テレビ広告における高速PDCAの進化 〜運用型テレビ広告の現在地と未来〜 『RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2022』レポート
編集部
高橋学氏、荒川大氏
株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局によるウェビナー『RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2022』が2022年10月7日に開催。同社が放送業界向けに開発、提供する広告出稿効率化、最適運用ソリューションの数々が紹介された。本記事ではこの中から、セッション『テレビ広告における高速PDCAの進化 〜運用型テレビ広告の現在地と未来〜』の模様をレポートする。
本セッションでは、運用型テレビ広告の実情をひもときながら、現状の課題点をAI、量子計算などの最新技術を用いたシステムで解決する取り組みを紹介。株式会社電通 第2統合ソリューション局 テクノベートストラテジー部 部長・高橋 学氏、同ラジオテレビビジネスプロデュース局 テレビ市場開発部 プロデューサー 荒川 大氏がスピーカーを務めた。
■高速PDCAの鍵は「精緻な広告効果予測」と「リアルタイムに近い広告枠の最適運用」
最初に高橋氏が「日本の広告費2021年」を用いて説明。日本の全広告費約6.8兆円のうち「インターネット広告媒体費」が31.7%、そのうち85.2%を運用型広告が占めており、「予約型広告はいまや『その他』の扱い」と語る。
「『デジタル広告と同様にテレビCMも運用できないのか』という要望が高まるなか、テレビCMのPDCAも高速化を期待されている」と高橋氏。これらの流れに対応するサービスとして、電通が開発するダッシュボード「MIERO Digi × TV(ミエロ・デジテレ)」、「レスポンスコネクター・ダッシュボード」の2つが紹介された。
「MIERO Digi × TV」では、テレビCMとデジタル広告の効果を共通の指標で横断的に評価。中2営業日でテレビ・デジタル統合のインプレッション、フリークエンシーを確認できる。「レスポンスコネクター・ダッシュボード」ではCM1本ごとに検索流入リフトなどを計測し、最短で翌営業日までに評価することが可能。クリエイティブ別、時間帯別の効果をダッシュボードで一覧できるという。
「運用型広告のポイントは、ターゲットが反応しやすい時間や枠の最大化」と高橋氏。「『広告効果予測の精緻化』と『リアルタイムに近い形での広告枠の最適運用』の両輪を回してこそ、真の運用型テレビCMの実現と言えるのではないか」と提言した。
■AI技術による「未来の視聴率予測」とデータ連携でプランニングとバイイングを直結
続いて荒川氏が、広告効果予測の基盤として視聴率予測AI「SHAREST(シェアレスト)」、広告枠運用システムとして「RICH FLOW(リッチ・フロー)」を紹介。
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「SHAREST」については、番組情報やジャンル、ターゲットの視聴傾向、天候データなどから7日間先までの視聴率を予測する「SHAREST_RT(Recent Trend)」が提供されてきたが、これに加えて新たに「SHAREST_LT(Long-term Trend)」が発表された。
「SHAREST_LT」では、AI技術「再帰型ニューラルネットワーク」を用いることで、まだ番組の詳細情報がない8日間先から120日先までの視聴率予測が可能。1週間から1ヶ月ほどのキャンペーンでも、最終的な到達見込みを予測しながら広告枠を運用できるという。
さらに、「SHAREST」の予測視聴率を用いたテレビCM運用のソリューションとして、「RICH FLOW_MC(Multi Client)」と「RICH FLOW_SC(Single Client)」も発表された。
「RICH FLOW_MC」では複数のクライアントをまたいだ組み替え提案により1キャンペーンから組換え参加でき、「RICH FLOW_SC」では1社内の複数ブランド・複数キャンペーン間で最適な素材割り付けが可能。統合マーケティングプラットフォーム「STADIA」との連携サービス「RICH FLOW powered by STADIA」を組み合わせると、WEBや店舗への来訪データなどと連携させ、よりコンバージョンに即した組み替えが可能という。
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荒川氏は、「高速なPDCAの実現には、プランニングとバイイングの一体化が大きなポイント」とコメントし、気象サービス会社・ウェザーニューズの事例を紹介。「雨の日にアプリのインストール率が高い」という前提情報を元に「RICH FLOW」で雨の日に合わせてCM出稿を多くするコントロールを行ったところ、早朝5〜6時台の枠においてAタイム(平日19~23時、土日18~23時)よりも大きなコンバージョンが得られることもあったという。
「従来のテレビ施策では前4週の平均視聴率をもとにしたバイイングのみで、KGI、プランニング、バイイングがそれぞれ離れている状態だったが、『RICH FLOW』を活用することでCMオンエアから最終的なキャンペーン着地までを見据えた枠運用が可能になる」と荒川氏。「さらに『RICH FLOW powered by STADIA』によって、よりKGIに近い部分でKPIを設計し、運用することが可能」とアピールした。
■多様な番組広告枠が “リアルタイムで運用される”未来を目指す
終盤、荒川氏は、電通のラジオ・テレビ部門と放送局の担当者とのコミュニケーションをWEBアプリ上で実現するシステム「AN-DASH(アンダッシュ)」を紹介。予測視聴率などのデータを電通・放送局双方の画面で見ながらコミュニケーションを行うことができるほか、一部の局で営放システムと連携し、「RICH FLOW」を通じて数百枠に及ぶ枠の組み替え依頼を自動化したという。
また、今後に向けた取り組みとして、量子コンピューティングを用いた組合せの最適化処理技術「量子アニーリング」を用いた技術検証をしていると紹介。実現すればこれまで数時間を要していた計算を数秒〜数十秒単位に短縮できるといい、現在導入に向けた検証を行っていると語った。
「有限在庫であるテレビ広告枠が様々な需要に沿い、その枠を最も求めているクライアント様に最適にデリバリーされることで、テレビ広告の価値全体を高めることに繋がる」と荒川氏。
「『SHAREST』と『RICH FLOW』の進化によって、精緻でキャンペーンKPIに沿った広告効果予測、より高速、高効率で多数の取扱社を支えられる最適運用を実現できる」と語り、「多様な番組広告枠が多様なニーズに従い、リアルタイムで運用される未来を目指している」と締めくくった。