OTT時代に攻めるべき番組の売り方と作り方〜【MIPCOM2018カンヌ現地インタビュー:国際ドラマフェスティバルin Tokyo 実行委員会副委員長重村一氏】(後編)
ジャーナリスト 長谷川朋子

オールジャパンの民間組織「国際ドラマフェスティバルin Tokyo」がフランス・カンヌで10月に開催された世界最大級の国際テレビ見本市MIPCOM(ミップコム)の期間中、今年も日本のドラマのプロモーション活動を行った。番組の国際流通はデジタル時代を迎えて活発化し、競争が激しくなっているなか、日本は今、どのような番組ビジネスが求められているのか。前編に続き、日本のドラマの国際ドラマフェスティバルin Tokyo 実行委員会副委員長兼EPの重村一氏(ニッポン放送取締役会長)に現地で話を聞いた。
日本のドラマが海外に売れにくい理由〜【MIPCOM2018カンヌ現地インタビュー:国際ドラマフェスティバル in Tokyo 実行委員会副委員長重村一氏】(前編)
■グランプリは日テレ『anone』、リメイク賞はカンテレ『美しい隣人』
日本の公式イベント「J-CREATIVE PARTY」が10月16日午後6時30分からマジェスティック・ホテル・カンヌで開催され、海外バイヤーによるドラマ投票「MIPCOM Buyers’Award for Japanese Drama(ミップコム・バイヤーズアワード・フォー・ジャパニーズドラマ)」の授賞式が行われた。
審査員として選ばれた海外バイヤーはフランスのテレビ局M6をはじめ、イタリア、ノルウェー、ポーランド、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、UAE、中国、トルコなど計22人。アウォードの進行役はトルコのニルファー・キュヤル氏(トルコ最大の放送局ATVの元バイヤーで現在リメイクビジネス専門会社の代表)が務めた。

キュヤル氏は『日本のドラマは奥が深いことを早くから気づいていました』と語るほどに、日本のドラマに注目している人物のひとり。今回、リメイク可能な作品をアウォードのノミネート作品に選出したこともあり、ラインナップ作品に関心も示していた。
アウォードに参加した局は全9局、番組はNHK『半分、青い』、日本テレビ『anone』、テレビ朝日『おっさんずラブ』、TBS『アンナチュラル』、テレビ東京『逃亡花』、フジテレビ『コンフィデンスマンJP』、朝日放送『幸色のワンルーム』、読売テレビ『ブラックリベンジ』、関西テレビ『美しい隣人』が選出された。
そのなかから、海外バイヤーが“ぜひ買いたい作品” “自国で放送したい作品”という観点で選んだ優秀作品として、日本テレビの『anone』(主演・広瀬すず/脚本・坂元裕二/プロデューサー・西憲彦、次屋尚/演出・水田伸生)がグランプリを受賞。同社廣瀬健一取締役が登壇し、審査委員長のドラガン・ペトロビッチ氏(セルビア)からトロフィーが授与された。

また今回特別に設けられた「リメイク賞」は 関西テレビの『美しい隣人』(主演・仲間由紀恵/脚本・神山由美子/プロデューサー・豊福陽子/演出・今井和久、小松隆志、星野和成)が受賞し、同社コンテンツビジネス局の岡田美穂局長が代表して受賞コメントを述べた。

こうしたマーケットが関心を示す「リメイク可能なドラマ」にフォーカスした理由について、改めて重村氏に尋ねた。
「メディアの環境は変化しています。MIPCOMの参加者にも変化があり、放送局だけでなく、NetflixやAmazonなどデジタルプラットフォーム事業者も参加するようになりました。流通するコンテンツもそれに対応し、海外にそのまま流通できる番組だけでなく、リメイクが可能な番組も用意していく必要があります。こうした状況を経営者にも伝えていくことも大事なことですから、アウォードを通じて広く知ってもらおうと、リメイク可能なドラマにフォーカスしました」
■イギリス民放放送局ITVのライバルはNetflixに?
今年のMIPCOMでは「テレビ産業のビックシフト」がひとつのテーマにもあった。番組の流通形態が多様化し、放送局のビジネスモデルにも変化が起こっている。それを象徴していたのはイギリス民放最大手放送局ITVのCEOキャロライン・マコール氏による講演だった。マコール氏は来年からITVはSVODサービスに本格参入することを発表し、「オリジナルコンテンツを売りにしたSVODサービスを目指します。Netflixは競争相手となっていくでしょう」と述べ、既存の放送局ビジネスからの脱却を強調した。

マーケットの状況に対応していくべきことは番組の売り方だけに限らくなっているようだ。重村氏もこれに同意し、日本の海外展開が今、抱えている課題についても意見を述べた。
「OTTの時代には、グローバルな発想を持った脚本家や制作者がさらに求められているように感じます。日本の放送局は国内マーケットだけでリクープする考え方にとどまっていますが、これからは開発段階から世界にも視野を広げていく必要があるのではないかと、思うところがあります。韓国はなぜ海外で成功しているのかというと、韓国国内だけではリクープできないから、はじめから海外も考えた上で番組が作られています。ですから、今、日本にとって重要なことは日本の経営者も制作者も海外マーケットを意識することだと思うのです。20年前から日本の経営者はそれに気づいてはいました。けれども、実行できていないまま。日本も状況は変わりつつありますから、生き残るために真剣に考えていく必要がありそうです」
つまり、海外展開で成功させるためには、番組の作り方そのものを変えていくことも求められているということだ。MIPCOMに参加する放送局のなかには、実際にはじめから海外マーケットも視野に入れた制作が行われているケースもみられる。例えば、今回、ワールドプレミア上映された日本テレビのドラマ『プリティが多すぎる』は企画段階から海外視聴者をターゲットに制作が進められたものだった。その結果、日本の放送とほぼ同じタイミングで既に海外の複数か国・地域での放送・配信が実現した。
最後に今年のMIPCOM全体について振り返ってもらった。
「MIPCOMに参加すると、各国の動きに刺激されることも多いです。今や世界の第2のドラマ輸出国であるトルコはパビリオンブースをみるだけで、勢いを感じます。そして、中国、カナダも目立っていました。一方、日本のパビリオンブースは規模が縮小されました。地方局の参加が減ったからです。我々も地方局の参加を促し、アウォードで地方局の番組表彰にも力を入れていますが、世界に目を向ける局はそう多くはありません。海外マーケットに参加する地方局もいらっしゃいますが、アジアのマーケットに集中しがちです。でも、世界はアジアだけではありません。アジアだけをみていてもダメ。世界中の業界関係者が集まるカンヌにも参加し、世界もみるべきだと思います」


MIPCOMの恒例日本イベント「J-CREATIVE PARTY」と海外バイヤーによるドラマ投票「MIPCOM Buyers’Award for Japanese Drama」が企画される背景と狙いを改めて聞かせてもらうことで、プロモーション活動の役割が明確になった。加えて、日本の番組コンテンツ全体の課題と世界のマーケット状況もみえた。世界の番組マーケットを見据えた番組の売り方と作り方があっても良さそうだ。変革期こそ攻めるべきなのではないか。