高精細VR・没入型・ARなど未来の映像体験が集結~NKH技研公開2019レポート【前編】
編集部
東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所(技研)は、最新の研究成果を発表する展示会「技研公開2019」を5月30日(木)~6月2日(日)に一般公開した。それに先駆け、5月28日にメディア向け内覧会が行われ、今年のテーマや展示内容、見どころが紹介。前編では、昨年の「技研公開2018」で発表された同研究所が3か年計画(2018-2020年度)で掲げている3本柱のうちの1つ、より臨場感・実物感の高いコンテンツを届けるための技術「リアリティーイメージング」から、5つの注目ブースをレポートする。
■未来のメディア技術「ダイバースビジョン」実現に向けて
冒頭、NHK放送技術研究所 所長の三谷公二氏より、今年のテーマ「ワクからはみ出せ、未来のメディア」が発表された。テーマについて三谷氏は、「これまでテレビ放送は2次元映像サービスの“高品質化”と“高機能化”の両面で進化してきたが、新たに“表現空間を拡張”したサービスを提供する未来のメディア技術“ダイバースビジョン”をキーワードに研究開発を進めている」とコメント。将来(2030~2040年)の新しい映像表現技術として、画面から飛び出したり、画面の枠を取り払った3DテレビやAR(拡張現実)/VR(バーチャルリアリティー)を活用することで、離れた場所の人とも一緒にテレビを視聴したり、ウェアラブル端末から情報を取得するといった、見どころ満載の展示となった。三谷氏は「高い没入感の“高精細VR”や“ARテレビ視聴”の技術をぜひ体感して欲しい」と締めくくった。
■「ダイバースビジョン」による便利で快適、大迫力の視聴体験
・高精細VR映像〜高精細で没入型の映像体験〜
将来の多様な視聴形態の一つとして、高精細なVR映像の放送応用の研究を紹介。高い没入感と臨場感を兼ね備えた高精細なVR映像を、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や、個人視聴用のドーム型ディスプレイなどで楽しめる将来を想定している。
高精細VR映像の撮影と制作は、3台の8Kカメラを放射状に並べて撮影している。撮影方向の異なる映像を統合(スティッチング)することで、8Kを超える高解像度の180度映像を取得し、没入感と臨場感を感じる広視野で高精細な映像を実現した。
・ARを活用したテレビ視聴スタイル〜出演者や家族・友人と空間を共有するテレビ視聴〜
ARグラス(AR技術を搭載したメガネ)やタブレット・スマートフォンを通してテレビを見ると、出演者や別の場所の家族・友人の3次元映像が等身大で合成表示される。展示では、人気番組『チコちゃんに叱られる!』のチコちゃんと、『みんなで筋肉体操』に出演中の武田真治氏がテレビ画面から飛び出す視聴体験が実施された。
・視点に追従するインテグラル3D映像〜携帯型端末を使った3D映像の視聴に向けて〜
特別なめがねを使わなくても自然な3D映像が視聴できるインテグラル3D映像システムについては、以前、別のイベントでも紹介したことがあったが、今回は視聴者の視点に追従する、インテグラル3D映像の表示が可能に。画素密度の高い小型ディスプレーに表示するシステムを構築し、3D映像の広視域化と高品質化が実現した。
■4K8K関連の最新技術
・フルスペック8Kライブ制作伝送実験〜次世代衛星による8K120Hz映像と22.2Ch音響の生中継〜
高フレームレートにより被写体の動きを鮮明かつ滑らかに表現できるフルスペック8Kライブ制作伝送実験ブースでは、他ブースより3倍は広い面積を用いて展示。昨年は8K60Hzまでの対応だったが、今年は8K120Hzに対応となり、カメラ、低遅延、軽圧縮IP伝送装置、リアルタイム編集可能なオンライン編集機を用いてライブ制作を実施。ライブ伝送は、8K120Hzの符号化装置と21GHz帯衛星を利用し、8K120Hzに対応した88インチのシート型有機ELディスプレーによる表示と22.2Ch音響のトランスオーラル再生を行っていた。
・スーパーハイビジョンワイヤレスカメラ〜高画質で低遅延な4K8K映像を伝送〜
大容量の4K8K放送のスポーツ中継番組で利用できる、ワイヤレスかつ小型(約20㎏)で低消費電力の伝送装置を展示。制作現場で機器の設営を簡単にするために、受信信号をイーサネットで伝送する装置も開発し、ケーブルの延長や分岐が簡単に行える仕組みになっている。スポーツ中継の他、音楽番組などでも威力を発揮しそうだ。
後編では、NHK技研 3か年計画の3本柱の残り2つ、ネットを活用してユーザー体験を向上させる技術「コネクテッドメディア」、AIにより効率的に番組を制作する技術「スマートプロダクション」から、注目のブース7つを紹介する。