テレビ局はエンターテインメント企業!広島ホームテレビが手がけるプロジェクションマッピング制作
編集部
株式会社広島ホームテレビ(本社:広島市中区、以下広島ホームテレビ)が5年前から制作しているプロジェクションマッピングについて、同社 総合編成局 編成部 担当部長 プロジェクションマッピング事業 山下晴史氏にインタビューを行った。
前編となる今回は、同社が新規事業に取り組んだきっかけや経緯、放送外収入に対する考えや収益化について伺った。
■広島ホームテレビが新規事業に踏み切った理由
ことのきっかけは、以前、山下氏がメディア開発事業を行っていた際に、3DCGを扱える社員が入社してきたことだった。

「Web担当者を募集していたが、面接に来た方が3DCGができるということですぐに採用を決めた。そして番組のオープニングを3DCGで制作したところ、ものすごく評判が良かった」
それから、同社員が独自に勉強を重ね、プロジェクションマッピングにも取り組むようになったが、当時はまだ趣味の延長線上のようなもので、事業化など考えてなかったそうだ。しかし、同社の番組祭りで披露したところ、多くの反響が寄せられ、問合せや依頼が入るようになり事業化に踏み切ることになった。
■放送局のリソースを活用した新規事業展開
山下氏は、プロジェクションマッピングは新規事業展開ではあるが、畑違いの分野だとは思わないと前置きし、「テレビ局はエンターテインメント企業、コンテンツ企業なので、テレビ画面だけではなく建物やマッピングの場にもコンテンツを届けるというだけ。やっていることは大きく変わらない」と、これまで蓄えてきた“テレビの力”を発揮できる分野だと話す。


※投影する映像制作の手法は様々で、3DCGで駅舎の中を透かして見せている
また、リソースについても、「ものによってはうちの制作スタッフやドラマの構成作家に構成ディレクターとして協力してもらうこともあるし、音響についてもMAスタッフがいるので手伝ってもらえる」。また、「テレビ局の信頼性やコネクションを利用した展開も大きな武器になっている」。このように社内リソースなどをうまく活用しながら、「新しい技術が必要な部分は外部リソースを取り込みながら進めている」と現状が伝えられた。
ちなみに、なぜVRは行わないのか尋ねたところ、「頼まれたらやることもあるが、あえて競争相手が多いところに踏み入ることはしない」と競合のいない新規事業だからこそ意味があると語った。
■近づく視聴者との距離間
視聴者と放送局との関係性の構築には「双方向が欠かせない」と語る山下氏。「テレビ視聴者はユーザーであり生活者。生活者に喜んでもらえるものを作ることを基本姿勢とすることが大切」と続けた。実際、プロジェクションマッピングを制作したことで、生活者=視聴者の反応を直に見られるようになり、「スポンサーであるクライアントにも喜んで頂ける」とWIN-WINの関係であること、視聴者=生活者との距離も縮まっていることが明らかになった。
■プロジェクションマッピング事業の将来性

新規事業展開に踏み切れた理由の一つに、周囲の反響や需要を感じられたことが挙げられたが、5年経過した現在に至っても依頼件数は増す一方で、全てのオーダーには対応できない状態だという。それでも、収益としては「まだまだ。今はノウハウを蓄積し、先行投資をしている段階。やればやるだけ反応があるし、依頼も増えている」と、その将来性を感じているようだ。
また、放送局による放送外収入についてどう考えているのかを尋ねると、「デジタル放送に移行する際、当時の社長に『ローカルテレビは、主な収益事業が放送事業しかない特殊な企業体。その事業で“3年赤字が続けば先はない”』と言われたことが今も頭に残っている」と。そのため、生き残りをかけてインターネットを利用した有料サイトビジネスに挑戦したり、アニメーション制作やグッズ展開といった販促にも力を入れてきたりしたという過去の努力が伝えられた。それもあり、今回のプロジェクションマッピング事業については、「今あるリソースを使い、外部スタッフに協力してもらって伸ばしていくものがあるとすれば、プロジェクションマッピングが最大のチャンスかもしれない」という気持ちで取り組んでいるそうだ。「挑戦するしかない」と山下氏は語った。
前編では、同社のプロジェクションマッピング事業について伺ったが、後編では、今春、屋内では中四国地方最大となる常設プロジェクションマッピングを利用した、新感覚エンターテインメント『ワープする路面電車』の制作秘話や同社の今後の展望について聞いていく。