驚きの予測精度!AIでテレビ視聴率を予測する「SHAREST(β版)」
編集部
近年、AI(人工知能)に関する話題が各所を賑わせている。ご多分に漏れず、SCREENSでも「主人公と会話ができる!日テレ、国内初のTVドラマ連動型AI会話サービスを提供」や「テレビ朝日が「会話型AI」で目指す“視聴者との新たな関係性”」、「IT技術で新しいテレビの扉を開いていきたい」マル研が考える“テレビ”のこれから」などで、テレビ業界とAIについて記事を掲載してきたが、今回は6月にリリースされたディープラーニングを用いたAIによるテレビ視聴率予測システム「SHAREST(β版)」(シェアレスト・ベータ版)について取り上げたい。広告的な視点からのテレビとAIの関係、及びSHAREST(β版)の現状について、共同開発者である株式会社電通 ラジオテレビ局 スポット業務部兼ビジネス戦略部 岸本渉氏と、データアーティスト株式会社 代表取締役 山本覚氏に、インタビューしてきた。
■「広告価値を高めたい!」その思いから生まれたより正確な視聴率予測システムSHAREST(β版)
SHAREST(β版)の共同開発のプロジェクトが動き始めたのはおよそ2年前。当時、株式会社電通(以下、電通)とデータアーティスト株式会社(以下、データアーティスト)で数件のプロジェクトを同時進行する中で、視聴率の予測にもAIの技術が活用できるのではないかという話になり、結果的に一大プロジェクトとして研究開発が進められた。
視聴率予測の背景について、岸本氏は次のように語る。
「従来は複数ターゲットのテレビCMの素材割り付け時等において、過去一定期間の視聴率データの平均を元に将来の視聴率を予測する方法などをとっていましたが、テレビ視聴率とマーケティングデータとの関連性を分析すること含め、細部にわたる高精度な視聴率予測をすることができれば、広告効果のみならず、広告価値そのものの向上にもつながるという思いが以前からありました。というのも、クライアントのマーケティング戦略は多様化しており、テレビCMにおいてもより効果的なターゲットへメッセージを届けることが求められているからです。特に、さまざまな商材を扱うクライアントの場合、各ターゲットの視聴率が高い枠に、適切なCM素材を流す必要があります。そうした要望を伝えていく中、データアーティストさんとのプロジェクトで、最新のディープラーニングを用いたAIによる視聴率予測システムが開発されました」
過去の単純平均のデータ予測では、急な番組の編成変更といった不確定要素には対応しきれないといったリスクがあったため、より正確な将来予測ができる高精度の視聴率予測への取組みが実現する形となった。
「SHAREST」とは高度視聴率予測システム(System for High-Advanced Rating ESTimate)の略称で、過去・現在・未来の視聴率データをシェアできることを目指し付けられた名称だ。
実際に、従来の方法での予測値、SHAREST(β版)を用いた予測値、そして放送時に取得した視聴率の3つの数値を比較する実験を昨年、一年かけて行ったところ、月別比較で95%を超える確率でSHAREST(β版)の予測値が精度として勝る結果に(※17ターゲット×12ヶ月の各月別予測精度比較を元に検証)。ある映画作品のケースでは、テレビ関係者が予想を大きく外す中、SHAREST(β版)は約0.2%前後の僅差で視聴率を予測できたといった例もある。
では、そもそもSHAREST(β版)の基盤となるAIとは、そしてディープラーニングとはどういうものか、次章で詳しくご紹介したい。
■変化する情報にも柔軟対応。圧倒的な高精度の最新技術ディープラーニング
今回、電通と共同開発に至ったデータアーティストでは、デジタル領域にとどまらないマス領域のマーケティングコンサルティング事業やソフトウェア事業など、多岐の分野にわたり事業を展開している。同社が提供するLPOツール(ランディングページ最適化)は業界でも屈指の実績だ。そんな同社の核となる事業がAIである。
代表を務める山本氏は、学生時代より10年前以上AIに携わり、人工知能の第一人者として著名な東京大学の松尾豊先生の研究室(当時の坂田・松尾研)で学んだ経歴の持ち主。最近では、自身で『小さな会社でも実践できる! AI×ビッグデータマーケティング』を執筆するなど精力的に活動している。
そんな山本氏に、まずはAIについて伺った。「松尾先生の言葉を借りますと、AI(人工知能)とは、人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれを作る技術です。AIは一つの数値を予測する上で、人間の仮設が外れやすくて複雑な要素が絡み合うもの、あるいは人によって意見が分かれるような、マーケティング領域に対するタスク全般に向いているので、視聴率の予測とも相性が良いです」
続けて、ディープラーニングとは何か尋ねてみたところ、「ディープラーニングは、脳の構造=神経細胞のつながりを模倣しており、データの抽象的な特徴を自動で定量化・構造化することを可能としたAI分野の機械学習技術のひとつです。これまでのAIにおける学習では、人間がデータの特徴を掴み前処理をした上で学習をしていましたが、ディープラーニングではデータの特徴とその重要度を判断して取捨選択し、自動的に精度を高めていけます。SHAREST(β版)の研究段階でも、例えば番組情報や世間の評判などを自動的に学習するなどの能力が備わっており、20個にも満たない情報を元に予測していた従来と比較すると、それらに関する、数えきれないほどの情報が次々と付与されるのです。」と山本氏。情報量が増すほど予測精度が高まるディープラーニングについて、「視聴率予測においても、まだまだ予測精度を高められる領域がある」とした。
開発で苦労した点について岸本氏は、「AIは何回も検証を繰り返し、修正に修正を重ねて安定的に高い予測精度が確立していくため、両社が行った1年にわたる実験もふくめて、その検証プロセスに多くの時間を費やしました」とし、山本氏は、「全番組で見ると、確実に予測精度は高まっていますが、人の感覚や業界的通念、そしてビジネス上、優先的に精度を上げるべきポイントをAIはうっかり外してしまうことがあるため、そうした人の肌感に合わせるべく細かい要望をディープラーニングに学習させるのが難しかったです」と振り返った。
では、人の肌感まで学習できるディープラーニングは、今後どのようにテレビCMに影響を及ぼし活用されていくのか、次号「視聴率を予測し広告効果を高めるだけじゃない!「SHAREST(β版)」の無限の可能性」で掘り下げていく。