デジタル広告の伸び“鈍化”の中でTVerが取るべき一手は? 〜TVerウェビナー「外から見たTVer」レポート(2)
編集部
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 田代祐介氏
株式会社TVerのオウンドメディアScreens主催のウェビナー「放送局のための配信ビジネス最前線」が、12月6日にオンライン開催。今回は民放連加盟社およびその関係会社を対象とし、放送業界内部で直面する課題や成長戦略について、外部視点からの分析やパネルディスカッションを通じて議論を深めた。
2回目の今回は、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス統括センター プラットフォーマー戦略局 局長補佐 兼 第四GM 田代祐介氏による基調講演「外から見たTVer」をレポート。定量データに基づいてデジタル広告の現在、クライアントやプラットフォーマーにおける変化を俯瞰しつつ、TVerに向けた期待を示す。
■「テレビを見る=配信サービスを見る」視聴習慣変化の中でTVerが持つ“強み”
田代氏はデジタル広告市場の現状について「市場は成長しているものの、成長のペースは鈍化している」と指摘。キャッチアップ広告の成長率は依然高いとしつつ、デジタル広告市場が成熟し、全体的な伸びが減速傾向にあると語る。
「成長が緩やかになる中で、TVerのようなサービスが非連続の成長を遂げるには、広告フォーマットやサービス内容のさらなる進化が求められる」と田代氏。市場全体の緩やかな成長を見据えた上で、TVerが成長するための具体的なステップとして「広告効果の最大化」や「サービス強化」を挙げる。
さらに、テレビのインターネット接続率やストリーミングデバイスの所有率が急速に向上していることに触れ、コネクテッドTV領域の拡大がTVerの成長を後押しつつ、視聴習慣を変化させるトリガーとなっていると語る。
「2023年から2024年にかけてTVerの見逃し視聴の利用率は急激に伸び、無料動画の視聴率を超えた。生活者の間で『テレビを見る=配信サービスを視聴する』という形に視聴行動も増えて、『テレビ=地上波放送』という従来の認識から『テレビスクリーン=配信サービスを含む総合的な視聴環境』という認識も浸透してきている」(田代氏)
こうした現状を踏まえ、「無料のプロコンテンツ提供が引き続きTVerの強み」とコメント。「コネクテッドTV領域での優位性を維持しつつ、他プラットフォームとの差別化が鍵となる」と述べた。
■マーケティングのトレンドは“関係構築”「プロコンテンツはブランド広告の強い投資先」
クライアントのマーケティング戦略が変化する背景として、サステナビリティへの関心の高まりやデジタル化、データ活用の進展、少子高齢化や市場の成熟化などを挙げる。
「コロナ禍以降、企業は物販のみならずサービスとして事業化も重視され、顧客体験を通じた長期的な関係構築を目指すようになっている」と田代氏。特にブランド広告の役割が再評価されているとし、その役割を強調する。
「刈り取り型広告は短期的な効果は高いが、ブランド広告は、認知度や好感度を長期的に高め、事業成長を支える重要な要素だ」(田代氏)
ブランド広告の投資が増えるなか求められる要素として、「広告の事業成長への寄与度合いを数値化する『効果の可視化』、広告が適切に表示され、ブランド毀損を防ぐ『安全性の確保』が肝」とコメント。TVerの強みである「プロコンテンツによる安心・安全な環境」を評価し、「ブランド広告における強力な投資先となり得る」と強調した。
■“自分ごと化”で購買促進 プラットフォーマーが求められる「ブランド共創」の役割
プラットフォーマー側におけるマーケティングの現在について、田代氏は「市場理解、施策立案、効果測定といった全プロセスに寄与し、広告会社と連携してクライアントを支援している」と語る。
「ファーストパーティーデータやIDデータをデータクリーンルームで、統計、分析した上で広告配信まで一気通貫する仕組みの強化でPDCAサイクルが加速している」と田代氏。「また、現在は地上波、コネクテッドTV配信ともに『テレビデバイス』として括られていく可能性」を示唆し、「コネクテッドTVがその一角を担うことで、予算配分における存在感が高まっている」と指摘する。
今後に向けた展望として、「企業、クリエイターと生活者の双方向コミュニケーションにより、生活者がブランドを“自分ごと化”することで共感や購買促進が期待される」とコメント。プラットフォーマーが、コンテンツ制作ツールやインセンティブの提供によって個人クリエイターの成長を支援し、ブランド価値を共創するアプローチの可能性を示唆した。
■TVerには「プロコンテンツで生活者とのエンゲージメント」を期待「伴走者の役割を」
田代氏は、今後のTVerに期待する成長として、広告の視認率を始めとするアテンションの向上や、地域ごとの視聴データ活用などエリアマーケティングの強化による「差別化戦略の深化」を提案。さらに「単なる広告発注先ではなく、事業成長の伴走者としての役割が重要」とし、データを活用したPDCAによる広告効果の最大化や課題解決の必要性を述べた。
「TVerのプロコンテンツをベースにしつつ、生活者とのエンゲージメントを強化することで、コネクテッドTV市場での競争優位性を確保できる」(田代氏)
「TVerがコネクテッドTV市場でのポジションを維持し成長するためには、広告効果の向上とクライアントとの長期的なパートナーシップ、サービスの向上が必要」としたうえで、「TVerは今後、生活者とブランドを共創する場として進化し、コネクテッドTV時代の中心的な存在になる可能性を持っている」と期待を寄せた。
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