若年層のカジュアル動画視聴 〜その実態から探る今後の動画サービスへのヒント【InterBEE2019レポート】
編集部
2019年11月13日(水)〜15日(金)、幕張メッセ(千葉県)において開催されたInter BEE 2019。その会場内のカンファレンスエリア「INTER BEE CONNECTED」で行われたセッションプログラムでは放送・広告業界における最先端の取り組みが紹介された。
本稿では11月13日(水曜日)に行われたセッション「若年層のカジュアル動画視聴 〜その実態から探る今後の動画サービスへのヒント」で紹介された最新のテレビ・動画コンテンツの視聴傾向を参照しながら、とくに若年層に向けた「カジュアル動画」と呼ばれるような、ライトな構成のコンテンツ展開のヒントを探る。
パネリストは、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ メディアイノベーション研究部長の美和晃氏と、同主任研究員の森下真理子氏。モデレーターを株式会社電通 電通総研フェロー 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者の奥律哉氏が務めた。
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■ラジオとライブ動画は「同じくくり」
まず最初に、ビデオリサーチ社のMCR/exデータから「自宅内メディア接触分数」(2019年度上期・関東地方)を見ながら、その特徴を森下氏が解説。「13歳〜19歳の男女ならびにM1・F1はテレビの視聴時間が短く、代わりにモバイルインターネットの利用時間がかなり多い」と述べた。
続いて、電通メディアイノベーションラボが2018年に行った調査「頼りにするメディアに関する調査」の結果を紹介した。この調査は、「いま頼りにしているメディア」というテーマで、74分野に分けたメディアや情報源を頼りにする度合を世代別に見たものだ。
森下氏:メディア分野別利用頻度は年代によってパターンが異なる。50〜60代がマスメディアに強く依存している一方、20〜40代はインターネットメディアへの関与が高い。なかでも10代はSNSのウェイトが高く、「インターネット」とも違う「SNS」というカテゴリー単体がトップに上がっている。
奥氏:これまで「放送とネット」という分けかたがされてきたが、10代に関してはネットの中でさらにもう一枚レイヤーが分かれており、ネットかつ「SNS・ブログ」をメディアとして信頼するシフトが起こっている。
森下氏:10代が頼りにするカテゴリーとして「ラジオ・ライブ動画配信」というくくりが抽出された。いまやラジオは電波のメディアというよりもradikoのイメージが強く、ライブ動画と同じカテゴリーでラジオが捉えられている点が興味深い。
奥氏:ラジオへの接触スタイルについて、いわゆる若者の親世代は「ラジオ受信機で聞く」のに対し、若者世代は「(radikoを通じて)スマートフォンで聞く」と、イメージがはっきり分かれている。具体的には40代が分水嶺。若者たちにとっていまやラジオは「流れてくる音楽や会話に身を委ねるという点で『ライブストリーミングに似ている』」という解釈がされている。
若者たちにとってラジオは「スマートフォンで親しんでいるライブ動画に近い楽しみ方ができるコンテンツ」と、ある意味逆転の捉えられ方になっているという。「これは過去の調査では出なかった、新しい視点」と奥氏は語る。
奥氏:(ラジオとライブ動画が同じカテゴリーとされる価値観は)radikoのサービス開始(2009年)から10年がたち、若者たちのあいだに浸透してきて出てきたように思う。物心ついたときからデジタルメディアに触れている、いわゆる「デジタルネイティブ」にとって信頼できる空間をインターネットに提供するという意味では、NHKの(テレビ)同時配信の見せ方の指針にもつながるのではないか。
■若者は「意外と外で見ない」トレンドは自宅でスマホ視聴
つづいて話題は、ビデオリサーチ社のMCR/exデータの「デバイス別インターネット利用状況」(2019年度上期・関東地方)に。
森下氏: 1日あたりのインターネット平均利用分数を全世代で見ると、実に8割にあたる78.5分が「自宅の中」で行われ、自宅外での利用は16.3分と意外に少ないことがわかる。利用デバイスはスマートフォンがもっとも多く、次いでPC、タブレット。PCをメインで使用するのは50〜60代の男性のみで、全体的にはスマートフォンでの利用がメインとなっている。自宅の外で利用していそうな10代でも自宅での利用が109分と多く、自宅外での利用はわずか10分ほど。
奥氏:家のなかでもスマートフォンを介したネット利用が多い。とくに若い人ほど自宅内でスマートフォンを介した利用が多い。
美和氏:「リラックスできる家の中で動画を見たい」というニーズが、自宅内・自宅外での利用時間の比にあらわれているのかもしれない。
奥:若者は通勤通学の途中で使っているのでは? とも思えるが、実は(自宅外での)時間が短い。具体的な理由としては、(金銭的にまだあまり余裕のない)学生は膨大な通信料金による「パケ死」の懸念がつねに付きまとっており、追加料金や速度制限の心配がないWi-Fi経由でつなぎたい。ここで伝えたいのは「動画に限らず、すべてのインターネットコンテンツはこんなにも家で見られている」ということ。5G回線が普及して変わるのか、ということも注視したい。
■「若者ほど長時間動画を見る」
続いてインテージ社の「i-SSPモバイルパネル」のスマホアプリの利用ログを分析した結果をもとに、15歳〜69歳の1日を通したアプリの利用状況を解説。
森下氏:アプリの利用傾向は同じ年齢層でも性差が大きい。10代男性は動画共有アプリの利用頻度が高い一方、10代女性はSNS系アプリの利用頻度が際立って高い。
20代男女も同傾向だが、男女ともに24時台に動画共有アプリの利用ピークを迎えている。
動画配信アプリは年齢による利用頻度の傾向の違いはなかったが、動画共有アプリの利用は若い世代ほど盛んであることがわかった。
若い世代にとって動画視聴のメイン手段となっている動画共有アプリ。この利用傾向から、今回の核心となる「若者における動画視聴のスタイル」が徐々に見えてきた。
森下氏:動画共有アプリの1回あたりの利用時間は、全世代の平均では1回あたり1〜5分でおさまる利用が全利用の過半数を占め、いわゆる「短尺視聴」が中心になっている。いっぽうで1回あたりの利用時間が長いユーザー層にスポットをあてると、10〜20代男女の割合が大きく、若者のほうが、1回あたりの動画視聴時間が長くなりやすい。これは動画視聴の形態変化の兆しといえるだろう。
これまで動画業界でセオリーとされてきた「動画は短いほうがよい」という考えに反し、「若い人ほど1回あたり動画視聴時間が長尺化しやすい」という新しい傾向が見え始めているのだ。
美和氏:いまの10〜20代は「スマートフォンありき」でスタートし、あらゆるコンテンツはスマートフォンが入り口だ。カジュアル動画の展開を考えるうえで現在の若者たちの「動画文化」を理解し、受け入れられる動画のあり方を考えなければいけない。
■テレビとネットが「食い合わない」ジャンルもある
若者に人気のカジュアル動画とは何か。具体的にはどんなジャンルの動画をどんな志向の人々が見ているのか。具体的な若者の動画視聴ニーズに話題が及んだ。
美和氏:15〜29歳の若者8,200人に「よく見る動画のジャンル」についてアンケート調査を行ったところ、ドラマやバラエティのような従来のテレビコンテンツとは異なるジャンルが出てきた。上位を占めたのが「YouTuber」というカテゴリー。
このなかでもさらに、幅広い企画内容を楽しめるタイプと、美容やゲーム実況など特定分野に特化したタイプの2通りに分かれた。これらはいずれもYouTuber自身による直接的な語りかけやパフォーマンスが人気の源泉になっている。若者の脳内には従来のジャンル分けでは対応しきれない「脳内(興味)マップ」が存在し、ここへいかにアプローチするかが重要になってくる。
従来とは異なるジャンル分けとは、具体的にどのようなものなのか。美和氏は具体的な例を挙げた。
美和氏:「ジャンル×フォーマット」という形で表現される、いわゆる「◯◯系」と呼ばれるカテゴライズが主流になっている。たとえば「やってみた」とも呼ばれる「実験・チャレンジ系」や、勉強や作業がはかどる音楽を集めた「作業用BGM」。特化型のジャンルだとゲームやスポーツの「名場面集・まとめ動画」。ほかには「癒やし動画」「ハウツー」「時短テク」「プチプラメイク」「詐欺メイク(別人のような表情を作り出せる高度なメイク)」など。語学の「聞き流し動画」というものも存在する。
挙げられたジャンルには、これまでテレビが得意としてきたものも多い。まったく新しい価値観というよりは、ジャンルとフォーマットの組み合わせ方が変わってきているというところが重要といえそうだ。
これらの分野へアプローチするにあたり、既存のテレビコンテンツとネットコンテンツは「パイを食い合う」関係となるのだろうか。美和氏はこの件について、「YouTubeとテレビ 視聴ジャンル間の関係をどう見る?」との表を用いて説明した。
この表は、YouTubeにおける動画の視聴頻度の相関をマトリクスで表現したもの。横軸は「ほとんどのテレビ番組ジャンルと距離をおいて見られている=テレビ視聴に関係なくYouTubeで見られているジャンル」、縦軸は「ほとんどのYouTubeジャンルと距離をおいて見られている=YouTube視聴に関係なくテレビで見られているジャンル」を示す。
美和氏:青い枠で囲んでいるところは「テレビとYouTubeで食い合いが比較的少ないジャンル」。具体的には「ニュース/報道」「情報番組・ワイドショー」「バラエティ(お笑い以外)」「ドラマ」「アニメ」。すべてのジャンルの人気が根こそぎYouTubeに持っていかれるとはいい難い。これらのジャンルはテレビらしさが残っている部分ともいえる。赤い枠で囲んでいるところは「テレビとYouTubeで良くいえば棲み分けているが、悪くいえば、消費時間として食い合いが比較的多いジャンル」。テレビで言うと「ビジネス・経済」、YouTubeでいうと「お笑い」やエンタメ性の強いジャンルで顕著に出ている。ビジネス・経済についての情報や知識はテレビで見て、YouTubeではエンタメ系のコンテンツを見るという棲み分けをしている人が多い。
美和氏の説明からは、同じテレビコンテンツであっても「テレビで見られるもの」「YouTube(ネット)で見られるもの」が存在していることがわかる。「テレビ業界にとっては(テレビならではの勝負ができるジャンルが明らかとなり)ポジティブに捉えられる情報」と同氏は語る。
美和氏:テレビ番組の本編はそのままキャッチアップなどで配信してもテレビらしさが伝わりやすい。いっぽうで先に挙がったように「名場面しか見ない」という人もいるので、そういった人々に受容性を高める工夫が求められてくる。赤い枠で囲った部分は「(ネット上での)共有の需要に適している(ジャンル)」ともいえる。これらのジャンルにおいてはネット空間で共有されやすくするための加工や、若年層の「インデックス型の映像消費文化」に寄り添った理解がますます必要だ。
同氏は、それぞれの動画ジャンルごとの視聴傾向についても言及。そこからは若者たちの「新しい視聴フォーマット」が見えてくるという。
美和氏:「名場面・メイキング・まとめ動画系」をよく見る人は、多岐にわたる対象ジャンルを横断して「ダイジェスト系」の動画をよく見る傾向にある。「学び」という大ジャンルに沿ってさまざまな動画を横断して見る人も。「YouTuber系」をよく見る人は「いろんなジャンルの情報選択をひとりの(お気に入りの)YouTuberに託して見る」傾向がある。こうした「視聴フォーマット」に沿って、キャッチアップや有料配信など、番組本編外での配信の仕方に目を向けていく必要があるだろう。
■テレビの魅力をカジュアル動画視聴層にどう伝えていくか
カジュアル動画に親しむ若年層に向け、これから放送局側はどんなことを念頭においてアプローチをしていくべきか。セッションの締めくくり、奥氏と美和氏は次のように述べた。
美和氏:若い人は、「ネット動画から視聴を始める」ことが増えている。こうした人々にテレビを使った番組視聴の楽しさをどう伝えるかが大事。地上波に関与が薄かった人がテレビを手にしたときradikoのような体験が与えられるか。テレビのネット接続が進む中、「テレビをどう使うか」という考えが我々の世代とまったく異なるものになっていく可能性がある。
奥氏:視聴の中心がテレビとネットに切り替わっていく、という単純な問題ではなく、いま動画視聴の中心はテレビとネットと「2つの焦点からなる楕円」の状態。テレビ(受像機)という形ばかりを意識していると、もうひとつの軸が見えてこない。両方の軸があることを念頭に置くことで、より多くのニーズが見えてくる。
美和氏:「カジュアル動画」という新たな楽しみ方の存在は私たちにとってもたくさん驚きがあった。しかしテレビには編集されたコンテンツという良い文化がある。この部分を大切にし活用しながら、いかにカジュアル動画を楽しむ層に届けていくかの知恵比べが大切になってくるのではないかと思う。
今回のセッションからは「ネットへのシフト」という言葉ではくくりきれない、若者の新たな動画視聴習慣のリアルが次々と浮かび上がった。テレビのコンテンツをそのままネットに出すだけではなく、いかにネット向けに料理するかという技術が今度はテレビ局側に求められてくるということを示唆するかたちで1時間のセッションが終了した。