立ち上げ2年目で早くも月間4000万~FNN.jpプライムオンラインの分散メディア戦略(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
FNN28局による総合ニュースサイト「FNN.jpプライムオンライン」は、これまでのテレビやニュースの枠を超えた記事・動画・ライブ配信などのコンテンツを揃え、発信している。注目すべきは立ち上げ2年目で早くも月間PV4000万、月間UU数1500万を達成していること。急成長を遂げる、その原動力とは何か? 運営するフジテレビジョン総合事業局コンテンツ事業室の寺記夫氏、報道局マルチメディア推進部の瀬井貴之氏、技術局デジタル技術運用部の小西孝英氏の3人に話を聞いた。(本文以下、敬称略)
■自前主義を捨て、トータルリーチで稼ぐ
――「FNN.jpプライムオンライン」は、FNN各局とフジテレビ の総合事業局、報道局、技術局の3局がそれぞれ連携しながら運営されている。はじめに、この横断的な組織体制を組む狙いを聞いた。
寺氏:2018年4月2日にサイトが立ち上がり、社内ジョイントベンチャーのような体制で運営しています。報道はこれまでマネタイズとは無縁でしたが、激変するメディア環境の中で生き残っていくために、これからはニュースのカテゴリでもマネタイズを考えていく必要があります。そこで、収支セクションであるフジテレビの総合事業局が「FNN.jpプライムオンライン」のビジネスやサービス面を担当する事になりました。
小西氏:技術局はひと昔前までは放送技術が中心でしたが、今はデジタルニュースが得る知見を技術局も吸い上げようという方針に変わりました。今年7月から技術局も責任を持って「FNN.jpプライムオンライン」を担当しています。天気や速報など報道ならではのシステムも技術局がカバーすべきだと思っているところです。
瀬井氏:FNNとしてはこれまで地上波のニュースを配信する「FNN-News.com」を、フジテレビとしてはオリジナルのLIVE番組や読み物を中心としたニュースサイト「ホウドウキョク」を運営してきました。「FNN.jpプライムオンライン」はそれらの取り組みを統合し、それぞれの良いとこ取りをした形になります。これまでの経験が生かされています。
――数字にも結果が表れ、初月のPV1500万から現在は月間PV4000万以上(2019年6月)に成長している。具体的にはどのような戦略に落とし込み、展開しているのだろうか。
寺氏: 分散メディア戦略が功を奏しています。自前主義ではなく、トータルリーチで稼ぐ作戦です。ライブ配信はYouTubeやTwitterで視聴するユーザーが圧倒的に多い。ヤフーやLINE、SmartNews、グノシーなど、どこからでも流入できるようにしたことが、初動の段階から多くのユーザーを呼び込む結果に繋がりました。
――自前主義が根づくこれまでのテレビ局とは異なるやり方に反対はなかったのだろうか。
寺氏:分散メディアのコンセプトはプロジェクトの開始時から認識合わせが出来ていました。システムのコスト面でも大手プラットフォームのインフラを一部利用させて頂くことは費用対効果が高いんです。
小西氏:そもそもユーザーがメディアのブランド名を意識しなくなっていることも大きいのかと。若い方ほど気にしていない。たまたま辿り着いた動画や記事をチェックしている。だから、ひたすら拡散し、いかにタッチポイントを増やすかが大事なのかと思います。
瀬井氏:確かにメディア名を選択する意識は薄れていると思いますが、話題の記者会見などをライブ配信するたびに、「FNN.jpプライムオンライン」の認知が拡がっている感覚もあります。
寺氏:ライブが入口になっていることは興味深い傾向です。視聴数が100万を超えるライブ配信も増えてきました。
■ライブ配信はリアルタイム3割、アーカイブ7割の傾向が散見
――ここ数年で視聴が一般化した記者会見などのライブストリーミング配信も「FNN.jpプライムオンライン」の売りになっている。
寺氏:最近、リアルタイムとアーカイブの割合に興味深い傾向が見えてきました。天皇陛下が退位する際の「最後のお言葉」はリアルタイムが26万、アーカイブが118万、トータルで144万視聴でした。山里亮太さんと蒼井優さんの結婚報告会見はリアルタイムが28万、アーカイブは88万でトータル116万視聴。リアルタイムよりアーカイブの割合が多くなっています。
例えば地上波で世帯視聴率10%のドラマが全国で約600万世帯に視聴されたとすると、少なくとも600万人が見た計算になりますが、キャッチアップ(見逃し配信)で見てくれるのはその10%~20%くらいかな、というのが今の一般的なテレビマンの感覚かと思います。でも、「FNN.jpプライムオンライン」のライブ配信からはリアルタイムが30%、アーカイブが70%という世界観がみえています。テレビ視聴のポテンシャルも実は逆なのかもしれないと感じつつあるところです。
瀬井氏:短尺ニュース動画の見せ方としては、まずテロップの入っていないシロ素材をウェブ用に再編集し、テロップはスマホに最適化した大きいサイズで入れ、音声無しでも内容がわかるようにしています。ヤフーやTwitter、YouTubeなどにも配信しているので、オートプレイでうまく流れていることが視聴者数に反映しているのだと思います。
寺氏:各プラットフォームによるプッシュ通知も機能しています。例えばTwitterで「FNN.jpプライムオンライン」をフォローしていると、LIVE配信時に通知が表示されます。本来はリアルタイム視聴が難しい平日の昼間でも、プッシュ通知が届くことでLIVE配信の存在に気づき、仕事をしながら視聴するようなスタイルも増えて来たのではないでしょうか。
小西氏:ライブストリーミング配信はテレビ局だからできることだと思います。他のニュースサイトにはなかなかできないことのひとつです。朝起きたらスマホを開いて、Twitterで今日の話題をみるのが習慣になっている若年層に観てもらうには、テレビ局もゲリラ的にやっていく必要があります。
「FNN.jpプライムオンライン」のニュースルームには「ほこら」と呼ばれるサブスタジオのような設備がある。この「ほこら」が売りのストリーミング配信を機能させる中枢部にあたる。どのようなシステムを組み、運用しているのか。中編は「ほこら」の現場からレポートする。