時代はネット配信~それでも変わらない“テレビ”の魅力
編集部
業界人によるトークセッション「シェイク!Vol.11」が、6月14日に株式会社IPGの本社(東京都中央区築地)にて開催。今回のテーマは「マンガやアニメをつくる側の視点」で、メンバーは『シティーハンター』や『名探偵コナン』など数多くのヒットアニメ番組を企画制作してきた読売テレビの諏訪道彦氏、TVドラマ化されたゲーム業界漫画『東京トイボックス』、アップルの創業者スティーブ・ジョブズを主人公にした漫画『スティーブズ』など数々のヒット作を生み出してきた漫画家の小沢高広(うめ)氏、『やわらか戦車』、『がんばれ!ルルロロ』など短編TVアニメのプロデュースに関わり、最近ではスマホゲームや海外コミックなど多彩なジャンルのアニメ制作に携わっている株式会社ファンワークス 代表取締役社長 高山晃氏の3名だ。
その中からテレビの話題にフォーカス。まさに「真実はいつも一つ!」のトークセッションを紹介する。
■時代はネット配信…それでも変わらない“テレビ”の魅力!
トークセッションが開始し、この日のお題でもある「出演者それぞれのクリエイティブの視点について」振られた諏訪氏は、「数字(視聴率)を取るための秘策が僕にとってのクリエイティブチャレンジ。このインターネットの時代、視聴率に関する論争はあるかと思うが、それでも視聴率が大事」と語り、加えて「以前とは異なりターゲット別など細かな視聴率データの取得が実現しているため、番組のマーケティングの指針にはなっている」と加えていた。その流れで小沢氏から、「『名探偵コナン』や『がんばれ!ルルロロ』はうちの子どもたちもよく見ているが、サブスクリプション系(動画配信)のサービスを利用して1話からさかのぼって見ているので実際にリアルタイムでアニメは見ない」と伝えると、これに対し諏訪は、「確かにテレビ局でも配信に持って行こうとする動きはありますが、少なくとも僕らの動きは土曜6時のリアルタイムでいかに見てもらうかに集中している。だからオンタイムで見てくれている人に向けて見逃し配信のテロップを出し、わざわざ“別のところでも見られるよ”と教えるのはいかがなものか」と、社内なでも様々な意見があることについても語った。
高山氏から、「テレビの見方はリアルタイム・オンデマンド・録画と3種類あるが、諏訪さんとしてはリアルタイムで見てほしい?」と尋ねられると、そこは難しいとしながらも、「全国民が日曜日にサザエさんを見て“明日は月曜日だな”と感じたあの感覚をみんなで共感したい、それができるのがテレビの力だと思う」と諏訪氏。再び高山氏から、「昨今増えているセカンドスクリーンについてはどう思っているのか?」と尋ねられると、「ご飯を食べながらテレビを見るのと同じでそこは自由だと思う」とし、「ながら見でも情報が入ってくるのがテレビの魅力、それだけのコンテンツを制作している」と諏訪氏は自信を持ち回答した。
そして、「うちではリアルタイムでテレビを見ることはない」という小沢氏からは、「リアルタイムで見るときはTwitterで実況してみんなで楽しみたいとき。それぞれが違う場所にいても、一緒にリアルタイム放送を楽しめるというのは、昔でいうお茶の間で家族みんながテレビを一緒に見ていた光景とどこか似ていると思う」とし、そのまま話題はインターネット上で初めて公開されたことでもおなじみの人気アニメ『やわらか戦車』に移行。高山氏から、「ライブドアネットアニメで人気が出て、気づいたらテレビで取り上げられ話題となった」とヒットの経緯が語られ、「結局テレビで知ってもらえても視聴はニコニコ動画などになるが、そうやってテレビ向けにバズを起こすとネットで盛り上がり、テレビ視聴率に比べると極わずかだがネットの視聴が前週に比べて0.1%上昇したりする」と、テレビの影響力の大きさを伝えた。
■ユーザーを引き付けたあの名作の制作秘話
次に諏訪氏から、担当している『名探偵コナン』の『劇場版名探偵コナン』が5年連続でシリーズ最高興収を更新したことが伝えられ、小沢氏より「仕掛け方がうまい」と言われると、『劇場版名探偵コナン』ではテレビ放送と同様エンディングで次回作の予告を入れており、ファンは翌年の劇場版では誰がメインの作品になるかを予測するのを楽しみにしてくれていると説明。「その手繰り寄せもお客さんとの距離を近づけている」と諏訪氏は分析。実は『YAWARA!』のときから同手法を取り入れており、そのきっかけを「サザエさんで最後にじゃんけんをするという仕掛けに対抗したかった」と同氏から秘話が語られると、「じゃあ『シティーハンター』のエンディングの入り方を考えたのは?」と小沢氏が当時受けたというその斬新な試みについて尋ねた。
『シティーハンター』のエンディングでは、最後のシーンに被せながらエンディング曲のイントロが流れ始めることから、「火曜サスペンス劇場のエンディングで使用した岩崎宏美さんの『聖母たちのララバイ』をモデルにTMNETWORKさんに依頼した」と回答。それを受け小沢氏も、「自身の漫画制作においても読者が一回で読み飽きないために、その世界観に引き込まれる仕掛けや工夫を心がけている」と語り、自身も様々な作品に触れ影響を受けたものも取り入れたという作品が紹介された。テレビアニメと漫画、土俵は異なれどユーザーを楽しませ引き付けるというクリエイティブ性の高さは非常に合致しているよう感じられた。
■面白いものを作れば結果が出る
最後に質疑応答で、「コンテンツを作るのも大事だがマネタイズをしなければいけないと思う。テレビもwebも基本はタダ(無料)で見るという中で、これからどんなビジネスモデルができるか?」と問われると、諏訪氏は、「テレビでやる以上は宣伝効果、つまりテレビの広告価値を高めることが一番。そして今は、海外展開と配信の部分をどこが取るかが勝負」とし、同社で制作したコンテンツをテレビ放送するだけでなく、海外展開とネット配信も含めてどう展開していくかが現在の課題であると伝えた。加えて諏訪氏から、「競合は東映アニメーション」と名指し、ローカル局である同社でもコンテンツ事業部があり、海外展開やネット配信事業にも力を入れていると説明。その上で、「マネタイズしなければいけないのはわかるが、制作側としては自分たちがいいものを作ることが大事」と述べた。それには以前、日本でヒットしたアニメが海外で大ヒットしたのを受け、同ジャンルのアニメで海外設定に編集し、再び海外にチャレンジしたが、「結局、日本でもそこそこの人気だったものは、海外でも伸び悩む結果になった」という苦い経験が関係している。そのような経験もふまえ、めぐりに巡って一周回って確信が持てたのが、「自分たちが面白いものを作れば結果は戻ってくる」ことだと諏訪氏は力強く告げた。
テレビの見られ方が多様化し、時代の流れに合わせテレビ局でもインターネット配信に力を入れているが、「それでも最後はテレビに戻ってくる」という信念のもと、クリエイティブな視点で時間と予算を費やしコンテンツ制作にあたっていることが、今回のトークセッションでも伝わったのではなかろうか。