アフターコロナを見据えた「放送コンテンツの海外展開」〜著者対談インタビュー後編
ジャーナリスト 長谷川朋子
左から長谷川朋子氏、大場吾郎氏、永野ひかる氏
デジタル化とグローバル化が加速するメディア環境のなかで、佛教大学大場吾郎教授編著による最新本「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期によるパラダイム」(中央経済社)を上梓した。拡張する放送コンテンツの海外展開に着目し、その理論と実践の両方の視点から網羅的に考察する初の専門書になる。大場吾郎氏と共著した朝日放送テレビ総務局国際業務担当マネージャーの永野ひかる氏と筆者が執筆の意図とその背景について対談する機会を設けさせてもらった。“ローカル×海外”に着目した前編に続き、後編はアフターコロナを見据えた考えについてお伝えしたい。
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■アフターコロナも配信時代は続くことを予測
長谷川:本書の執筆に取り組み始めたと同時に、新型コロナ感染症が拡大し始めました。海外渡航が難しい今、放送コンテンツの海外展開はこれまでのやり方では通用しない部分も増えています。企画した大場先生としてはこの現状を本書にどのように反映しようと思われたのですか?
大場氏:現時点ではアフターコロナについては推測で語るしかない部分が多いことは確かです。一方で、執筆中に変化の決定打もありました。それは配信が一気に広がった点です。例えば、Netflixが日本に上陸した6年前の当時は配信の普及については懐疑的にも見られ、普段、私が接している大学生もその頃は“お金を払って誰も見ない”“レンタルビデオの方がいい”などと言っているのをよく耳にしていました。それが、昨年一気にその状況が変わりました。当たり前のようにNetflix、Amazonプライム・ビデオを利用し、多くの国で同じことが起こっています。配信についてはアフターコロナに至っても利用を止めるとは考えにくい。また配信からテレビに揺り戻しが生じるとは思えないところがあります。
長谷川:配信の勢いは確かに加速しています。私の章でも市場トレンドとして捉え、解説させてもらっています。コロナ禍によって激変したビジネス慣習についてもフォーカスしましたが、これについてはある程度見通しを立てやすい部分がありました。インバウンドについて触れた永野さんは執筆中、ご苦労されたんじゃないでしょうか。
永野氏:そうですね。7,8年前は東京2020大会までインバウンドは伸びると予測され、それに関わる放送コンテンツの海外展開も規模が拡大していくと、まことしやかに言われてきました。政府としても後押しし、インバウンド向けコンテンツの制作が推奨されてきたわけですが、コロナ禍に入り、オリンピックもインバウンドも急に先行きが見えなくなった最中の執筆で“オチが無くなったやん!”と、正直なところ焦りもしました。最終的にはその時点での「アフターコロナにおける希望的観測」について、インバウンド誘致をする組織やコンテンツ制作をする組織などからエビデンスを集めるに至りました。
大場氏:原稿の最後の直しは2021年春頃でしたから、出版本としては最先端の話を書いて頂いています。アフターコロナの海外展開については、続編かスピンオフの企画がもし実現できたらまとめたいですね。
■アプローチの仕方に変化、ターゲットエリアを絞る必要はない
長谷川:放送コンテンツの海外展開はデジタル化とグローバル化が進むなかで、以前よりもより知るべき話であり、ひとつの視点として取り入れていくべき話だと思っています。お2人は放送コンテンツの海外展開の現状と未来像をどのように考えていらっしゃいますか?
永野氏:オンラインプラットフォームが増え、コンテンツのニーズも増えた今、感覚としては他国にコンテンツを輸出するという考えから、グローバルにコンテンツを持っていくという考えに変わっています。それに伴ってアプローチの仕方にも変化が求められていると思うのです。以前は当社の場合、まずは親和性の高いアジアからアプローチを始めていましたが、アジア、アメリカ、ヨーロッパといったエリアを分けて考える必要はなくなっているのではないかと、この1年半、痛切に感じています。もちろんエリアに合わせたニーズや戦略を立てる必要はありますが、ターゲットのエリアを始めから絞る必要はなくなったのではないかと思うのです。またローカル局でも気軽に海外展開できる時代に入っています。その分、資金もリソースもないことを言い訳にできません。みな同じ条件下にあり、タテにもヨコにも考え方が変わったことを実感しています。もはや、準キー、ローカル問わずチャンスは広がっていると言えます。
大場氏:これまで放送コンテンツの海外展開は市場に合わせた価値観が求められ、ローカライズが必須条件にありました。果たしてそうすべきか、ここ数年薄々考えていたこのことを今回書いてもいます。実は思いっきり日本的なコンテンツの方が魅力的で、土着的なローカルの香りがあるコンテンツがないとグローバルなプラットフォームのユーザーは食いつかず、特色がないと判断される傾向が高まっていると思うのです。実際にNetflixは意図的にそういったコンテンツがチョイスされています。要するにコンテンツに多様性がないと面白みがない。それぞれの国のバランスも求められ、それをうまく取り入れたプラットフォームは、世界のコンテンツを体験できる素晴らしい空間になると思うのです。
長谷川:本書ではジャパンプラットフォームの構想にも触れていますね。
大場氏:はい。ジャパンプラットフォーム構想を進めるべきだと思っています。日本のコンテンツを広める努力はこれまでもなされていますが、ジャパンプラットフォームが必要だと考える理由はデータを集められる利点がそこにはあるからです。ユーザーのログを収集すると、コンテンツ作りに活かすことができ、広告の側面でもメリットがあります。日本コンテンツのファンを海外に広げるためにもやるべきことはこれだと思います。
前後編にわたりお伝えした今回の対談を一言でまとめると、放送コンテンツの海外展開を新たなビジネスを生み出す足掛かりのひとつとして捉えると、そこから視野が広がるということだ。アフターコロナを見据えて、本書が今取り組むべきことを探すヒントになればと思う。