ローカル局が番組制作システム販売!? 多方面展開が生んだ注目の産物
編集部
広島テレビが始めた「子育て応援団」プロジェクト。子育てイベントから始まったこの事業は、必要に応じて新たなシステムを生み出し、そのシステムが収益を生む構造へと変化を遂げようとしている。プロジェクトの中核を担った広島テレビ放送株式会社 コンテンツ本部 編成局 イノベーション事業部 チーフプロデューサー 益村 泉月珠氏を直撃した。
■短い天気予報番組が変革のきっかけとなる
広島テレビは、「これからの時代を担う子どもたちの健康的な成長と、みんなが子育てを支援する社会の実現」を願って、「子育て応援団」プロジェクトを推進。
このプロジェクトの元となっているのは、2004年から年1回、広島グリーンアリーナで行われている人気イベント「子育て応援団」。例年5月に開催され、2日間でおよそ4万人の参加者を集めるほどの人気を集めていた。
この子育て支援のイベントが、どのようにして幅広く展開していったのかを益村氏に伺った。
「私が編成局に異動してすぐくらいに、せっかく『子育て応援団』という人気イベントがあるのだから、何か番組ができないのか? という相談を受けました。使える素材として考えたのが、子どもたちの写真でした」
2007当時、各部署のデスクが旗振り役となり最初につくったのは、単純に子どもの写真が連続で出て、画面の下3分の1に天気予報のスーパーを出すフィラー。この「子育てんき」というタイトルの天気予報は、この後いろんな効果を生み出していく。
■「めんどくさがり」が新たなシステム開発に
「子育てんき」の写真入れ替えは、最初は手作業だったそう。
「スタートしたのはいいものの、メールで応募を受け付けて写真を管理して、名前のスーパーを間違わないように放送に乗せるまで、本当に大変だったのです! それでなんとかシステム化できないかと考えました」(益村氏)
そして、ちょうど同時期に行っていたNTTドコモと協力した子育て応援団フォトコンテストのシステムに目を付ける。写真投稿システムの最初の段階だが、モバイルサイト上で動かしたシステムを天気予報番組の制作に採り入れた。
それでも2分半しかない番組なのに編集作業が大変で、次は自動的に番組をつくるシステムの開発に着手する。企画を立て、ベンダーに発注し、最初の制作はベンダーの協力でつくることができたそうだが、「必ず売ります!」という益村氏の奮闘で、動画写真投稿システムや「ミニ枠番組つくるくん」の開発につながった。
次々とアイデアとシステムを企画し実現していく益村氏は、「ただのめんどくさがりなんです」と笑顔で語るが、並大抵の推進力ではシステムづくりを可能にできるはずはなく、広島テレビの自由かつ前向きな気風が感じられた。
低コストかつ効率的に短時間の番組がつくれるため、他のローカルテレビ局からも引き合いがあり、中京テレビが2016年の24時間テレビで流した笑顔動画(10フレームずつ写真が切り替わるもの)も、このシステムを流用したもの。
■ネットワーク各社に採用されるシステムを構築
この広島テレビの熱意は、キー局の日本テレビをも動かす。
「当時の上司が日テレさんにかけあってくれて、今のものよりも良いものをつくろう! という話になったのです」(益村氏)
フォトコンテストで開発した動画写真投稿システムを元に、日テレ報道局の協力を得て、テレビ局がより使いやすい報道用の視聴者動画写真投稿システム「ケンミン記者プラス」を提供することになった。
現在は、日テレを始めとするネットワーク28局で利用されており、ITソリューションの提供を実現している。
「『ケンミン記者プラス』の特徴は、ネットワーク各社、例えば札幌テレビは“どさんこ投稿BOX”、宮城テレビは“ミヤテレ動画ポスト”、中京テレビは“キャッチ!投稿BOX”、くまもと県民テレビは“KKT投稿ボックス”と、名称が違うことです。ローカル局の顔が見えることで、視聴者のみなさまは、その局に投稿しよう! と思ってくださることが多いのではないでしょうか」(益村氏)
特に災害時や事故現場の動画や写真は、東京に集中してしまうと、取材や確認に手間がかかってしまうため、信頼性や速報性に劣ってしまう。
その後、ネットワークを越えたテレビ局にも利用してもらえるように廉価版動画写真投稿システム「ポステレ」の販売もしている。
地域密着のローカル局だからこそできることを突き詰めるため、広島テレビは、番組づくりだけではない観点からアイデアを考え出し、挑戦し続けている。そんな広島テレビは、なんと厚生労働大臣優秀賞まで受賞している。なぜそこまでできたのか、引き続きお話を伺った。