地方局が取り入れる次世代技術とネットとの共存「第2回マル研カンファレンス2017 ~ローカル放送局のAutonomy(自律)~」<vol.2>
編集部
「マルチスクリーン型放送研究会(通称:マル研)」が、「第2回マル研カンファレンス2017 ~ローカル放送局のAutonomy(自律)~」を慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにて開催した。マル研とは、マルチスクリーン型放送サービスの実用化を目指す研究会で、全国の会員91社(内放送局61社/2017年11月現在)が参加している。
第2回カンファレンスでは、ローカル放送局10社の現在の取り組みをリレー形式でプレゼンした後、慶應義塾大学環境情報学部教授・村井純氏による基調講演とパネルディスカッションが行われた。その中から、今回はvol.1に続き「次世代技術とサイマル放送への取り組み」をピックアップしてレポートする。
<次世代技術とサイマル放送で視聴率獲得>
■放送とネット配信&マルチユースとサイマル放送を重視
・南日本放送
株式会社南日本放送 メディア戦略室 俵積田邦夫氏は、「弊社ではインターネット配信を積極的におこなっており、テレビとネットの同時配信やインターネット単独・先行配信、さらにはテレビ・ラジオ・インターネットを連動させたハイブリッドサイマル放送にも力を入れて取り組んでいる」と。その事例として、2017年10月22日の衆院選開票日に「ローカルテレビ特番とラジオの開票速報をインターネット配信」、「インターネット独自番組『選挙特Burn!』の音声をラジオでオンエア」するハイブリッド編成で6時間のサイマル放送を実施したことを紹介した。
このほかにも南日本放送では、ラジオ放送の内容を膨らませた記事をWebサイトで配信している。俵積田氏は「リサーチ力を活かして、地域に特化した、読み物としても楽しめる記事の製作を続けていく」と今後の方針を語った。
・テレビ埼玉
株式会社テレビ埼玉では、ローカル音楽番組とアイドルグループがコラボレーションし、視聴者の囲い込みを目指している。「ベイビーレイズJAPAN」がレギュラー出演する音楽番組『熱波』では、放送直後から1週間限定で番組をオンデマンド配信(ADVOD)。株式会社テレビ埼玉 編成局ICT・新事業推進部 越智俊貴氏は、「全国にいるファンがほとんどタイムラグを生じずに視聴できるので、SNS上での盛り上がりにも貢献できている」と語った。
さらに音楽番組『HOT WAVE』では、「ももいろクローバーZ」の2時間特番をテレ玉ホームーページ内に開設した「HOTWEB」にて無料同時配信。この時の社内対応として越智氏は、「最大同時接続1万ユーザーで対応し、視聴環境を整えた」と説明した。それぞれの番組ではアイドルとのコラボグッズなどの製作も手掛けており、実際のライブ会場で販売も行うことで、視聴者との双方向型コミュニケーションを実現している。
■インターネット配信とストリーミング配信に注力
・山陽放送
山陽放送株式会社では、自社PRと地域コンテンツの確立を目指し、Jストリームを利用したストリーミング配信に積極的に取り組んでいる。その中でも地域コンテンツの強化を目的に2016年からスタートした「おかやまマラソン」のストリーミング配信が好調だ。撮影はゲストランナー(小島よしお、千鳥・大悟等)にランナーカメラが並走するという人海戦術で実施。山陽放送株式会社 技術局送出部 筒井規夫氏は、「一般参加ランナーやボランティアスタッフとのふれあいをそのまま配信することで、Webならではの映像に挑戦した」と語った。
フルマラソンのスタートからフィニッシュまでの約6時間、定点では表現できない動きのある映像を配信した結果、2017年のアクセス数は、ページビュー数21,957、アクティブユーザー数8,020、ページ平均滞在数約5分、同時接続約600を記録。また、大会のダイジェストとフィニッシュシーン動画をトライアルで販売するなど、デジタルコンテンツによるマネタイズにも挑戦している。
・静岡朝日テレビ
2015年1月にローカル放送局初のインターネットテレビ局を開局した株式会社静岡朝日テレビでは、動画配信サービス「SunSetTV」を着実に成長させている。株式会社静岡朝日テレビの担当者は、「SunSetTVは、Youtubeを通じて様々なジャンルのオリジナルコンテンツを配信することで成長してきたが、2017年6月からはさらなるサービス拡大を目指してコンテンツのマルチユースとマネタイズ化を戦略的に展開中」と語った。
具体的には、Youtubeの利用者層以外のファンも広く獲得するため、SunSetTVの枠を超えた露出を強化。外部の動画配信サイト「GYAO!」や「dTV」でのコンテンツ配信も検討しているそうだ。また、DVDやグッズの製作・販売など、成長コンテンツを活かしたマネタイズにも積極的にチャレンジしていく方針だそうだ。
■ハイブリッドキャストを利用し、2K放送と連動した4K配信を実施
・名古屋テレビ(メ~テレ)
名古屋テレビ放送株式会社では、次世代放送技術に対応するため4Kコンテンツの制作とハイブリッドキャストによる4K配信に力を入れている。
2017年10月18日には総務省実証事業の一環として、テレビ朝日系列中部ブロック5局(名古屋テレビ放送、静岡朝日テレビ、長野朝日放送、新潟テレビ21、北陸朝日放送)合同で、民放初となる同時ネット番組でのハイブリッドキャストによる4K配信を実施した。
名古屋テレビ放送株式会社 編成局メディアデザイン部 小林晋尚氏はこの実証事業で「系列中部ブロック5局同時ネットでの4K同期放送※、および視聴エリアに応じた4Kコンテンツの差し替えの2つを実現した」と説明した。
※4K同期放送
地上デジタル放送(HD画質)と並行し、同じ内容の4Kコンテンツを通信回線で配信。ハイブリッドキャストの技術を使って放送2Kと通信4Kの切り替え視聴を可能とすることで、放送と通信を同期した映像配信を実現する(完全な同期ではない)。
技術仕様上は、ハイブリッドキャストを活用することで4Kコンテンツをテレビ視聴者に届けることができるが、編成局メディアデザイン部の古賀健介氏は「よりサービスを普及させるには、制度の確立や認知拡大、インフラの整備、ノウハウの共有など、単局ではなく関連業界全体で、課題をクリアする必要がある」と語った。
各局ともに、次世代技術やサイマル放送の発展と普及を自社コンテンツの強化・開発に取り入れ、活かそうとしている。魅力的なコンテンツは地域を結び付けるだけでなく、地域外にも波及する大きな武器になる。地方局が積極的に独自の動きを見せる機運を踏まえて、技術側も地方局のアイデアや試みをより活性化するような懐の深さを残していかなければならない。
次回は、基調講演とパネルディスカッションの様子をレポートする。
地域貢献に向けて解き明かさなければいけないパズル「第2回マル研カンファレンス2017 ~ローカル放送局のAutonomy(自律)~」<vol.1>