TBS日曜劇場『御上先生』民放連続ドラマ初のSNS戦略 ~BeRealで"リアル"な現場の息吹を届ける~
編集部
左から)藤原倫太郎氏、出口彩菜氏、中澤美波氏、国定希生氏
TBSテレビ日曜劇場『御上先生』が、スピンオフショートドラマ『御上先生には内緒。』を配信し、同時に民放連続ドラマ初となるBeRealでの公式アカウントを運用中だ。Z世代に人気の写真共有アプリBeRealを活用し、生徒役で出演中のキャストたちの素顔を届けるという試みを行っている。担当者に話を聞いてみると、その舞台裏には、想定外の展開と新たな可能性が広がっていた。
<「BeReal.(ビーリアル)」とは>
BeRealは2020年1月にフランスで誕生した写真共有アプリ。全員が同時に投稿するユニークな機能により、フィルターや飾り付けのないありのままの自己表現を促し、他者との自然な関係を築く場を提供している。
■プロフィール紹介
中澤美波氏
株式会社TBSテレビ コンテンツ制作局 ドラマ制作部 株式会社ジニアス所属。日曜劇場『御上先生』プロデューサー。
出口彩菜氏
株式会社TBSテレビ コンテンツ制作局 ドラマ制作部 株式会社ザ・ワークス所属。日曜劇場『御上先生』アシスタントプロデューサー。生徒役キャストとコミュニケーションをとりつつ、「BeReal.」公式アカウントの運用を行う。
藤原倫太郎氏
株式会社TBSテレビ コンテンツ戦略本部 総合プロモーションセンター プロモーション部 兼 プラットフォームビジネス局 CSメディア事業部、新規IP開発部所属。『御上先生』の地上波・TVerでの視聴を促すプロモーションの一環として「BeReal.」での展開を企画立案。
国定希生氏
「BeReal.」代理店パートナーシップリード兼コンテンツソリューションマネージャー(日本国内初となる社員)。日本のZ世代に向けたブランドの構築やクライアントの関係強化に努めている。
■なぜTBSはBeRealを選んだのか?「日曜劇場」の新たな挑戦
――民放ドラマとして初めてBeRealを採用した経緯からお聞かせください。
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藤原氏:TBSの日曜劇場は長い歴史をかけ最も注力している放送枠の1つであり、社会問題や制度に疑問を投げかけたり、壮大な物語をお伝えするような、重厚な作品を多く放送してきました。
その中で、本作の舞台は高校です。その瞬間を大事にする同世代の視聴者の方に向け、プロモーションにSNSを積極的に絡めることで、生徒役キャストの皆さん輝きに乗せ、番組に興味を持っていただき視聴につなげられないか。という着想から、若い世代で利用率の高いBeRealでありのままの姿を発信する施策を立案しました。
――ドラマ班は、プロモーションの藤原さんからの立案を聞いて、どんなことを思われましたか?
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中澤氏:飯田和孝プロデューサーとは、当初から「『3年B組金八先生』以来の学生がたくさん出るドラマなので、できる限り若い子を取り入れるプロモーションをしていこう」、「今回の日曜劇場では、今までの『日曜劇場』にあるイメージをあえて脱してみよう」という話はしていました。いかに第1話を若い世代に見ていただくか、プロモーション部と話をしているなかで、BeRealの存在を教えてもらいました……が、じつはよく知らなかったんです(笑)。
ただ、中西真央プロデューサーは知っていましたし、BeRealの特徴である「リアルをかたどる」というのは、今まで聞いたことがなく、それをドラマでやるのは面白いなと思いましたね。それに、今回の現場は生徒役キャストはもちろん、スタッフも平均年齢が低く、主演の松坂さんも30代と若い。何気に相性がいいんじゃないかなと思いました。
出口氏:BeRealの存在を知ってはいたのですが、実際にやると聞いたときは驚きました。時間制限があったり、その場で撮らなければならない制約もあったりするなと……。撮影の現場やセットで本当にそんなことができるのか、不安ではありましたね。でもいざやってみると、自ら「参加したい!」と言ってくれる生徒役キャストの方もいて、楽しみながら取り組んでいただいておりホッとしています。
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――国定さんはTBSさんからお話がきたとき、どんなことを思われましたか?
国定氏:他の企業さんの広告案件を見ても、リアルタイムかつフィルターを通さないBeRealがエンタメ業種でハネることは分かっていたことでした。私としても、民放さんと接点を持ち、後押しさせていただく施策に取り組みたいと考えていたところでしたので、正直待ち構えていた部分はありましたね。
実際やってみると、Xでも「『御上先生』の公式アカウントを見つけた。私も登録してみよう」という声があって、地上波放送やTVerの視聴だけでなく、BeRealユーザーへの流入にもつながった。ドラマがファンダムを築くってすごく重要だけど、他のSNSだとノイズが多くて難しいこともあると思うんです。そういった意味では「BeReal推し」のような、BeReal上でも番組に対する推し活が生まれているのはまったく新しく、アメリカでもフランスでも見受けられない日本独自の特性だなと思っています。そもそも、演者さんの属性が合っているので、成功することは確信していたところはありますね。
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■「BeReal撮るぞー!」生徒役キャストたち自らのアイデアも
――現在ドラマ撮影中ですが、どのように運営しているのでしょうか?
中澤氏:正直言うと、通知がランダムすぎて……。
国定氏:すみません(笑)。
中澤氏:いえいえ、そこが面白いところだとは分かっているんです(笑)。休憩時間や、生徒役キャストたちがそばにいれば撮れるのですが、ドラマ撮影中や支度中だとまだ難しいですね。今のところは、出口が「BeReal撮るぞー!」と集合をかけて、みなさんが集まってくれるかたちです。生徒役キャストの皆さんが自ら「撮るよ!撮るよー!」と呼びかけてくれることもあります。
――運用において心がけていることはありますか?
中澤氏:実際の撮影現場で行っているので、ネタバレ要素の映り込みは気にしますが、基本的にはキャストの方々に自然体で撮ってもらうのが魅力なので、そこまで気にしている部分はありません。
――国定さんは今回の運用において、事前にアドバイスはされたのでしょうか?
国定氏:そんなおこがましいことはできないです(笑)。ただ、BeRealってクローズドコミュニティで、簡単に言うとLINEのグループみたいなものなんです。日本で言うと平均30人のグループが星の数ほどあるイメージです。そうなると、タイムラインに出てくるのは友人のみ。そのなかで「企業アカウントとしてどうあるべきか」は考えないといけないな、と思っています。つまり、ただの番宣だとしらけちゃう。
ただ、今回ご投稿いただいている写真は、ある種友達の延長線上のようなもので、僭越ながら、ドラマの取り組みとしては相当新しい角度ですし、それこそが成功につながっていらっしゃるなと思っています。僕としてもワクワクしていますね。
――やはり、生徒役キャストさんたちは若い世代ですし、慣れるのが早かったんでしょうね。
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出口氏:そうですね。最初からフロントカメラとバックカメラで撮ることは初回投稿時から理解されていましたし、1枚目に投稿した男女分かれて撮った写真は、生徒役キャストさんたちのアイデアなんです。
中澤氏:BeRealを撮っていると、いつも以上に一体感が出ることで、場の雰囲気も良くなるし、楽しいんですよね。
藤原氏:BeRealは、映えない・盛れない「リアル」が売りだと思うのですが、みなさんバシッと決めてくるからすごいですし、生徒役キャストさんたちが前のめりに参加してくれるのは本当にありがたいです。
■BeRealの魅力と作品との親和性
――ある種、BeRealが生徒役キャストたちのクリエイティビティを発揮する場所にもなっているんですね。
出口氏:短時間で撮影場所やポーズを考え、瞬時にこだわりを詰め込み、そこでもいろんな意見が飛び交うんです。そのやりとり1つ1つからも、どうしたら楽しんでもらえるか?を考えられている姿が印象的です。長い撮影の休憩中でも「よし。撮ろう!」と意気込んでくれたり、「そのままの写真が出る」と分かっているのに変顔をしたり(笑)、素に近いものが出ているので、キャスト皆さんの魅力が伝わってくると思います。
――それが、国定さんのおっしゃる友達の延長にもつながっていると。
国定氏:Z世代のSNSの使い方って、日常のシーンを共有しあうだけでなく、「ドラマに出てる子たちでさえも、私と同じところがある。だから私もこれでいいじゃん」という共感の場にもなっているんです。そういった意味では、『御上先生』の投稿は、共感を促せる投稿になっていて面白いですよね。
――せっかくの場ですので、国定さんに直接聞いてみたいことはございますか?
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中澤氏:初めての試みなので分からないことも多いのですが、大人数で撮った方がいいのか、少人数でやった方がいいのか、どちらが喜んでいただけるのか、傾向はありますか?
国定氏:あまり人数は関係ないのかなとは思います。少し違う切り口ですが、他のSNSとの使い分けとして、TikTokもYouTubeも投稿に対する時間やカロリーがどんどん増えるなか、BeRealに関しては1枚で撮れますよね。僕たち「BeRealマネ」と呼んでいるんですけど、たとえばTikTokだとマネするにはダンスを覚えなきゃいけないけど、「今日のコーデ」が定番化しているBeRealは1枚で終わるからマネしやすい。
影響力のあるドラマだからこそ、誰かがマネしやすい撮り方をすれば、それが広がる可能性はあるなと思っています。そのバイラルの仕方というのは、TikTokやXよりも強い気がしていますね。
中澤氏:なるほど。いつもはバタバタ撮っていますが、そういったところを意識して撮影するのも良さそうですね。
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■企業アカウントでは日本一のフォロワーを獲得!次なるステップと未来への期待
――いざ実施してみて、ユーザーの反応はいかがですか?
藤原氏:(インタビューしていただいた時点)まだ「BeReal.」アカウント開設を公式で発表していない状態なのですが、すでに多くのフォロワーの方がいらっしゃいます。告知後にどのくらい増えるかもありますが、どう楽しんでいただけるのか。を引き続き模索していきたいです。
国定氏:企業アカウントという切り口でいうと、『御上先生』は群を抜いて日本一です。やはりコンテンツとしての作り込み=自然体で撮るって、なかなかできないんですよね。商品やサービスのプレースメント投稿にいやらしさを感じてしまうなか、ドラマだからこそできるストーリーのチラ見せが、(ユーザーの)「覗きに行きたい」という想いと合致している。しかもまだほとんど告知をしていない時点で、みんなが見つけにいく「熱量」は僕としても注目しているポイントです。
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――前例がないなか、ドラマ現場でBeRealを採用したのは、改めて「挑戦」だったと感じます。
藤原氏:はい、それもすべて作品に臨む皆さんの姿勢があってだとつくづく感じます。本作の現場は、生徒役キャストの皆さんを中心に、大人たち(キャストの皆さんやスタッフも含めて)が支えながら、ドラマを良くするために何ができるのか。を御上先生にならい、ちゃんとみんなで考えて話し合って、発展させている現場だと感じます。
プロモーション担当の立場からすると、プロデューサー陣をはじめ制作スタッフの皆さんが作品創りに集中している傍らで、コーヒーを飲みながら談笑しながらも真剣にアイデアを発展させ、チャレンジに前向きなことも非常にありがたいと思っています。
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――ドラマチーム的にBeRealの可能性や今後期待することがあれば教えてください。
出口氏:さきほど国定さんが「BeRealはマネがしやすい」とおっしゃっていましたが、確かに現場でやっていても、その場で考えて、新しいものが生まれて、一瞬にして流行りができるので、こうしたものがバズりにつながるのかなと思いました。
よくSNSで企画を考えることもあるのですが、こちらから「こういう企画をやります」というのではなく、生徒役キャストの皆さん自身で考えて、発信して、より素敵なものが生み出されたらいいなと思います。
中澤氏:画創りに強くこだわるドラマだからこそ、何よりも作品創りを最優先とすることが大切だと考えています。一方で、SNSなどのプロモーションは出来る範囲でやっていく。というのが通例のなかで、初となるBeRealへの参加を挑戦いただけるキャストの皆さんへ大変感謝していますし、自身も安心したことを覚えています。
また、ありのままを発信できるBeRealを通してドラマの役柄や告知だけではなく、キャストの方自身の素を感じていただく機会が増えることが、作品だけでなくご出演キャスト皆さんへの興味関心につながるとよいなと考えています。
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