「番組視聴」に選択肢の多い時代、テレビは必要か?
編集部
バラエティやドラマなどテレビ番組のセットを作り出す役目を担う美術制作。今回は、フジテレビの美術制作局美術制作センター所属の安部彩氏に、海外ドラマから学ぶこと、テレビ低迷と言われる時代を制作側はどう感じているのか、率直な意見を伺いました!
――NetflixやHuluでは海外ドラマをたくさん流していて、安部さんの同世代の女性に人気だと思いますが、美術目線からみて脅威に感じること、また学べる点はありますか?

「セックス・アンド・ザ・シティ」など、その時代の空気感をぎゅっと詰め込んでいるドラマはすごくいいなと思っています。3年後に観たらダサくてもいい、といった風に、たぶん振り切って作っているんですよね。かなりテレビドラマ的だと感じられて好きです。
撮り方とかセットも、お国柄があるかもしれませんが、そこまで情報を詰め込んでいないのも特徴だと思います。カントリーな家だったらザ・カントリーみたいな感じ、オフィスだったらおしゃれでガラスメタルみたいな、結構振り切っていますよね。
それから、最初のコンセプト作りがすごくしっかりされている気がします。細かいサイズ感ではなく「まずこういう世界観で作りましょう」という壮大なスケールが大事だというのは、観ていて勉強になります。
――そのドラマが数多く流れるネット配信などの台頭で、視聴率の問題も含めて、世の中全般的にテレビが面白くなくなったと言われます。この状況は、美術制作の目線からはどんなふうに感じられて、どうしていきたい、という考えはありますか?
視聴者の目線で考えると、朝起きてテレビを点けると生活の流れができますよね。朝ドラ見て、そのあとは生活情報よりニュースが知りたいと思ったら「とくダネ!」を観るとか。
そういう流れの中で、自分に合っていないと感じる番組があると、今は選択肢が増えているので、コンテンツの選択肢がすごく多いNetflixとかHuluに替えたりしますよね。でも情報とか報道、ニュースに関してはテレビの信頼性が高いと思いますし、共有性もあるので観ることがたぶん多くなると思います。
そして生活の流れという意味ではもう一つ、やっぱりみなさん曜日を意識して生きていますよね。今日は月曜日だから「月9」観ようとか。この日はこの番組があるという楽しさ、日常のワクワク感は、テレビの強みだなとか思っています。曜日ならではの流れは、テレビと日常生活のすごく密接なあり方なので、そこは負けないと思っています。
あと、どんなに映画とか海外ドラマを観ていても、災害や大事件が起こった時にみんなが観ているのはスマホでもパソコンでもなく、テレビなんですよね。それもテレビの強みだと思いますし、東日本大震災の時にも避難所の体育館に一つテレビがあると、その前にみんな集まっていたという話を聞くと、やっぱりテレビって必要だなと感じます。
――テレビの必要性は変わっていないということですね?
今の状況は、いろいろかみ合わせが悪いだけじゃないかなと思っています。だからあまり悲観的にならず、良いところに目を向けてやっていけば、また一つの媒体として時代とかみ合っていくのかなという気がしています。
新入社員採用の一貫としてクリエイターズスクールをやっていますが、「みんなテレビ持ってる?」と聞くとほとんど「持っていない」と答えます。それでも、テレビのクリエイターズスクールに来るんです。
就職活動の一環かもしれないですけど、魅力的だと思っているから受けていると思うんですよね。学生は実家に帰れば絶対に母親と一緒にテレビを観ているはずだし、きっと朝の情報番組でじゃんけんして、「勝った!今日は良い日になるな!」ってやってくれているんだろうなと。
若者がテレビから離れているけれど、また観たいと思わせる何かしらのきっかけがあれば……。テレビの価格が安くなる、といういようなものではなくて、テレビを観よう!と思う状況が生まれれば、また日常生活の中の一つの媒体に戻る気がします。
――テレビ番組の制作側の意見を伺って、作る側はもっといいものを求め続けているということを実感しました。テレビは他の媒体と違って、「日常生活を彩る」ものではなく「日常生活に溶け込む」ものなのかもしれません。これからも、きっかけを作り出してくれるような番組を期待しています!
[vol.1]テレビ制作の裏側探報! 美術制作が作り出す映像の世界観とは?
[vol.2]広くなった画面で「笑いが逃げる」? セット作りへのこだわり
[vol.3]テレビからどんどん飛び出せ! フジテレビのもの作りへの挑戦

――安部彩氏プロフィール
フジテレビ美術制作センター所属デザイナー。
2005年入社。主な担当番組は、「めざましアクア」「めざましテレビ」「直撃LIVE グッディ!」「人生のパイセンTV」「さまぁ~ずの神ギ問」「キスマイBUSAIKU!?」「さしこく」「久保みねヒャダこじらせナイト」ドラマ「未来日記」「水球ヤンキース」「ナオミとカナコ」「好きな人がいること」。また、一昨年サンケイビルとのコラボレーションで分譲マンションのデザインも手がけた。