「エンタメの掛け算ができる」テレビ×TikTokの可能性~ホリプロデジタルエンターテインメント×UNITED PRODUCTIONS担当者インタビュー~
編集部
左から)小島歩友氏、土屋匡範氏、高木大輔氏、木村日和氏
若年層のSNSコミュニケーションがTikTokへと集まり、テレビ番組でも公式TikTokアカウントを運用するケースが見られる。そんな中、TBS系のバラエティ番組『THE神業チャレンジ』では、株式会社ホリプロ・グループ・ホールディングスの関連会社である株式会社ホリプロデジタルエンターテインメント(以下「ホリプロデジタル」)と連携し、番組本編の切り出しとは異なる独自のコンテンツを制作。アカウントの人気はもとより、番組視聴率向上の架け橋となっている。
『THE神業チャレンジ』は、世界で流行する「神業動画」で披露されるスゴ技に芸能人が100万円の賞金をかけて挑戦する番組。MCはチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)。2021年から特番での不定期放送を経て、2023年4月からレギュラー化した。本番組は番組制作を務める株式会社UNITED PRODUCTIONS(以下「UP」)が全面的にプロデュースを担当している。
同番組の公式TikTokはレギュラー化にあわせてスタート。当初は制作スタッフが運営を担当し、次回オンエアの予告がメインであったが、昨年8月から今年の3月までホリプロデジタルと連携し、番組本編とは別個のオリジナル動画を制作、公開する方針に転換した。
2024年7月現在でフォロワー数は2万4300人に達し、多くのファンを抱える人気アカウントへと成長。さらに、ファミリーコア層の番組視聴率が上昇する要因となっているなど、SNSからテレビへとファンの流れが生まれている。
今回は、株式会社UNITED PRODUCTIONS バラエティ制作事業本部 制作3部 部長・プロデューサーの高木大輔氏、同制作1部 課長・アシスタントプロデューサーの木村日和氏、株式会社ホリプロデジタルエンターテインメント ソリューション事業部 クリエイティブ室リーダーの土屋匡範氏、同クリエイティブ室 小島歩友氏にインタビュー。具体的な取り組みの内容から、反響、効果について伺う。
■番組公式TikTokの役割を「若年層、ローテレ層への番組認知拡大」に位置づけ
──今回の提携にいたった経緯についてお聞かせください。
高木氏:特番時代からオンエア告知のために運用してきたXに加え、レギュラー化と同時にTikTokを開始しました。若者に刺さる展開をしていきたいという思いはあったものの、当初は運用のノウハウがなく、どのようにして人気や認知度向上につなげていくか、まったくの手探り状態でした。そんな中、知人がSNSマーケティングに取り組む会社としてつないでくださったのが、ホリプロデジタルさんでした。
土屋氏:これまで会社として自治体や企業などのSNS運用実績がありましたが、レギュラーでテレビ番組の公式SNSを担当するのは初めてのケースでした。UPさんも独自コンテンツとしてのTikTok展開は初めてということでしたので、イチからノウハウを作り上げていくべく、戦略策定から投稿、分析まで一連の作業を共同で行っていきました。
──XとTikTokはSNSとしてまったく領域の異なる分野かと思いますが、運用にあたって意識された点や、議論した部分があればお聞かせください。
土屋氏:Xは告知などコアなファンに情報を追ってもらうプラットフォーム、対するTikTokは認知を取っていくためのプラットフォームと考えました。ユーザーもローテレ層、若年層が多く、個々への認知に特化しているため、番組の認知拡大のための展開という位置づけを提案しました。
高木氏:これまでXではテレビと同じ16:9サイズの番宣スポット動画を上げていたのですが、TikTokは縦型動画が主流だということで、撮影の仕方から変えていこうということになりました。
土屋氏:縦側の動画を制作するにあたって「横長の動画を切り抜くという方法でもよいか?」と最初に相談をいただいたのですが、「その方法“だけ”では難しいですね」と。番組内容とは関連が薄くても、出演タレントと親和性の高い「TikTok独自のコンテンツ」も作成していく必要があることをお伝えしました。そもそも映像に求められる役割が違うので、Xと同じようなスポット動画はTikTokにははまらない、という点をまず認識合わせしました。
無数の動画を数秒未満の時間でスキップしながら見ていくTikTokのユーザーに対して、どう関心を抱かせるか。そのためにはどのような企画で、どのような構成がよいのかをすり合わせるところから始まりました。
高木氏:『THE神業チャレンジ』は、タイトルの通りさまざまな“神業”に挑むという番組ですので、チャレンジ中の様子や練習中の様子など、インパクトのあるシーンがたくさん存在します。なので、企画のネタや切り抜きどころはたくさんあるぞ、と。企画面では大きな不安はなかったですね。
■「ハッシュタグでレコメンド文脈を設定する」TikTokの仕様に特化したコンテンツ設計
──多くの動画プラットフォームでは能動的な検索で観たい動画を探す視聴体験が提供されていますが、ユーザーごとにレコメンドされた動画が次々と流れてくるのがTikTokの大きな特徴です。動画制作において意識されたポイントはありますか?
土屋氏:TikTokでは、アプリを開いた瞬間にまず「おすすめ動画」が表示される仕様となっており、それにユーザーも慣れています。目的を持って特定の動画を見に行くのではなく「何となく面白いものを探す」ことがメインのプラットフォームですので、その中で目に留めてもらえるよう、キャッチーな切り口を意識しました。
木村氏:本編以外のコンテンツを作ること自体初めてでしたが、私たちの最大の目的は「次週のオンエアを見ていただくこと」というところからはブレないようにしようと。一方、ホリプロデジタルさんには、TikTokにうまく馴染み、おすすめに乗りやすい企画を考えていただいていたので、この2つの目的をすり合わせ、番組の認知につながる形を探っていきました。
高木氏:当初はTikTok動画のノウハウを持ち合わせていなかったので、どのような映像がインパクトに残りやすいか、土屋さんたちと相談しながら作り上げていきました。
土屋氏:動画の構成としては、起承転結の「結」から始めましょうと。一番ジューシーなところから見せることで、ユーザーにまず興味を持ってもらい、その後は1秒ごとにカットを変えたり、キャッチーな言葉を入れたりすることでアテンションを途切れさせない形にしました。
小島氏:ダンス動画であれば、一番のサビの部分から。その他のチャレンジも、リアクションの部分からいきなり出す形に設計しました。
土屋氏:この形にすることで、映像としての画力の強さであったり、「あ、○○さんが出ている!」といった“出演者きっかけ”の興味を引くことができたのではないかと考えています。TikTok内で流行したネタをモチーフにした動画も多数投稿していますが、ベースとなる動画の展開を参考にしながら、「このネタなんだな」と冒頭でわかる、一種の“フリ”を効かせることにも注力しました。
──ユーザーの目に留めるという意味ではハッシュタグの設定も重要かと思いますが、このあたりはどのように設定されていますか?
土屋氏:ハッシュタグは「検索するユーザー向けのタグ」という用途ももちろんなのですが、どちらかというと今は「AIに動画の内容を理解させるメタデータ」としての用途のほうが強いと考えています。たとえば「チャレンジ」といったジャンル名やタレント名、動画の内容をハッシュタグとして設定することによって、TikTokのレコメンドに乗せるための文脈を設定するというイメージです。
小島氏:ノンバーバルなチャレンジ企画を行う際など、英語のハッシュタグを入れることでTikTok側に「海外対応のコンテンツである」と宣言し、海外のユーザー層も取りに行くことを意識しています。
土屋氏:アーチェリーのように何かをじっくり狙っているものや、緊張感のあるチャレンジ、ダンスや早覚えなど、日本語がわからなくても楽しめるものは、積極的に英語のハッシュタグを併記するようにしています。
■「運営さんありがとう」出演者のファンに寄り添うコンテンツで信頼を獲得
──2社の連携体制に入って以降、TikTokのフォロワー数は当初の5倍以上となり、ファミリーコア層の番組視聴率が上昇する要因となっているなど、何重もの成果を上げているTikTok施策ですが、ヒットの要因としてはどのようなことが考えられますか?
高木氏:当初はフォロワー1万人を目指していましたが、スタートからわずか4ヶ月、2023年以内に達成することができました。おかげさまでこれ以降もフォロワーが増加を続けています。番組ではキャスティングに力を入れていますが、MCを務めるチョコレートプラネットのお2人はTikTokでも人気が高く、相乗効果につながったと考えています。
土屋氏:「芸能人がTikTokで流行っているものに取り組んでいる、面白いアカウントだ」という反響が多く、特にアイドルグループのメンバーに登場いただいた回などは「運営さんありがとう」というコメントが数千件つくこともありました。出演者のファンの方が求めるシーンを入念にリサーチし、TikTokのトレンドに合った形で出すことができたので、ユーザーの方々にはかなり馴染んだ形で見ていただけたのかなと思いますね。
小島氏:フォロワー数が増加し、続いて視聴率アップの要因となった好循環の背景には、出演者のファンの方々が、その出演者さんの出る動画を1回見るだけで終わらなかった、という点が非常に大きいと思います。
TikTokトレンドに乗ったバズ系コンテンツとともに、チャレンジに向けて練習する様子など、番組の内容に密接するコンテンツを並行して投稿することで、まずアカウントのファンになっていただき、その後、番組自体にも関心を持っていただく導線を作ることができました。
──番組公式TikTokが、さまざまなファンダムを結ぶ存在として機能しているのですね。
土屋氏:先ほども申し上げたような、「芸能人がTikTokで流行っているものに取り組んでいる」動画や「番宣」の動画に加えて、年齢層といった単純な属性で区切らず、「こういうタレントさんのファンはこういう方たちが多いので、こういうコンテンツにしよう」と、それぞれのファンダムに特化させた、いわゆる「Hub(ハブ)コンテンツ」を作ることも意識しました。結果として、エンゲージメントが高まってバズる動画となり、さまざまなファンダムを結ぶ存在としても機能できたと考えています。
たとえば、Snow Manの深澤辰哉さんがクレーンゲームを操作して一発で景品を取る神業にチャレンジした際には、ゲームセンターで深澤さんとクレーンゲームしながらデートする動画を公開したのですが、このときにはファンの方から「運営さんありがとう」というコメントが殺到し、さながら“ファン感謝祭”のような様相を呈していました。
【番組公式TikTok】Snow Man・深澤辰哉さんの“神業にチャレンジ”を見る
──ファンメディア的な展開が、番組自体への興味や信頼につながっていったのですね。
土屋氏:こうした面は、タレントさんの特技や趣味嗜好を熟知し、魅力がもっとも活きる形を見せるという芸能事務所としてのノウハウが存分に活きた部分だったと思っています。コンテンツを掛け算し、出演者のファンコミュニティやTikTokの中で受け入れられるフォーマットに落とし込んで出すことで、「こんなに面白いことをやっている『THE神業チャレンジ』という番組があるんだ」と自然に認知していただく仕掛けを作ることができました。
木村氏:SNSという特性上、いきなり現場にカメラを入れているように見えるかもしれませんが、チャレンジ動画の収録にあたっては、あらかじめ出演タレントさんのマネージャーさんに企画書をお送りさせていただき、きちんと信頼関係を築いたうえで参加いただいています。
ダンス企画であれば普段からダンスに親しんでいる方、ダンサーとして活躍されていた実績を持つタレントさんにチャレンジいただいています。いまや生成AIでムービーも作成できるようになりましたが、こうしたリアルな空気感は真似できない部分だと思います。
■「エンタメの掛け算ができる」テレビ×TikTokの可能性
──チョコレートプラネットのお2人による「カオスな映像が撮れる撮影テクニック」の動画も話題を呼びましたね。
土屋氏:これは、チョコレートプラネットさんが自身のYouTubeで披露されていたネタを番組のスタジオセット内で行ったものです。すでにバズネタとして話題になっていたこともあり、「一見、ご本人たちが出した動画に見えるのではないか」という狙いがありました。
【番組公式TikTok】チョコレートプラネットさんの動画を見る
全体的にはとにかくカオスな展開ですが、その中に一瞬だけさりげなく番組ロゴを紛れ込ませることで番組の名前を伝えています。かつ「動画の中にロゴが何個あったでしょう?」というクイズ企画を行うことで、「いいね」や「コメント」などのエンゲージメントも促す仕組みを作っていきました。
──「一瞬のロゴの映り込みで番組宣伝動画かと気づく程度」というところがポイントなのですね。
土屋氏:「本人動画と思ったら番組公式か!」と驚かせるのは一番の理想形だと思っています。PR感、プロモーション感はデジタルネイティブの方々に嫌悪感を抱かれやすい部分なので。「たとえ告知だったとしても、動画として面白かった」と思っていただける自然さを心がけました。
──毎週火曜のオンエアに向けて動画が連続アップされていくという投稿スタイルも、盛り上がりを感じさせますね。
木村氏:オンエア3日前にあたる週末から連続して動画をアップし、たどっていただくことでスロープのような盛り上がりを作り出しています。フォロワーの再生やリアクションがもっとも多い時間が21時ごろであることが分析の結果わかったため、毎回の公開時間はそこから1時間ほどの“のびしろ”を逆算した20時ごろを目安としています。オンエアを見ていただくことが第一の目的であり、TikTokはそこへ向けての導線であるというスタンスは変わりません。
──最後に今回を振り返ってのご感想、また今後に向けた展望をお聞かせいただければ幸いです。
高木氏:本放送とは別にTikTokコンテンツを作るという初めての試みでした。イチから成功パターンを作れたことは非常に大きかったと思います。今回の施策で得られたノウハウを活かして、弊社で制作する他の色々な番組にもTikTokを取り入れていきたいと思います。
土屋氏:テレビ×TikTokという組み合わせが上手に功を奏した事例だったと思います。テレビ離れと言われつつ、テレビコンテンツそのものは変わらず若年層に刺さっているのだということを証明する形にもなりました。「エンタメの掛け算」を届けられるプラットフォームとしての面白さをTikTokには感じています。これからもどんどん、番組認知の手段として活用する事例を増やしていきたいと思います。
小島氏:TikTokは認知向上に最適なプラットフォームと言われてきましたが、今回のように視聴率の向上にもつながるとわかったのは、大きな発見でした。最近は商品購入ページへのリンクなど、購買行動につながる仕組みもTikTokに搭載されており、これらを活用した施策にも可能性を感じています。これからもさまざまな企業様と、TikTokを使って商品やコンテンツを広げていくお手伝いをしていくことができたら幸いです。