テレビは総合芸術だ!AKB総選挙“延長戦”を放送したテレビ朝日の「挑戦」
Takeo Tsukiyama
毎年の恒例行事となった、国民的アイドルグループ・AKB48の総選挙。生中継をしたのはフジテレビだが、2016年はなんと“延長戦”がテレビ朝日で放送され話題となった。そんなテレビ朝日の「挑戦」とは、一体どのようなものなのだろうか?
今回は“延長戦”に携わったテレビ朝日・総合ビジネス局 デジタル事業センター所属の杉山登氏と松尾健司氏に、作品作りや今後のビジネスに関する展望について伺った。
「テレビは総合芸術」作る人間が面白がらないといい作品は生まれない
何かを作る時には「自分が面白いと思えるところまで持っていけないものは出したくない」というこだわりがある杉山さん。いろいろな制約がある中で、いかに自分なりに楽しめるかがポイントとのこと。
「原作、監督、脚本、キャストetc…、全部自分で立ち上げて作れるものは少ないですからね。一人では何もできないし、誰かにやってもらわないと進まないこともある。各部署のプロフェッショナルたちとぶつかり合いながら一つのものを作っていくわけですからチームワークが大事。そういう意味で言うと、テレビは総合芸術なのかなと思いますね」
一方、まだテレビ番組を作ったことがない松尾氏は、ウェブ媒体で活躍中。8時間ぶっ通しで釣りをしている姿を生配信するなど、マニアックな作品を世に送り出している。
「ウェブの番組は、アイドルやプロレスなど、コアなファン層に刺さるコンテンツを意識しながら作っています。ウェブでは広く浅く、薄いことをやっても共感を得られないんですよ。ピラミッドの頂点にいる少数の方たちに興味を持ってもらえるような番組作りをすると楽しんで見てくれますし、お金も払ってくれる。ピラミッドの下にいる一般的な視聴者も見ているところは一番上だったりもするので。結果的に、どんどんパイが広がっていくんです」
今回は「AKB48総選挙」という、国民的行事のようなキラーコンテンツを軸に新しいビジネス戦略を試みたテレビ朝日。単なる告知では終わらない趣向を凝らした仕掛けや総選挙後に配信されるドラマへの誘導など、AKBファンはもちろんのこと面白いものに目がないエンタメ好きにも大きな刺激を与えたことだろう。
視聴率の良し悪し、プロジェクト全体と個人の課題を含めて「ああすれば良かった、こうすれば上手くいったかも」などの反省点はあるのかもしれないが、「テレビ朝日が何かをやろうとしている」という新たな施策への意欲はテレビを見ている人たちにも十分に伝わった企画だったのではないだろうか。
“テレビ”の求心力が弱くなったと言われることが多い時代だが、秋元氏と一緒に仕事をしている杉山氏いわく「誰よりもテレビのことを分かっている秋元先生は“まだまだ可能性はあるよ”と思っているような気がします」とのこと。これからも、秋元プロデュースとのコラボをはじめ、新しいものを追い求めていくテレビ朝日の「挑戦」から目が離せない。
<番外編>
テレビ業界の最先端を走る杉山氏と松尾氏。彼らは普段、どんなエンタメに触れているのだろうか?番外編として紹介しよう。
――好きなテレビ番組は?
杉山 「ドラマを制作している立場上、各局のドラマはなるべく見るようにしています。ネットものもチェックしていますよ。仕事を離れて個人的な趣味で言うと『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日系列)が好きです。あれを見ていると和むんですよ(笑)」
松尾 「僕は『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)。他局で申し訳ないですけど(笑)、コンプライアンスを全く気にしていないような企画がすごいですよね。ちょっと、他ではマネできないような気がします」
――欠かさず読んでいる本は?
杉山 「ジャンル問わず、いろいろなものを読んでいます。どうしても、ドラマのネタになるものはないかなと探してしまうので、今話題になっているものや自分が気になる小説と漫画が多くなりますね。面白かった作品は書き留めて、ドラマ作りの参考にしています」
松尾 「釣り雑誌は欠かさず読んでいます。休日は釣りに行くことが多いですね。ブラックバスやシーバス、スズキなどを釣って楽しんでいます。『BITE(バイト)』という、釣り専門のサイトも作っています」
世代や趣味が違っても、好奇心旺盛で自分が楽しむことに貪欲なところは共通している杉山氏と松尾氏。常に新しいものを作ろうと、あらゆる可能性を模索し続ける二人が、これからどんなエンターテインメントを私たち視聴者に届けてくれるのか。きっと、抜群のチームワークで誰もが面白がれるような“総合芸術”を生み出してくれるに違いない。