NHK技研公開2017レポート ~2020年へ、その先へ、広がる放送技術~
編集部
NHK放送技術研究所(技研)の研究成果を一般に公開する「第71回技研公開」が、2017年5月25日(木)~5月28日(日)東京・世田谷のNHK放送技術研究所にて開催。今回は、“2020年へ、その先へ、広がる放送技術”をテーマに掲げ、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた「スーパーハイビジョン」関連の映像表現技術をはじめ、AIやビッグデータ解析などを駆使した番組制作支援技術「スマートプロダクション」など、放送技術はもちろん情報通信分野の急速な発展が期待される2020年をターゲットにした研究開発と、さらにその先を見据えて技研が取り組む研究開発を分かりやすく伝える催しとなった。
■フレーム周波数120Hz対応ディスプレー登場
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け以前から力を入れている8Kスーパーハイビジョンだが、今年はより高輝度で、フレーム周波数120Hzにも対応した4Kパネルを4枚貼り合わせた130インチ8Kディスプレーを展示。バックライトが不要な自発光型の有機EL(Electro-Luminescence:電界発光)を使用した厚さ約2mmのディスプレーに、来場者は正面から、そして真横からディスプレーを眺め驚きの声を上げていた。現状、ガラスのため巻き取ることができないが、そういった点の改良も含め将来的には130インチを1枚の有機ELで8K解像度を表示できるシート型ディスプレーの開発を目指している。
また、8Kスーパーハイビジョンのフルスペック化を目指した制作システムの研究開発では、フレーム周波数120Hzに対応した新規開発のフルスペック8Kスーパーハイビジョン制作機器を展示し、スポーツ中継における実用化をイメージしたデモも実演していた。
フルスペック8Kとは「高解像度の8K」「広色域のBT.2020」「多階調の10/12bit」「高フレーム周波数の120フレーム」「HDR(ハイダイナミックレンジ)」「22.2ch」を兼ね備えた高臨場感・高実物感の映像表現を可能にするテレビジョンシステムのこと。2018年の実用放送、2020年の本格普及に向けて撮影・編集機材の準備も着々と進んでいるようだ。
■新しいテレビ体験ができる「メディア統合プラットフォーム」
現在、番組コンテンツはリアルタイム放送、インターネット同時配信、VOD(ビデオオンデマンド)サービスなど多様な方法で視聴されているが、配信メディアや視聴機器によってコンテンツを視聴するための操作が異なり、その使いづらさがユーザー離れを引き起こす要因の一つとなっている。そこで研究開発されたのが、配信メディアや視聴機器に関係なく、ユーザーが視聴したいコンテンツを同じ操作で選択し、利用状況に応じて最適な配信メディアを自動的に選択する技術である。
これは放送通信連携システム「ハイブリッドキャスト」をベースに、屋内のテレビ受信機の前だけではなく、屋外を含むさまざまな生活シーンの中で、モバイル端末を用いてリアルタイム放送・ネット同時配信・VOD(ビデオオンデマンド)などから適切な配信メディアを自動的に選択する技術で、「メディア統合プラットフォーム」と題し展示されていた。
さらには視聴環境に応じて複数の端末を連携させる技術の開発にも取り組んでおり、例えば放送受信機能のない端末で放送コンテンツを視聴したり、手元で操作中の端末とは別の大画面の端末で視聴したりもできるようになる。また、放送とネットサービスを横断する番組リンクの開発も行っており、放送視聴中のユーザーがSNSで共有したコンテンツのURL(リンク)を指定し、他のユーザーがそれぞれ適切なメディアで同じコンテンツを視聴することなどが可能になる。
例)
Aさんは通信状態の良い公園でコンテンツにアクセスし、ワンセグで放送を視聴
Bさんは同じURLから番組を立ち上げ、ワンセグの通信状態が悪いのでインターネット同時配信で視聴
BさんからURLをシェアされたCさんは、番組終了後にアクセスしたため、VODで視聴(VODが無ければ何も見れない)
開発者に開発経緯を伺ったところ、「技術が進化し便利な世の中になっているのにも関わらず、その目新しさや操作方法がユーザーにとって難しいものとして捉えられていることがあるのでそういった点を解消したかった」とし、「もっと簡単に、解像度の高い綺麗で大きな画面で、できればリアル放送で番組を見てもらいたい」と開発への思いを語ってくれた。
■NHK×各局のHybridcast Connectの拡張の実用化に向けた取組み
NHKと民間放送事業者やテレビメーカーはじめさまざまな事業者と連携したテレビ×ネット×ライフを支えるフレームワーク「行動連携サービスとその基盤技術」の展示では、各局ならではの特性を生かした開発がなされていた。
例えばTBSではケンタッキーフライドチキン協賛のもと、CM視聴と来店行動をつなげるサービスを展開。ケンタッキーフライドチキンのCMを10秒間視聴すると、店舗で利用可能なポイントをスマートフォン(以下:スマホ)に貯めることができたり、実際に店舗の近くを通るとスマホに店舗が近くにあることやポイント利用のお知らせが届く機能などが搭載されている。
これはHybridcast Connect(Hybridcastの端末連携サービスに用いるスマホのアプリ用機能の名称)の拡張による連携機能によって、テレビとスマホのアプリ、IoT(internet of things:パソコンやスマートフォンだけでなく、あらゆる物がインターネットにつながること)機器などとの連携機能をスマホ上に実現する技術を用いたもので、生活空間にある多様なデバイスを利用して、ユーザーの生活行動と番組視聴がシームレスにつながる技術である。
開発に携わった人に話を伺ったところ、「CMを視聴してもらい来店行動につなげるだけでなく、いつどのCMを見て入店したかといったデータも事業者にフィードバックできるところまで補完したサービスを開発したかった」と開発経緯を語ってくれた。
同様にテレビ朝日やフジテレビのブースでもHybridcast Connectを利用した各局独自の強みを生かした試みが展示されており、テレビ朝日ではゲームをするとドラえもんロボットが反応するという仕組みが、フジテレビでは視聴に基づいたポイントサービスを軸に、LINEスタンプ やゲームなどでポイントが利用できるといった、ユーザー体験をテーマとした取組みが展示されていた。
■AIやIoTの活用で変わる近未来の生活スタイル
取材をした26日(金)はちょうどイベントのなか日、平日最終日だったが、業界関係者含め一般の親子連れなども多数来場し、新しい技術の展示やその体験を楽しんでいた。今回紹介した他にもAIを活用した番組制作支援技術の展示や放送コンテンツを中心としたIoTによるさまざまなサービス連携の展示、スポーツ中継をビジュアルで分かりやすく示すための三次元被写体スポーツグラフィックシステムの展示などがあり、どのブースにも人だかりができていた。今回、技研で展示されたそれら新技術が具現化し、生活スタイルが大きく変わる未来は、もうすぐそこまで来ているように感じられた。