広くなった画面で「笑いが逃げる」? セット作りへのこだわり
編集部

写真:フジテレビ美術制作センター所属デザイナー安部彩氏
バラエティやドラマなど、テレビ番組のセットを作り出す役目を担う美術制作。今回は、フジテレビの美術制作局美術制作センター所属の安部彩氏に、地デジから4K、時代の変化によるセットの作り方のこだわりについて伺いました!
――少し昔の話になりますが、テレビの画角帯が地デジになって広がりましたよね。その影響は大きかったですか?
その前の4:3から16:9になったとき、画面の端までがすごく広がって、たった3人のトーク場面でも脇が大きく映るようになりました。そのため、煽りの画を撮るとすごく高いセットにしなければいけないという問題が出てきたんです。
ものすごいスケールで番組の世界観を作れるんですけど、それに伴って費用が発生するので、そこはアイデア勝負でしたね。高さがあるセットを、高く作らずに、でも高く見えるように。

写真:「さまぁ~ずの神ギ問」イラスト案 → 実際のセット
――番組の内容によって違いはありましたか?
ドラマはまだそんなに問題はなかったですけど、バラエティの場合は大きく作ると困ったことがありました。
バラエティのセットはコンパクトに作った方が「笑いが逃げない」んです。あるお笑い芸人さんが「スタジオセットが広すぎる。もっと笑いが逃げないような作りの方がいい」と仰っているとよく聞きました。
――「笑いが逃げる」ってすごい言葉ですね! 広い空間だと「笑いが逃げる」とか?
そうです。業界用語だと思いますけど、最初の頃は苦労しただろうなと思います。
――画質やカメラの進歩に気を遣うこともありますか?
こっちは逆に、バラエティだとセットはセットらしくてよくて、そもそも作られた空間の中でのショーという感じです。セットにリアリティではなく、より番組の雰囲気を盛り上げる空間が求められますので、ある程度のクオリティがあれば問題にはならないんですけれど、ドラマだと昔のスタイルのままではちょっと見てられない映像になりますね。
スタジオにセットを組むときは、部屋だと棚とかの各パーツを細かく分けて工場から持ってきてスタジオで組み立てるんですけれど、白い壁だとつなぎ目がどうしても出てしまいます。昔はそこにテープを貼ったり、ちょっとボコボコしていてもカメラを通せばわからないだろうという感じだったのが、今はもう細部まできっちり仕上げないと辛くなってきています。
画質4K対応で収録するようになると、変な継ぎ目やちょっとしたズレによってリアリティが失われるんですね。役者さんの演技のテンションとか、観ている側の感情移入に影響を与えないように、最近はみんな苦労しています。
――美術からすると、撮影技術やカメラの進歩は大変だと?
セットも綺麗に作ればいいだけじゃなくて、モニターチェックを大モニターでやらないといけない世界になってきました。例えば、カメラさんが窓を触ったら、どうしても指紋が付くんです。何人で生活しているんだこの部屋は!? と思うほどの指紋が窓についちゃったり……。
――逆に、4Kで良くなると思われることは?
伝えたい世界観はよりクリアに伝わると思います。人物とセットの距離感も、今はまだのっぺりとした感じですが、人物の奥の葉っぱから水のしずくがポタポタ落ちていれば雨上がりだなとか、そよいでいるカーテンの動きで吹き抜ける風など、より奥行きを表現できるんじゃないかという楽しみはあります。
でも、あまり作りこむことだけに熱中してはいけないという気持ちもあります。映画のように2年、3年かけて壮大なものを作るよりも、今だったら2016年秋にしかできないような、その瞬間だけに生まれて、その時代の匂いがプンプンするドラマの方がワクワクしますし、それができるのはテレビだけだと思います。時代の空気感がガンガン感じられるお笑い番組とか、懐かしい! あの時代のファッション! と興奮できるようなドラマ、そういう作品にもっと携わりたいですね。そして、ディティールの作りこみだけでなく遊び心も大切にしたいです。
――なるほど、テレビはテレビの世界を追求していくということですね。高画質で今の時代を切り取って、将来に残すという意義もうなずけます!
[vol.1]テレビ制作の裏側探報! 美術制作が作り出す映像の世界観とは?
[vol.3]テレビからどんどん飛び出せ! フジテレビのもの作りへの挑戦
[vol.4]「番組視聴」に選択肢の多い時代、テレビは必要か?

――安部彩氏プロフィール
フジテレビ美術制作センター所属デザイナー。
2005年入社。主な担当番組は、「めざましアクア」「めざましテレビ」「直撃LIVE グッディ!」「人生のパイセンTV」「さまぁ~ずの神ギ問」「キスマイBUSAIKU!?」「さしこく」「久保みねヒャダこじらせナイト」ドラマ「未来日記」「水球ヤンキース」「ナオミとカナコ」「好きな人がいること」。また、一昨年サンケイビルとのコラボレーションで分譲マンションのデザインも手がけた。