テレビ朝日の災害映像アーカイブサイト「まいにち防災」担当者インタビュー
編集部
テレビ朝日は、阪神大震災から25年となる2020年1月17日、災害の映像アーカイブサイト「まいにち防災」を公開した。同サイトでは自社系列のニュースネットワーク・ANN(All Nippon news Network)系列26局の取材映像をはじめ、同社の映像投稿サイト「みんながカメラマン」などを経由して寄せられた視聴者撮影の映像など400本以上(サイト公開時点)が集約され、サイト内のマップやカレンダーから任意の場所や日付を選ぶことで「その日・その場所で起こった災害」の記録映像を閲覧できる。
大地震や台風、豪雨に見舞われた2019年は記憶にまだ新しく、私たちの生活は今もなお現在進行形でさまざまな災害の真っ只中にある。「まいにち防災」に込められた思いとは、そして今後の展望は──。サイト立ち上げを担当した、株式会社テレビ朝日 報道局 クロスメディアセンターの佐藤俊輔氏、株式会社テレビ朝日メディアプレックス Web制作部今野達也氏に聞いた。
■「災害はこのように起きる」と知ってほしい
──「まいにち防災」立ち上げの経緯を教えてください。
佐藤氏:2019年の超大型台風や2018年の北海道胆振東部地震など、ここ数年大きな災害が立て続けに起こり、多くの方が被害に遭いました。防災のためにテレビ局ができることを考えたとき、これまで我々が撮り続けてきた取材映像を通じて「災害はこのようにして起き、このような脅威を与える」ということを知ってもらうことで防災に対する意識を高めてもらえるのではないかと思ったのがきっかけです。
──災害時の備えを呼びかける「防災コンテンツ」はこれまでにもありましたが、今回災害映像アーカイブというテーマを選んだのは何故でしょうか。
佐藤氏:これまでの防災コンテンツは、日頃の備えなど「教訓」を押し付けるようなものが多いと感じていました。私は2000年にテレビ朝日へ入社し、19年間報道カメラマンとしてさまざまな災害現場で取材を重ねてきましたが、実際に放送されるものはそのごく一部でした。インターネットならば放送尺の制限を受けることなく、こうした背景の部分も含めて災害の姿を伝えられるのではないかと考えたのです。
──「ノーカット」の映像をサイトで公開している意図もそこにあるのでしょうか。
佐藤氏:我々が取材陣として災害を取材するとき、まさに発生しているその瞬間と対峙しています。津波も噴火も、まさに発生するまでの一部始終を収めているのです。どんな災害にも、発生の前後には “過程”があります。津波はどのように襲ってくるのか、噴火する火砕流はどれくらいのスピードでやってくるのか──。こうしたことをちゃんと見てもらいたいという思いがありました。
──実際に報道カメラマンとして災害と向き合っていた佐藤さんだからこその説得力を感じます……。
佐藤氏:東日本大震災の大津波においては、宮古市のケースですと、発災直後はほとんど海面変動がありませんでした。その後、徐々に海面が下がっていき、「海の様子がおかしい」とみんなが気づいてから、実際に津波が到達するまでのあいだに5〜6分程度の時間があったのです。到達までの過程をあらかじめ知っていたら、その間に避難できた人はもっと多かったはず。こうした「災害の時間軸」を知ることで、多くの人が自分の身を守ることができるのではないかと強く思っています。
■「経験していない人にも、映像を通じて知ってほしい」
──過去の映像を見て、被災当時の記憶を思い出してしまう人もいるのではないでしょうか。そのような懸念はありませんでしたか。
佐藤氏:(過去の災害映像をノーカットで公開することで)炎上するかもしれない、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)を抱える人への配慮はないのか、結局は耳目を集めるためにやっているのではないか、という批判が来るかもしれないという思いはありました。しかし同時に、災害を知ってもらうことで身を守る行動につながるはずだという自負もありました。実際に批判の声を頂戴することもありますが、それを上回る数の高評価をいただいています。
──公開された映像にはどんな評価が寄せられていますか。
佐藤氏:たとえば、阪神大震災の模様を収めた動画には「自分たちが知らない時代に、こんな出来事があったのか」「今こんなにきれいな神戸の街が、かつてはこんな姿であったということを初めて知った」という声が寄せられました。1995年に発生した阪神大震災は、いまや多くの若い人にとって「まだ物心がついていなかった頃の出来事」なのです。
──実際に経験していない人は、映像を通して知ることになるのですね。
佐藤氏:東日本大震災の発生時に仙台空港にいて、地震発生から津波到達までの一部始終を撮影していた視聴者の方の映像も配信しているのですが、「大地震ではこんなに揺れが長く続くこともあるのか」と感じます。一回揺れが収まったと思ったら、ふたたび強い揺れがやってくる様子が収められているのです。(注:東日本大震災では、隣接する宮城県沖・福島県沖・茨城県沖を震源とする3つの異なる地震が連続して発生した)こうした地震の実態がはっきりとした形でわかるという点が評価されているのではないかと思っています。
──映像を見た人たちが、自分たちのアクションにつなげているという実感はありますか。
佐藤氏:「映像を見て津波の怖さを知った。こういうときはすぐに逃げなきゃだめだよね」とか、「自分は子供たちをどうやって守れるのか考え直すきっかけになった」という声も多くいただきました。災害動画はテレビ朝日の公式YouTubeにも掲載しているのですが、350万回以上再生されているものもあります(2020年2月25日時点)。Twitterを通じて「これ(まいにち防災)を見て(未来の災害に)備えよう」と呼びかける声もあり、目的通りの役目を果たせていると勇気づけられました。
──「まいにち防災」で公開されている映像のなかには、「みんながカメラマン(テレビ朝日が運営する、視聴者からのニュース映像投稿サイト)を経由して寄せられたものも多く存在すると聞きました。
佐藤氏:「みんながカメラマン」には、毎日のようにさまざまな映像が届きます。いまやスマートフォンですぐに映像が撮れる時代となり、現場に居合わせた方や被害の大きな場所にいる方からの情報も瞬時に受け取れるようになりました。こうした映像は今度もどんどん掲載していきたいし、そこに私たちの取材によって集まった映像も乗せていきたい。(テレビ局と視聴者が)お互いに力をあわせながら、みんなが「(あの日の災害は)どういう災害だったか確認しておこう」と参照できる場所を作り上げていけたらと思っています。
■「カレンダーで見る」というコンセプトを堅持するため、独自開発も
──「まいにち防災」のサイトデザインにあたって、注力した点を教えてください。
今野氏:大量の動画を扱うサイトですので、掲載される動画の数が変動してもレイアウトが崩れないよう注意してデザインしました。サイトロゴの製作はテレビ朝日のデザイン室に依頼し、それをもとに、デザインの各所を丸みを帯びたものにするなど、災害というテーマを扱ううえで「暗くなりすぎず、きつくなりすぎず」となるよう心がけました。
──サイト構築にあたり、技術面で苦労したところはありますか。
今野氏:技術面で苦労したのは、サイトのカレンダー表示です。たんにカレンダーを表示するプログラムはいろいろありますが、「まいにち防災」では(発災時の)日付ベースで情報をインデックスするため、たとえば1月1日は「2011年1月1日」であり、同様に「2020年1月1日」も意味するのです。
──アーカイブサイトならではの仕様に悩まれていたのですね。
今野氏:既存のカレンダーでは仕様を実現できないため、「年単位をもたないカレンダー」を独自に開発する必要がありました。4年に1回やってくる「うるう年」で出現する「2月29日」の情報にうるう年以外もアクセスできるよう考慮したり、年をまたぐことで生じる曜日配列の切り替わりへの対応などに開発時間を多く割きました。
──代替の仕様を提示するという方法はなかったのでしょうか。
今野氏:それこそアーカイブサイトならば、動画を検索してシステマチックに出すというやりかたもあったでしょう。しかし「まいにち防災」においては、カレンダーベースで過去の災害を振り返るというコンセプトが重要なので、これを仕様どおりに実現する道を選びました。
──テレビ朝日では2019年に「REC from 311」(東日本大震災発災当時から現在までの被災地の復興を様子を収めた定点映像のアーカイブサイト)を公開していますが、「まいにち防災」立ち上げ時にこれらの技術的な資産は活かされていますか。
今野氏:まさに「まいにち防災」では「●REC from 311~復興の現在地」開発時の資産を有効活用しています。「まいにち防災」のマップコンテンツはGoogle Mapを利用していますが、これも「REC from 311」を踏襲したものです。サイト更新のためのCMS(Contents Management System:コンテンツ管理システム)も「REC from 311」のときに開発したものをベースとしています。
■今後は「古文書レベルまで網羅したい」
──「まいにち防災」の今後の展開について、いまの考えを教えて下さい。
今野氏:「まいにち防災」は防災情報を伝えるサイトであると同時に、膨大なアーカイブを蓄積していくサイトとしての要素が大きくなってくるのではないかと思います。現状、「誰もが見られる映像アーカイブ」としての情報量はまだ少ないですが、(映像の蓄積を積み重ねていった)100年後にはもっと大きな価値が出てくるのではと考えています。
佐藤氏:テレビ局としてのテレビ朝日は(前身の「日本教育テレビ」時代から)60年続いていますが、映像の記録技術が発達していなかった初期の映像が多く残っておらず、直近30〜40年のものがほとんどです。「災害はない日がない」というくらい、日本ではさまざまな災害がありました。個人的には古文書レベルの情報まで蓄積していくことを目指していきたいと思っています。
実際に数々の災害を目の当たりにしてきた報道カメラマン出身の佐藤氏が抱く防災への強い思いと、その思いを形にするべく技術面で全力を尽くす今野氏がタッグを組む「まいにち防災」。ひとりでも多くの人々が災害から命を守れる社会をテレビ局として目指す取り組みに、引き続き注目したい。