テレビ制作の裏側探報! 美術制作が作り出す映像の世界観とは?
編集部
バラエティやドラマなどテレビ番組のセットを作り出す役目を担う美術制作。今回は、フジテレビの美術制作局美術制作センター所属の安部彩氏に、どうやってあのセットが作られていくのか、美術デザインの仕事とは何かを伺いました!
――美術デザインって、どういう仕事ですか?

基本的には企画初期段階で、ディレクターが作りたいと思っているもの、まだコンセプトが曖昧で決まりきっていないものを、現実に落とし込んで固めていく最初の場が、美術デザインだと思っています。シャープな映像にしたいのか、ポップなものにしたいのか、泥くさく笑いを取っていきたいのか、一緒に番組の世界観を作り上げる役割をしていますね。
――具体的には、どういう流れで仕事が進むんですか?
例えば、キーのMCが決まっていて、クイズ番組で、ゲストは5人ぐらいというだけが決まっている企画初期の段階から、セットの話を始めます。そのMCの方のタイプによっては、前に出て行けたり立って進行できたりした方がいいし、ゲストの人との距離は近い方がいいとか、ちょっと距離があった方がいいとか、ディレクターと話しながら何となくセットのイメージを膨らませていきます。
このときディレクターと共通したイメージを思い浮かべるためには、出演者に対する知識も必要です。そこで普段から、テレビに限らずSNSもチェックして情報を仕入れています。もしお笑い芸人さんでしたら、どういうお笑いをやっている人なのかを知っていれば、より面白いものが提案できるので、日々勉強しています。
――曜日とか時間帯など、放送枠の違いは関係するんですか?
日曜でも昼と深夜では全然違うので、それぞれのイメージが持てるようにしています。1日ボーッとテレビを観ている日も大事ですね。
深夜はお酒を飲みながら観られるような番組もウケると思いますが、昼間のバラエティだとブランチというか、お酒よりはお茶やコーヒーが合うような、知的なものがいいかなと。そうしたら、明るい感じのセットの方がテレビを点けていて楽しいだろうな、というようなリサーチはいつもしていますね。
――イメージは実際にどうやってセットに落とし込んでいくのですか?
ドラマの場合ですと、監督との話し合いでどういうセットで行くのかが決まった後にイメージ図を、まず平面図で起こします。「ここからここまで三歩で歩いて会話をしたい」とか「窓辺に座って黄昏れる時間が欲しい」とか、演出面のリクエストを聞きながらの作業です。
その他にも「リビングがちょっと広すぎて、端から端まで声を張らないと聞こえないのは嫌だ」とか「ぼそぼそ独り言をいって膝を抱えたりできるような部屋がいい」とか色々な注文がきます。
それで図面ができたら、次は道具帳という立面図を書きます。この壁の高さはどうか、などを書き起こします。図面を書く時は、役者さんの身長を調べて、ここに立つと頭すれすれだけど、手をかけてしゃべることができてそれもいいな、とか考えながら図面に落としていくんです。
――セットの中で、本棚などのアイテムとかも打ち合わせの中で決めるんですか?

そうですね、監督が狙って希望を伝えてくる場合もありますが、キャラクターの世界観が作られるところなので、デザイナーとしても美術進行、装飾部や演出部と一緒になって考えていきます。
例えば「好きな人がいること」の時に、監督からダイニングテーブルは大きい流木みたいなものがいいと言われたので、必死に装飾が探してきて、大道具の方で年季や手作り感を入れたりする作業をしました。
また柴崎家の長男・千秋の部屋は、いわゆるインテリ系のモノトーンにしようと監督と話が進んでいましたが、インテリの人はひと癖あるよねということになったんです。革靴にすごくこだわっているとか、腕時計コレクションしているとか……。そこで嫌みがない趣味は何かないかと、みんなでアイデアを出し合って決めていきました。

――テレビのセットは、監督が考える番組の世界観を表現するために、多くの人がアイデアを出し合った成果なんですね。画面の中から何気ないこだわりを見つけ出すのも楽しそうです!
[vo.2]広くなった画面で「笑いが逃げる」? セット作りへのこだわり

――安部彩氏プロフィール
フジテレビ美術制作センター所属デザイナー。
2005年入社。主な担当番組は、「めざましアクア」「めざましテレビ」「直撃LIVE グッディ!」「人生のパイセンTV」「さまぁ~ずの神ギ問」「キスマイBUSAIKU!?」「さしこく」「久保みねヒャダこじらせナイト」ドラマ「未来日記」「水球ヤンキース」「ナオミとカナコ」「好きな人がいること」。また、一昨年サンケイビルとのコラボレーションで分譲マンションのデザインも手がけた。