得ない状況となっていると説く。
しかし一方で、電通総研の調査によると、テレビ受像機の保有世帯の5世帯に1世帯の21.1%がテレビのネット接続を行っているというデータを示し、ネット接続されたテレビにおける動画視聴の大きな可能性について、次のように語った。
「このデータは2015年のデータですから、現在は30%を超えていると思われます。これが東京五輪に向けて50%、あるいは70%になるとも予測されていますが、これは結構大事なことです。たとえ50%にとどまったとしても、テレビ視聴者の半分はネットにつなぐ時代になるのです」
そしてテレビ受像機で利用するネットサービスのトップはYouTubeを代表とする動画共有サイトで、無料・有料の動画配信サービスの利用は2番手、3番手だ。この状況について奥氏は、
「リビングにある50インチのテレビをネットに繋ぎ、それでYouTubeを見るというのは意外かもしれません。しかし一般的に、家にある一番良い音が出るスピーカーは実はテレビなのです。そのため、テレビをステレオ代わりに使うのが流行っていると見られます」と語る。
また、2016年に行ったグループインタビューの結果を用いて、テレビ受像機の良さも付け加えた。
「テレビで動画を見れば、手元のスマホでLINEができ、ソファーでリラックスできる。また同じ出演者であっても、テレビであれば有名人に見え、パソコンで視聴すると一般人に見えるという意外な意見もありました」
奥氏はここにテレビのフレーム効果が存在し、テレビのエンターテインメント視聴に対する特性が表れているのだと言う。落ち着かないスマホ視聴ではなく、エンターテインメントを存分に楽しむためにはテレビが必要だということだ。
■5年後、有料ネット配信サービスの視聴デバイスは?
加えて、有料ネット配信サービスの視聴動向も取り上げられた。2015年8月の電通総研による「有料映像サービスの利用に関する調査」によると、現在、有料映像サービスをテレビで視聴している利用者は、これも意外なことに年配者男性が少ないのだ。
「リビングのテレビは奥さんが占拠している。そうなると、別の動画を見たい夫は必然的にパソコンを利用することになります。さらにスマホでは老眼もあり、長尺の映像を小さい画面で見るのはしんどい。やむなしでパソコンを使って見ているのです」
その年配男性の5年後のネット配信サービスの視聴環境希望においては、「テレビで見たい」という人が大きく増加している。やはり、エンターテインメントは大きなテレビ画面で見たいというのが本音なのだ。
■まとめ
以上のように、単に若者はスマホ、年配者はテレビといったようなイメージだけで視聴動向を語ることは、もはや意味を成さない。さまざまな調査や分析を加え、より本質に近い視聴者の環境変化を捉えなければならないと考えさせられたセミナーであった。