「KPI運用型TVCMプランナー」に見る、人基点のマーケティング(前編)~求められるTVCMの「変革」~
編集部
2017年12月22日に株式会社電通(以下、電通)は、個人視聴の推定でターゲットを実行動に導く「KPI運用型TVCMプランナー」のサービス提供開始を発表した。このソリューションにより、「テレビCMとデジタル広告の購買行動を最大化する最適な予算配分」と、「ターゲットの実行動を踏まえたテレビCM枠の選定と運用によるKPIの最大化」という施策が実現する。
今回は、「KPI運用型TVCMプランナー」のシステム開発のディレクションを行った電通の南坊泰司氏(トップ画像)に、サービスの概要とねらいを伺った。
■「STADIA」の優位性を活かした新サービス
「KPI運用型TVCMプランナー」は、以前より電通が提供していたテレビ視聴状況に基づくデジタル広告配信・効果検証基盤の「STADIA」に、グループが保有する人基点のマーケティング手法を結集させたフレームワーク“People Driven Marketing”のデータ基盤「People Driven DMP」を介して、外部とのデータパートナーシップを開始したことで実現された。
電通が提供する「STADIA」とは、ネットに結線されているテレビの視聴ログデータを収集し、IPやタイムスタンプ、ウェブ上のCookieと紐づけることにより、個々の視聴者に向けて効果的な広告配信を可能にし、ウェブ上の動きを合わせていくマーケティングプラットフォームだ。
「KPI運用型TVCMプランナー」の開発ディレクションを行った南坊氏は、「STADIA」のプロダクトマネージメントも行っている。その優位性について、「従来、ウェブとテレビを通した広告接触を取るようなものは大型のキャンペーンでしか数値が取れませんでした。しかし『STADIA』では大量のデータを保有することで小さなキャンペーンでも事実ベースでテレビ側のコードを取ることができます」と説明する。
■KPIを重要な指標として、テレビCMをプランニングする
「KPI運用型TVCMプランナー」の登場により、以下の施策が可能になる。
まずあげられるのは、購買行動を最大化するためのテレビCMとデジタル広告の最適な予算の配分だ。「KPI運用型TVCMプランナー」では、従来の自主調査などで得られたリーチや認知を元に行う予算配分ではなく、個別ブランドごとにデジタル広告とテレビCMのKPIを設定し、相乗効果を計量する。そうすることで、顧客のアクション(購買や申込み)に直結するような予算配分を組み立てることができ、オンライン/オフラインのKPI最大化をプランニング可能だ。
ふたつ目は、ターゲットの実行動に基づくテレビCM枠の選定と運用である。従来のテレビCMプランニングは、性や年代に基づきターゲットへのリーチを高めるものだった。しかし、「KPI運用型TVCMプランナー」では、ターゲットの詳細な行動分析を元に、データを掘り下げることができる。これらのデータにより、SNS上でのブランド情報の拡散や、特定商材の購入などの実行動などのKPIを最大化するためのテレビCM広告枠の選定が可能となるのだ。
「これまでよりも上流で予算配分を考えて、実際にテレビCMのプランニングを行うことができるようになります」。南坊氏は上記の施策について、このように語る。
一方で、KPIの設定は任意であり、商品やサービスの契約数といった明確な数字が出るクライアントもあれば、よりホームページを訪れてほしいというケースもある。この点を踏まえて南坊氏は、「サイト来訪などのコンバージョンという指標は、今までのテレビCMのプランニングと連携しにくい部分があった」ことを指摘する。
また、テレビCMを打つ際に、特定のターゲットにリーチすることをだけを目的とするのではなく、その先のアクションまで視野に入れることにより、クライアントがTVCMも併せてPDCAのサイクルを回せるようになることも大きな特徴である。「1回やって良かったのか悪かったのか、また新たな予算編成や次のキャンペーンのプランニングをすべきかなど、しっかりとフィードバックが返ってきます」と、南坊氏はその利点を説明する。
■テレビCMのプランニングに対する変革のニーズが高まる
本サービスリリースの背景には、デジタル化の潮流とテレビCMへの課題意識があったという。
デジタル広告において主流となっている運用型広告は、文字通り様々なKPIに対してそれらを達成できるよう都度運用していくものだが、従来のテレビCMにはこうした考え方が殆どなかったのだ。しかし、「STADIA」のような新しい仕組みができたことでテレビに紐づくデータが得られるようになったことでこれを活用してテレビCMのプランニングも運用型広告と同じように行いたいというニーズが生まれてきたのだという。
「CMを見た結果、例えばサイトを訪れたのか、サービスの申し込みをしたのか、アプリのダウンロードをしたのか、クライアントにとって重要なビジネスのKPIを押さえ、データドリブンでしっかりとしたプランニングを行うことが本サービスのねらいです」と南坊氏は話す。
「これまでは、なんとなくテレビは認知力やリーチ力が高い、なんとなく効果が上がっているという考えでした。僕はプランナーなのでさまざまな調査を行いますが、実際にその効果を検証するには『CMを見ましたか?CMの内容を覚えていますか?』と尋ねるしかなかったのです」。テレビCMを取り巻いていた状況について南坊氏が語るように、従来の調査では意識ベースでCM接触を確認する手法が一般的だったが、それでは十分に効果を検証しきれない部分があった。
実際、南坊氏も調査・分析を進める中で、「CMの内容を覚えていなくても、そのCMに接触した人の方が効果が高くなっていた実際という事例もありました」と続ける。テレビCMの効果を証明するのにも、データが果たす役割は大きいことがうかがえる。
後編では、テレビCMプランニングの現状を踏まえ、今後どのような効果が期待できるのかについても探っていく。