『新しいカギ』『ラヴィット!』人気番組のプロデューサーが語る「視聴者を惹きつける仕掛け」〜VR FORUM 2024レポート(2)
編集部
左から)ビデオリサーチ北澤由美子氏、フジテレビジョン矢﨑裕明氏、TBSテレビ辻 有一氏
株式会社ビデオリサーチが、2024年11月27日に東京ミッドタウンホールで「VR FORUM 2024」を開催。5年ぶりのリアルイベント(リアル&オンラインのハイブリッド形式で開催)となった今回は「コンテンツから拡がる"その先"へ」をテーマに掲げ、生活者とテレビメディアの変化に向き合いながら、最前線で活躍するキーパーソンらによる濃密な議論が繰り広げられた。
このうち本記事では、SESSION2「テレビの虜にさせるシカケ」の模様をレポートする。日々大量のコンテンツが提供される中、放送局の番組が生活者に選ばれ、生活者を虜にするためには何が必要なのか。人気を集めるバラエティ番組2番組のプロデューサーを迎え、制作秘話や成功要因、視聴者を惹きつけるためのヒントを聞いた。
パネリストは、株式会社TBSテレビ コンテンツ制作局 バラエティ制作二部/『ラヴィット!』プロデューサー 辻 有一氏、株式会社フジテレビジョン 編成総局バラエティ制作局バラエティ制作部/『新しいカギ』チーフプロデューサー 矢﨑裕明氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット ビジネスソリューショングループ プランナー 北澤由美子氏が務めた。
■『新しいカギ』学生が主役の企画が転換点に「どんな子でもスターになれる」
『新しいカギ』は2021年にバラエティ番組としてスタート。当初はスタジオコントを軸に据えた内容だったが、2022年11月より開始した「学校かくれんぼ」が大ヒットし、看板企画へと成長した。「初回放送時、番組内容を厳しくチェックするコンプライアンス担当者から『学校かくれんぼが秀逸でした』と企画を褒められたことで、この企画はいけるかも、という匂いがした」と矢﨑氏は振り返る。
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この企画は学校全体を使ったかくれんぼを行い、校内の各所に潜んだ芸人やタレントを生徒たちが手分けして見つけ出すというもの。生徒が「ヒーローになる」(矢﨑氏)仕掛けが随所にちりばめられており、出演を希望する学校からの応募件数は8万件以上にのぼるという。
「文化祭や運動会では目立つ子と目立たない子で生徒が分かれがちだが、かくれんぼならばどんな生徒でも(校内に潜む)タレントを発見した人がヒーローになれる。生徒たちの活躍をフィーチャーし、全員が主役になれる企画を心がけている」(矢﨑氏)
2024年には『27時間テレビ』のメイン企画を担い、『新しいカギ』の出演メンバーたちがダンスで大団円を飾る演出が話題に。「ダンス経験ゼロの出演者が3カ月間必死で練習し、全力で挑んでくれた姿勢が視聴者の共感を呼んだ」と矢﨑氏は振り返る。
『27時間テレビ』放映時間中におけるXポスト数を「Buzzビューーン!」で計測したグラフでは、1日目の夜と深夜と2日目の午前、午後〜エンディングにかけてと、それぞれの時間帯でポストが大きく伸びているタイミングがあり、さらにダンス企画の登場部分で大きくポスト数が突出。当該時間帯の反響は「テレビって全然終わってない」「テレビ最高」など、好意的なものが多く、特に「新しいカギ」視聴者層である10〜20代からの投稿が大半を占めた。
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■『ラヴィット!』ニュースを排除し“日本一明るい朝番組”を目指す
コロナ禍真っ只中の2021年4月にスタートした『ラヴィット!』は、ニュースを一切取り扱わない「日本一明るい朝番組」として独自の路線を進んでいる。企画の背景について、辻氏は自身の個人的な体験を絡めながら語る。
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「テレビがコロナニュース一色だった時期、自分自身も落ち込んでいた。テレビなんて見ていられない、コロナでつらい思いをしている人が多数いる中で、一瞬でも笑って、一日を生きる元気をもらえるような番組を作りたいと思い、企画を立ち上げた」(辻氏)
開始当初は視聴率が振るわず、番組の方向性に迷いもあったというが、「ニューヨーク(嶋佐和也、屋敷裕政)が料理コーナーで朝の番組とは思えないほど自由にボケてる映像を見て、思わず笑ってしまった」という体験をきっかけに、番組を「笑い」へ振り切ることを決意。それまでカットしていた部分を使い、笑いに振り切ったVTRにしたところ、SNSでの反応が大きく変わり、出演者も視聴者も熱量が上がったという。
さらに、『ラヴィット!』でしか見られないキャスティングを実現するため、M-1グランプリの予選のネタなどを見て、まだテレビに出ていないけど面白い人がいないかを探してキャスティングするなど、他番組との差別化に注力。「番組を心から楽しめる人たちに出演してもらうことが、視聴者にも伝わるパワーになる」と辻氏は力を込めた。
『ラヴィット!』におけるF1(女性20~34歳)・F2(女性20~34歳)層の視聴時間を2021年、2022年、2024年の4月ごとに示したグラフでは、F1・F2ともに視聴者が拡がり、視聴の深さも増加 。辻氏は「『ラヴィット!』をじっくり見たいという人が増えている」とコメントする。
「番組制作においては『明確に好きになってくれる人』を増やすことに重点をおいている」と辻氏。曜日またぎの企画など「ずっと見ている人が楽しい」仕掛けや、「たまたま見たら面白かったというサプライズ感のある仕掛け」の両方を組み合わせ、「視聴者がわざわざチャンネルをあわせたくなる環境づくりに取り組んでいる」と語った。
「これまでのテレビは(コンプライアンスの観点などから)なるべく『嫌い』を排除してきたが、これからは番組を好きな人により好きになってもらい、周りの人に波及してもらうことが大切」(辻氏)
■視聴者と制作陣の「熱量の循環」が番組を成長させる
視聴者との距離を縮め、愛されるためにどのような要素を活用できるのか。矢﨑氏、辻氏ともに「SNSを活用して、視聴者との距離を縮めること」と語る。
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「学生世代に寄り添う企画を作り、熱狂を生むことが鍵」と語る矢﨑氏は「SNSでの反響が企画の軌道修正にも役立っている」とコメント。辻氏も「SNSでのコメントはスタッフのモチベーションにも直結する」と述べ、即座に視聴者の声を反映するスピード感の重要性を強調した。
「Xでエゴサーチして、上がってくるコメントやアイデアを翌日、翌週すぐにオンエアへ反映させる。ファンの人が関与し、好きな人がさらに好きになる仕掛けを作る」(辻氏)
「テレビの力は、視聴者の生活に直接触れる瞬間を作り出せること。その強みを活かし、もっと多くの人に共感してもらえる企画を作りたい」(矢﨑氏)
「好きな人により深く愛される番組を作り、その熱量を周囲に広げる仕掛けが大切。視聴者が『この番組が好きだ』と明確に言えるものを作りたい」(辻氏)
最後に矢﨑氏が、「視聴者が熱量を持てば、そのエネルギーが制作陣にも伝わり、その循環が番組を成長させる」とコメント。北澤氏も「そこに行ったら期待している、見たいものに出会える、という安心感があることが視聴者を虜にするポイント」と述べ、「これからもビデオリサーチとして、テレビ視聴に寄り添っていきたい」と締めくくった。