佐久間宣行「視聴者との“信頼”の積み重さねがコンテンツを強くする」〜VR FORUM 2022レポート
編集部
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2021」が、2022年11月29日(火)〜12月1日(木)にオンライン開催。過去最大23セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化やDXの流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探る。
本記事では、11月30日開催の「コンテンツの力を最大限に発揮する」の模様をレポートする。今回はプロデューサー・ディレクターとして数多くの人気テレビ番組を手掛けてきた佐久間宣行氏と、話題のテレビCM制作で数々の広告作品賞の受賞歴を持つクリエイティブディレクター・澤本嘉光氏が対談。テレビ、配信が持つプラットフォームとしての特徴の違いを踏まえながら、コンテンツが持つ価値を最大限に活かす方策を語る。
■ユーザーがメディア間で“断絶”する時代。勝ち筋は「それぞれに特化した」番組作り
テレビ東京社員を経て、現在はフリーのプロデューサー/ディレクターとして活躍する佐久間氏。その領域はNetflixやラジオ、YouTubeと多方面に及ぶが、それぞれに集まるユーザー同士には大きな「断絶」を感じるという。
「これまで、YouTuberなど他のメディアで成功した人がテレビに出てくるという流れが普通だったが、いまはそれが全くうまくいかない。それぞれのメディアに固有のファンがついており、プラットフォームをまたいだ横展開が難しいと感じる」(佐久間氏)
「CMの世界でもテレビで人気が出た方に出ていただいたり、YouTubeやTikTok、Instagramの動画で人気が出たものをCMに取り入れたりする動きが多かったが、いまはそういった手法もなんとなく飽きられてきた気がする」(澤本氏)
その一方で、「いまやテレビ番組にもいろんな生き残り方やKPIがある」と佐久間氏。ネット配信に加えてオンライン・リアルイベントなど「より直接的なマネタイズの手段が選択肢に入ってきている」といい、手がける『あちこちオードリー』(テレビ東京)で開催したオンラインライブの事例を紹介する。
コロナ禍の2021年より年数回のペースで行われる同番組のオンラインライブは、毎回多くのチケット売上をたたき出し、2021年には8万4000枚の売り上げを記録した。企画にあたって佐久間氏は先の「メディアの分断」を念頭におき、ライブ配信というプラットフォームに最大限特化した展開を志向。テレビ番組発のコンテンツながら「ライブの模様はテレビで一切放送しない」方針を打ち出したという。
「テレビでオンエアされないかわりに、オンラインライブでは『オンエアで流せないレベルの強いワード』を発言してもらうようにしたところ、爆発的にチケットが売れた」と佐久間氏。「これが『そのジャンルだけに特化している』ということなんだ、と感じた」と、プラットフォーム固有のファン層に特化させたコンテンツに対する手応えを語った。
■“感想つぶやき”を考慮したCMチャンス、見逃し視聴でも楽しめるサプライズ・・・・・・「視聴者との“信頼”の積み重ね」がコンテンツを強くする
ライブ配信というプラットフォームに特化したコンテンツで成功を収める一方、佐久間氏はテレビというプラットフォームの特性も最大限に活かしたコンテンツ作りにも取り組んでいる。
今年10月放送の『じゃないとオードリー』(テレビ東京)では、「本番と舞台裏のオンオフが激しい」というオードリー(若林正恭、春日俊彰)にカメラが密着し、「強制的に24時間オンでいてもらう企画」(佐久間氏)を実施。「さながら人間ドキュメントのような内容」を盛り上げるべく、テレビ特有のフォーマットを最大限に活かした構成をとったという。
「感動的なシーンにさしかかる際、登場人物が涙を流すようなシーンをキューカットとして挟み、CMに行くことが多いが、今回はあえてこのシーンを一気に見せ、番組のエピローグ直前、『自分のことを思ったり、SNSで感想をつぶやいたりしながら自分の気持ちを整理するんじゃないか』と思うタイミングでCMを入れた」(佐久間氏)
佐久間氏の読みは的中し、このタイミングで「SNSの書き込みが爆発した」。プラットフォームとしての特性を活かしつつ、視聴者の感情の機微に対して寄り添う演出を行うことで生まれる「視聴者との“信頼”の積み重さね」こそが「コンテンツを強くする」のだという。
「これまでは展開を引っ張ったり、核心を隠したりする編集を行っていたが、それをやると視聴者との信頼に大きなダメージを与えると思い、2〜3年前に一切やめた。いまは毎分の視聴率を上げることより、視聴者と信頼関係を積み重ねることが番組にとって大切だという風潮になってきている」(佐久間氏)
昨今のドラマで目立つキャストの“サプライズ登場“にも、その片鱗を見いだすことができるという。
「事前に一切予告せず、『ネタばらし』しないことで、リアルタイム・見逃しどちらでも楽しむことが出来る。こうした視聴者との信頼の積み重ねが、結果的にドラマ自体のコンテンツとしての強さを強化することにつながっている」(佐久間氏)
これに対し、澤本氏は「YouTubeなどを含め、クリエイターの記名性が台頭している」としたうえで、「テレビもまた『信頼する人が関わっている』という点で見ている気がする」とコメント。テレビコンテンツにおいて重要度が高まる「作り手の記名性」について、佐久間氏も同意する。
「テレビ局で社員として活躍していたクリエイターがもともといた局との関係を良好に保ちつつ、フリーとして活動するというケースは今後も続いていくと思う。そうするとなおのこと、“名前が出てくる”タイプのプロデューサー・ディレクターが増えていくのではないか」(佐久間氏)
しかしその一方、「(社員時代の)ノウハウと知名度があればいけるだろうと思って出て行くも、うまく噛み合わず『あれ、おかしいな』と思うクリエイターもいるだろう」と佐久間氏。「テレビで培ったノウハウと知名度には意味がない」と一刀両断すると、「トンマナふくめ、(プラットフォームに応じた)それぞれのジャンルを誠実にもう一度勉強し直すつもりでやらなければダメだと思う」と語った。
■「語りがいのある“祭り”を起こすのがテレビの役割」
マルチプラットフォーム時代を迎え、ますます出番が増え続けるテレビコンテンツ。特定のメディアで得た勝ちパターンが他のメディアには通用しない状況だというが、そんななか、テレビコンテンツの価値を最大限に活かす方法はあるのだろうか。佐久間氏いわく、いまテレビの役割は「語りがいのある“祭り”を起こすこと」にあるという。
「たとえば音楽の大型特番などは、テレビ以外のメディアにはなかなかできない。もちろん予算的な限界もあるし、頻繁にこれらを行うことは難しいが、自分たちの作るものが“祭り”であることを意識し、それを日常的に少しずつ起こしていくことが大事だと考える」(佐久間氏)
これを受けて澤本氏は、SNSを中心に爆発的な反響を生んでいるドラマ『silent』(フジテレビ系)に言及する。TVerにおける見逃し配信の再生数も最高記録を更新し、話題となっているが、「リアルタイム視聴も多く利用されているようで、佐久間さんの言葉に当てはめると、このドラマもまた“祭り”を作れている」と澤本氏。リアルタイム視聴の盛り上がりについても「同時でなければ“祭り”に参加できないからだろう」と語る。
「NHKのドラマは、その点を強く意識して作られているように思う」と佐久間氏。「『おかえりモネ』での“俺たちの菅波”や、『鎌倉殿の13人』での“#全部大泉のせい”のようにコンテンツを“祭り”にする仕掛けが多い」とし、「放映後の生放送番組で出演者が感想を述べる『朝ドラ受け』など、視聴者がリアルタイムで乗っかれる工夫もたくさんある」とコメント。「すなわち、NHKのドラマには“リアルタイムで見る理由”がある」と指摘した。
■「それぞれのメディアの中での面白さが“本気”でなければならない」
続いての話題は、佐久間氏が佐賀県のローカル局・サガテレビで手がけた『ラランド ニシダのお悩み散歩 sponsored by サントリー「特茶」』を紹介。この番組は5分間という短尺に加え、佐賀ローカルかつインフォマーシャルという形態ながら大きな話題を呼び、同局のYouTubeを通じた配信には全国から視聴者が殺到した。
「いわば“番組全体がCM”という構成にもかかわらず、中身が番組としてしっかりしているから、まったく違和感なく楽しめる」と感心の声をあげる澤本氏に、「とにかく面白い5分番組を作ろうと思った」と佐久間氏。「(環境によって)作り方を変えたのか?」という澤本氏の問いに、「ローカル・キー局の違いは意識していなかった」と答える。
「プラットフォームごとにいるファンは、自分たちのいるプラットフォームに対して制作者が“本気”かどうかを試している。もう『マイナーなプラットフォームだから手抜いていい』とはならなくなった」と佐久間氏。自らのYouTubeチャンネル『NOBROCK TV』で展開した企画に対し、有料コンテンツ化、イベント化の引き合いが多数来ているとし、「メディアとしてのチャンスはどこにでも転がっている」と述べる。
「メディアの分断はあるが、それぞれのメディアの中での面白さは“本気”でなければいけない」と佐久間氏。「分断を感じながらも、本気度をそれぞれのメディアに置いておくと、いつかそれがリターンとして跳ね返ってくる」といい、「これからは、作るものの“強さ”と“濃さ”を諦めなかった人たちが勝っていく」と力を込めた。
■「埋もれるコンテンツをできるだけ無くす」業界全体を挙げたキュレーションの必要性
対談の終盤は、コンテンツ流通経路の必要性について。佐久間氏は「日本ではコンテンツ単体で勝負させているぶん、流通のスピードが遅いようにも思う」といい、「韓国のドラマと・エンタメ界のように、宝物のようなコンテンツが見つかったら業界全体で外にキュレーションしていくシステムがあってもいいのではないか」と語る。
「ギャラクシー賞がもっとコンテンツの見本市として機能することもそのひとつ。“日本版エミー賞”を作ってコンテンツのフォーマットをセールしたり、クリエイターが作ったものを流通させていったりする仕組みはもっと求められるべきと思う」(佐久間氏)
「たとえば、ギャラクシー賞を取った番組しか放送しない日を設けたり、本選に選ばれたものはゴールデンタイムにもう1度流したり。もしくはそれが映画祭のようになっていっても面白いし、TVerがギャラクシー賞の受賞作品の特集もやってもいいと思う」と佐久間氏。「いずれにしても、クリエイターと別にメディアとして、埋もれているコンテンツをできるだけ無くすことがいまのテレビには求められている」と締めくくった。