テレビコンテンツが“サウナ”業界に与えた影響とは?『サ道』P×「北欧」支配人×TVer特別対談
編集部
民放公式テレビポータル「TVer」では、9月16日より、TVerでととのう「サウナ番組大特集」を開始。ドラマからバラエティまで、全国各地の放送局が制作する約170本以上の“サウナ番組”を一挙特集している。
今回はこの企画にちなみ、テレビ業界を代表してドラマ『サ道』プロデューサーを務めるテレビ東京・寺原洋平氏、サウナ業界を代表して「サウナ&カプセルホテル北欧」支配人・菅 剛史氏、そして本特集を企画した、株式会社TVer・内藤和大氏による対談を実施。サウナブームの火付け役となった『サ道』制作の背景をはじめ、テレビコンテンツがサウナ業界にもたらした影響について語る。
■キーワード「サウナ」でコンテンツ検索する人が増加
――今回「サウナ特集」の企画に至った経緯は?
内藤氏:サウナを扱うテレビ番組がたくさん増えてきていることが、何よりも大きな理由です。『サ道』などサウナそのものをメインテーマに据えた番組はもとより、バラエティや情報番組でもサウナでロケをしたり「サウナー」と呼ばれる人々を取り上げたりと、サウナをテレビで目にしない日はないほどです。
このようにジャンルの幅とコンテンツの幅が非常に大きいところも含め、コンテンツのラインアップが非常に充実するのではないかと思い、TVerでのサウナ特集を企画しました。
TVerでは、これまでは番組名やタレント名でコンテンツを検索されるケースがほとんどでしたが、最近は趣味志向に関するキーワードで検索されるケースが多くなってきました。特に、この2年間で「サウナ」というキーワードの検索回数が、直近6か月で非常に増えており、趣味志向ジャンルにおいてトップ5を占めています。
――特定の番組名ではなく「サウナ」というキーワードで検索されている点は興味深いですね。
内藤氏:Googleの検索回数で「サウナ」というキーワードがスパイクしたタイミングを深掘りしていくと、2019年の『サ道』1st season放映のタイミングとぴったり一致したのです。
その後も情報番組やバラエティでサウナが取り上げられるたび、キーワードのスパイクが起こっています。昨今のサウナブームは、テレビを起点にブームが始まった好例と言えるではないでしょうか。
■テレビが「サウナを“先行体験”する場」として機能している
――続いて寺原さんにお伺いします。2019年に1st Seasonが放送された『サ道』ですが、世間的に本格的なサウナブームが到来する前の段階でドラマ化に踏み切られたのは、どんな経緯からだったのでしょうか?
寺原氏:もともと長島監督とプロデューサーの五箇がタナカカツキさんによる原作漫画の大ファンだったということもあるのですが、僕自身も、サウナに対して、底知れぬ怪しい魅力を感じていたこともありました。
ただ、ご存じの通り、空間としてのサウナはすごくシンプルな構成です。なにか伏線が張られているわけでもなく、ドラマにおいてこのテーマで勝負をかけるのが僕自身は正直怖くもあったのですが、疲れている人が家に帰ってきてしっかりと癒やされる映像だったり、本能的なところで気持ちよさを感じるシーンをこだわって作りこむことによって、他のドラマより頭ひとつ際立つことができるのではないかと長島監督を中心にしっかりと事前に仮説を立て、制作に踏み切りました。
――ドラマ制作にあたって力を入れたポイントを教えてください。
寺原氏:ドラマを見てくださる方たちにはサウナで得られる快感を感じてもらいたいと思い、水風呂の綺麗さやクールさ、ロウリュの蒸気が満ちていく様子など、長島監督が拘りに拘ってサウナが醸し出すシズル感の描写に力を入れました。
もうひとつ意識したのが、サウナへ足を運ぶ動機につながるストーリー作りです。登場人物たちが、日頃のストレスから解放されてサウナに“助けてもらう”までのヒューマンドラマをきめ細かく描くことに注力しました。悲しい気持ちになった、誰かに怒られたという単純なもので終わらせず、感情の粒度をどんどん細かくしていくことで、「こういうシチュエーションのときはサウナに行くといいんだ」と気づいてもらおうと考えました。
内藤氏:サウナにしろ、温浴施設にしろ、なかなか普段はカメラが入れない場所ですよね。実際に生身の人間が入っている姿って、なかなか表現ができなかった部分だと思うので。『サ道』をきっかけに、いろんな施設の中身がしっかりと見られるようになったことは、すごく大きいことであったと思います。
寺原氏:『サ道』の放映後、SNSで「#サ道」とハッシュタグをつけてサウナ体験の模様をつぶやく方が出てきたときには、手応えを感じましたね。「『サ道』って、追体験をすごくしやすいドラマなんだな」と。登場人物と視聴者のみなさんが一緒になってサウナを経験して、「こうやって快感を得るんだな」と気づいて、どんどん共犯関係になっていく様子がとても素敵だなと思いました。
――いまやテレビは、サウナの“先行体験”の場として機能しているのですね。
内藤氏:今回のサウナ特集でも、キー局、ローカル局含め、全国にあるいろんな施設が取り上げられていますが、それらを見ていると、実際に行った気分になれます。なんなら、見ているうちにちょっと体が熱を帯びてくるくらい(笑)
菅氏:うちのように派手な外観をしていたり、年季の入った施設だったり、以前のサウナはちょっと入りづらいところがあったかと思います。「利用しているのは40〜50代の人たち」「何も知らずに入ると常連さんに怒られる」――当時は、若い方を中心に、そんなイメージを持つ方が多かったのではないでしょうか。
寺原氏:上野なのに「北欧」という名前なのも、「なんでなんだろう?」って思いますよね(笑)。勝手にいろんなイメージを抱いてしまうぶん、いざ中に入るとそのギャップに驚かされるんです。『サ道』 2nd season最初のシーンの舞台にもさせていただきましたが、露天風呂のあの開放感がたまらなくて。なるほど、お客さんはこれを求めて足を運ぶんだな、と。
菅氏:ドラマを通じて施設の中身を見ていただいたことで、「北欧ってこういうところなんだな」「こういうふうにサウナに入るんだな」というのが分かってもらい、若い方たちにも安心して来ていただける流れが生まれたのだと思います。
寺原氏: 「なんでこの場所なんだろう?」と思わせない画の強さがあるんです。サウナを知っている人たちからすると、「なるほど、たしかにこのシーンは北欧でないと出せない」という説得力があるし、事実足を運ぶと納得してしまう。サウナブームがこれだけ熱を帯びているのも、「このサウナに行きたいんだ!」という思いが最大のモチベーションとしてはたらいているからなんでしょうね。
――とくに北欧さんに関しては、ドラマのシーンを追体験する「聖地巡礼」の場としての人気もあるのではないでしょうか。
菅氏:たまに浴室をのぞくと、『サ道』で原田泰造さん、三宅弘城さん、磯村勇斗さんが演じる3人組の真似をしているんじゃないか、という人たちをちらほら見かけるんです。「あぁ、テレビのまんまだな」と(笑)。完全にドラマの世界に入り込んでいるな、というのが表情でもわかります。
■放映直後から来客数が倍増!テレビがつなぐ“追体験の連鎖”
――北欧さんは『サ道』のほかにもさまざまなテレビ番組で紹介されておりますが、放映後、お客さんの流れに変化はありましたか?
菅氏:ものすごくありましたね。最初のきっかけは2018年ごろ、小峠英二(バイきんぐ)さんが番組で当店を紹介してくれたところ、放映の翌日からお客さんが一気に20%ほど増えました。2019年7月、『サ道』に登場した回の翌日にいたっては、普段の2倍以上のお客さんに来ていただきました。
――サウナと言えば“サウナ飯”も人気ですね。番組で取り上げられたメニューが売れることも?
菅氏:『サ道』放映後は、原田泰造さんたちが食べていた「北欧カレー」がすごく売れましたね。今年6月には『マツコの知らない世界』(TBS)で当店の味噌ラーメンを紹介していただきました。「放映の翌日はかなり注文が来そうだな」と、普段の2倍以上出せるように準備していたのですが、蓋を開けてみると予想を遙かに超える勢いで、翌日の夜までにすべて売り切れてしまいました。
――テレビ放映が目に見える形で影響を与えていますね!
菅氏:やっぱりテレビの影響は大きいですね。番組を見て来てくれたお客さんたちはみんな、番組で取り上げられたことを追体験しに来て、さらにそれを見聞きした人たちが同じことを体験しようと新たにやってくる、という好循環が生まれています。
――追体験の連鎖が生まれる?
菅氏:「こうやってサウナに入って、上がったらこれを食べよう」と。みなさんがテレビで見たことを真似する輪がひろがって、どんどんお客さんが増えています。
――テレビ放映をきっかけに、お客さんの行動に訪れた変化はありますか?
菅氏:体を拭いてサウナに入り、サウナから出たら汗をしっかりと流してから水風呂に入り、出たらまた体を拭いてから休憩する、というような“サウナへの入り方”を『サ道』ではきちんと描いていただいたので、その影響からか、お客さんのマナーがとても良くなりました。それまでサウナ室の中はマナー注意の張り紙だらけだったのですが、いまは「そうだ、しゃべっちゃダメだったね」と、お客さん同士で自発的に注意しあってもらえるようになりました。
■従業員、熱波師、アウフギーサー・・・ サウナがテレビに期待する「中の人」へのスポット
――テレビによってサウナのさまざまな魅力にスポットが当てられていますが、今後「こうした面も取り上げて欲しい」と期待していることはありますか?
菅氏:さまざまな個性やキャラクターを持つスタッフや熱波師、アウフギーサー(※)など、サウナという空間を作る「中の人」にスポットを当ててもらえると嬉しいですね。
(※熱波師・アウフギーサー:タオルや団扇などを使い、サウナ室のなかでお客さんに熱せられた風を送るパフォーマー)
今年7月に行われたアウフギーサーの全国大会では、当店で活動するアウフギーサーが日本一になりました。それ以来、「“日本一の風”を受けたい」とお客さんが訪れてくれるんです。
いま、当店の若い従業員たちもアウフギーサーとしてサウナ室に入ってくれています。プロに比べるとまだまだ経験は浅いのですが、常連のお客さんの中には「彼らを応援したい」と、わざわざ時間を合わせて来店してくれる方もいます。
寺原氏:『サ道』の中でも、三宅弘城さん演じる「偶然さん」が錦糸町「ニューウイング」の名物支配人・吉田健さんのモノマネを披露する回があります。原田泰造さん演じるナカタアツロウはそれに対して「わかる人ほとんどいないでしょ」とツッコむんですが、逆に言えば、吉田さんを知る人たちにはたまらない(笑)。みんな大なり小なり「このサウナといえばこの人」という人がいて、それが足を運ぶ理由になっているんですよね。
――「この人にサービスを受けたい」と、サウナの“中の人”にファンが付いたわけですね。
菅氏:北欧に勤めて30年になりますが、特定の従業員をお目当てに来店する、というムーブメントを経験したのは初めてですね。いまは施設の枠組みを超え、サウナで働くさまざまな方々と、技術やサービスについて情報交換するコミュニティが生まれたりしています。
働く施設は違えど、「お客さんにどう気持ちよくなってもらうか」はみんな共通して考えていることなので、そうした点にスポットが当たると嬉しいなと思います。
寺原氏:ブームが一過性ではなく、これだけ続いているのはサウナの中毒性が根幹にあるからかだと思います。いちど得てしまったサウナの快感は、絶対に忘れることができませんから。そしてそれは、施設の方の努力によって作られている。ですので、個性的な支配人の方だけではなく熱波師さんなどサウナで働く人々の物語にも、今後スポットを当ててみたいですね。
・寺原洋平(てらばる・ようへい)氏プロフィール
株式会社テレビ東京 配信ビジネス局 配信ビジネスセンター所属。ドラマ『サ道』の他に『絶メシロード』『量産型リコ』など多数深夜ドラマのプロデューサーを務める。
・菅 剛史(かん・つよし)氏プロフィール
東京・上野「サウナ&カプセルホテル北欧」支配人。「北欧」は、ドラマ『サ道』では毎回ストーリーの起点となる場所として登場し、サウナーの間で“聖地”のひとつとして人気を誇る。
・内藤和大(ないとう・かずひろ)氏プロフィール
株式会社TVer サービス事業本部 コンテンツタスク所属。TVer「サウナ特集」の企画担当者。自身も無類のサウナ好き。
・インタビュアー:天谷窓大(あまや・そうた)
「Screens」「TVerプラス」ライター。神奈川県横浜市「ファンタジーサウナ&スパ おふろの国」にて現役の熱波師としても活動する。カリスマ熱波師・井上勝正氏率いる「サウナ熱波道」メンバー。