『風雲!たけし城』が世界でロングランヒットの理由 ~カンヌ現地インタビュー後編
ジャーナリスト 長谷川朋子
80年代のヒット番組『風雲!たけし城』が世界で今もなお人気を博している。タイ、インドネシア、ベトナムのアジア各国で新たな現地版制作が実現し、イギリスでは名物司会者ジョナサン・ロスがMCを務める新作の放送が始まり話題を呼んでいる。さらに、つい先日はサウジアラビア版の制作が発表された。しかし、これはほんの一部の例に過ぎない。番組の海外展開を積極的に推進するTBSは、これまで200以上のローカライズ版を手掛け、成功させている。どのような実績をもとに世界でロングランヒットを飛ばしているのか。前編に続いて、米Bellon Entertainment(ベロン・エンターテインメント)社長のGregory Bellon(グレゴリー・ベロン)氏(写真左)と、TBSテレビ・メディアビジネス局海外事業部チーフの杉山真喜人氏(同右)に、世界最大級のテレビ番組見本市MIPCOM(ミプコム)が開かれたフランス・カンヌ現地で話を伺わせてもらった。
イギリスと大型ディール、サウジアラビア版も新たに制作
前編の『SASUKE』の話題に続いて、「『風雲!たけし城』(以下『たけし城』)に関する世界配給に関する大型ディールを英Comedy Central(コメディ・セントラル)社とまとめることができました。」と杉山氏が発表した。
オリジナル版のアトラクションを再現したタイ版『Takeshi’s Castle Thailand(タケシズ・キャッスル・タイランド)』の映像をベースに、イギリス人で知らない人はいないとも言われるジョナサン・ロスをMC役に起用した英語のリメイク版の放送がイギリスで始まった。『たけし城』はイギリス人の間でも良く知られた番組であることから、英3大大手紙のThe Independent(ザ・インディペンデント)、The Gardian(ザ・ガーディアン)、The Sun(ザ・サン)を含め、多数のメディアが大きく取り上げている。
「世界に売り出すために作られたプロモーション映像をぜひご覧ください。人気がある『たけし城』の面白さが伝わってきますよ。」とBellon氏が薦める動画はこちらにある。
ベースとなっているタイ版はTBS版のプロデューサーを務めた桂邦彦(かつら・くにひこ)氏をはじめTBS関係者も制作指導しながら作られ、タイのテレビ番組史上最大規模の敷地で、復刻した往年の人気アトラクション「竜神池」や「ジブラルタル海峡」、「キノコでポン!」などに出演者が挑戦する映像も満載である。
『たけし城』はアメリカでは『Most Extreme Elimination Challenge(モースト・エクストリーム・エリミネーション・チャレンジ)略:MXC』の番組名で、イギリスでは『Takeshi’s Castle(タケシズ・キャッスル)』として親しまれ、これまで世界159か国で放送実績がある。現地制作版は台湾、オランダ、米国、スペイン、ブラジル、タイ、インドネシア、ベトナムの8カ国で実績を作り、新たにサウジアラビア版の制作についても基本合意したところだ。
サウジアラビアのスポーツ庁長官でもあるツルキ殿下とフェサール王子らが東京・赤坂のTBS本社を訪れ、契約書調印式が行われた模様が先日、国内外でニュースになったばかり。同国は『たけし城』の現地版制作によって、若者への娯楽やスポーツの推進につながることを望んでいるという。サウジアラビア版は中東と北アフリカのアラビア語圏で今後放送される。
「フィジカル系の番組は言語や文化の違いを越えてどの地域からも受け入れられやすい傾向があります。また、一見単純で分かりやすいように見えて、エンターテインメント性を高める工夫が随所になされていて完成度が高い。『SASUKE』も『たけし城』も視聴者層が男女とも子供から高齢者まで幅広いことも特徴にあります。家族そろって安心して楽しむことができるファミリーエンターテイメントショーはどの国でもニーズがあります。」(杉山氏)
フォーマット番販で成立させたローカル版の数は200バージョン以上
『SASUKE』も『たけし城』も「フォーマット番販」と呼ばれる売り方で成功していることに注目したい。TBSは、Bellon Entertainment社とタッグを組みながら、まだ「フォーマット番販」そのものの概念が確立する前から世界の大手に先駆け、約40年前からフォーマット番販に取り組んでいる「世界的老舗」とも言える。これまでフォーマットによって成立させたローカル版の数は200バージョン以上。国に合わせてローカライズされた仕様がある車や家電と同じように、それぞれの国のタレントや視聴者が出演し、地域に合わせて制作されて、放送されたものが世界各国で人気を集めている。
それでは、どのような日本の番組が世界でヒットしやすいのか。
「日本の番組のスタイルは、国内で人気のあるタレントが出演されているものが多いですよね。出演者のトークなどが主体の番組をそのまま海外に輸出しようとすると、言語やユーモアの違いなどから、残念ながら、なかなか売れません。でも、フォーマット化し、地域に合わせてローカライズすることによって、世界に売り出しやすくなります。さらに、国際的に普遍性が高い番組であればあるほど、グローバルでヒットする可能性が高まります。」(Bellon氏)
100カ国あまりに販売された『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の「おもしろビデオコーナー」は、イギリス版“You’ve Been Framed(ユーブ・ビーン・フレイムド)”が放送開始27年目、アメリカ現地制作版“America’s Funniest Home Videos(アメリカズ・ファニエスト・ホーム・ビデオ)”が放送開始28年目で、米ABCで最長寿エンターテイメント番組としての記録を更新し続けるなど、各国でロングランヒットとなっている。また70か国以上で売れている『ブレインサバイバー』は“BrainSurge(ブレインサージ)”として2009年以降、米Nickelodeon(ニコロデオン)やDiscovery Kids Latin America(ディスカバリー・キッズ・ラテン・アメリカ)などで120本以上の話数を制作、90年代に日本でヒットした『しあわせ家族計画』もイギリスやドイツをはじめ、70か国近くでヒットの実績を作っている。確かに、言葉や文化を越える“おもしろさ”がエッセンスになっている番組が多い。
一方、世界にはライバルも多い。昨今はアジアでも、海外戦略に力を入れる隣の韓国や市場拡大中の中国、経済成長が著しい東南アジアの国々から新たなエンターテイメントが次々と作りだされ、MIPCOMの会場で話題になる番組も増えている。そのなかで、日本はどのように優位性を保っていくことができるのだろうか。
「日本の番組は他国にはないユニークな番組が多いです。加えて、制作能力も高い。今はアジアのなかで中国が勢力を上げていますが、テレビ制作において歴史のある日本は制作力の高さと企画力を強みにまだまだ世界でヒットする番組も作り出すことができるはずです。」(Bellon氏)
昨年はMIPCOMの会場で日本が主賓国として、「Country of Honor(カントリー・オブ・オーナー)」を務め、総務省など国のサポートも受けながら、オールジャパン体制で日本のコンテンツをPRする試みも行われた。今年もその流れを継ぎ、参加する各社から話題が提供されていた。なかでもやはり、成功例を作っているTBSの事例は説得力がある。Bellon Entertainment社との協力関係で強みを活かすセールス戦略から学べるヒントは多い。