ソニーとパラマウント、U-NEXTが語るアジア市場のビジネストレンド【APOSイベントレポート後編】
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
アジアとグローバルのエンターテイメント企業のトップクラスが集結するイベントが「APOS」だ。メディア・パートナーズ・アジアが主催し、アジア市場の国際コンテンツビジネスの現状と将来像を共有する場として機能している。今年は9月24日~26日の3日間、インドネシア・バリ島で開催され、アジアとアメリカを中心に動画配信プレイヤーが出揃った。現地取材で注目したセッションを前・中・後編にわたってレポート。後編はハリウッド勢のアジア市場におけるビジネス展開の将来像を語ったセッションに注目する。
■アジア市場のアメリカコンテンツの今
配信全盛期の今、老舗のハリウッドがアジア市場で展開する道は様々だ。ビジネスサミット「APOS」では「Future of US Content in APAC=アジア太平洋地域におけるアメリカコンテンツの将来像」と題し、パラマウント・グローバル・コンテンツ・ディストリビューション(以下パラマウント)とソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント(以下SPE)、そしてU-NEXTが登壇したセッションが企画された。
老舗のハリウッド勢を代表するパラマウントとSPE、ハリウッドコンテンツを積極的に受け入れるアジアプレイヤーのU-NEXTのそれぞれの立場から語られ、アメリカコンテンツの視点から進化するアジア市場を捉えることが狙いにあった。
登壇したSPEのディストリビューション部門アジア担当ヴァイスプレジデントのポジションに就くアダム・ヘル氏は市場の背景から説明する。
「長年にわたって市場そのものが進化し続けています。SPEの傘下にあるコロンビア・ピクチャーズが今年で100周年を迎え、多くのハリウッドスタジオが長い歴史を持ちます。その中で市場が進化し、人々の共感を呼ぶコンテンツも進化し、消費形態の進化を目の当たりにしてきましたわけです。なかでも、この数年の間に起こった革命は、コンテンツの重要性に焦点が当たり、ディストリビューション分野でSPEは過去最高の年を迎えています」
またパラマウントの国際コンテンツライセンス担当プレジデントのリサ・クレイマー氏は「アメリカ発コンテンツは常に需要がある」と強調する。
「グローバルで共感を呼ぶストーリーやIP、世界的に関心を集めるキャストが出演したコンテンツは需要が高い。ケヴィン・コスナー主演の『イエローストーン』やフランチャイズ展開の『スタートレック』といった熱狂的なファンを持つ作品はまさにその例です。またロングランで商業的に成功している『NCIS』シリーズもあります。世界で最も視聴されている英語言語のドラマシリーズとして誇りに思っています」
■U-NEXTと組むパラマウントとWBD
パラマウントのドラマ作品に係るSVODのライセンス契約を強化し、2023年12月からパラマウント作品を増強させたU-NEXTは、さらに2024年9月25日からワーナー・ブラザース・ディスカバリー(以下、WBD)主力の動画サービス「Max」をU-NEXTのラインナップに加えたところだ。APOSでのこのセッションは「Max」の展開が始まったばかりのタイミングでもあった。
登壇したU-NEXT取締役COO本多利彦氏はWBDとの提携を説明するなかで「Maxの作品の数々を単に配信するだけでなく、ユーザーに向けてしっかり届けることも大事なポイントだと思っています。強力な共同プロモーション展開なども計画しています」と明かした。
老舗ハリウッドがローカル配信プレイヤーと手を組む動きは業界のトレンドとも言えるもの。たとえば、ウォルト・ディズニー・カンパニーは直営するDisney+について日本をはじめアジア市場でB2Cモデルでの参入を基本としているが、後発組のパラマウントやWBDはU-NEXTのようなローカル配信プレイヤーと提携し、B2Bモデルを選び始めている。
パラマウントのクレイマー氏は「パラマウントは世界的に知られたブランドですが、競合他社が既に参入している国々でローカルスタッフを増員し、技術やマーケティング費用をさらに負担するかどうか、その答えは“ノー”と判断しています。既存プレイヤーと組むやり方でもパラマウントのブランドの価値を高めることはできると思っています」と説明する。まもなくタイでもB2Bモデルで参入する計画だ。
またパラマウントは必ずしも独占配信に拘らないことも方針としている。「セカンドウィンドウを開放することで収益を最大化する戦略も始めています」とクレイマー氏は話す。ドラマ『イエローストーン』をグループ内のCBSでも展開したところ、視聴者の8割がCBSでの放送をきっかけに作品を視聴し始めたことがわかったという。視聴の機会を増やすことで好循環を生み出す必要があるということだ。アメリカコンテンツもこれまで以上に戦略性が求められている。
■ソニーが大事にするのは視聴者が求めるストーリー
コンテンツビジネス戦略にもトレンドはある。SPEのヘル氏はこの背景についても説明し、「数年前まではハリウッドもビジネス中心はリニア放送でしたが、現在はグローバルからローカルまで配信が主流です。YouTubeとTikTokが最大のプラットフォームとも言えます。今はハリウッドスタジオだけでなく、コンテンツを制作する人なら誰でもコンテンツを収益化し、視聴者にリーチする方法について考えていると思います。こうしたビジネスが発展するにつれ、リニア放送のコンテンツというものは厳選的になっていくのだと思います」と意見を述べた。
老舗ハリウッド勢のなかで、唯一、独自の配信プラットフォームを持たないソニーだからこそ広い視野で捉えることができ、説得力もある。
「我々は一貫した姿勢を貫いています。ストーリーテラーを作り出すIP企業であることを認識し、視聴者が求める魅力的なストーリーを常に大事にしています。だからこそ、アジアから発信される魅力的なストーリーに我々は興味を持っているのです」と、ヘル氏は話す。
さらに「英語以外のコンテンツの広がり」を強調するヘル氏。「アジア市場でも英語コンテンツは重要であることに変わりはありませんが、英語であれ、韓国語や日本語であれ、魅力的なストーリーであるかどうかがこれまで以上に重要になっています。コンテンツ消費量の8割をアメリカ制作のものが占め、これは韓国や日本のタイトルの2倍に相当しますが、幅広いコンテンツが今、視聴者に届いていることを表しているのだと思います」。
コンテンツそのものに多様性が求められ、ビジネスモデルも柔軟であることが今後のビジネスの発展の鍵になることがアジア市場のアメリカコンテンツの現状と将来像から見えてきたのではないか。APOSに参加した主要メデイアのトップが今、共有すべき話であった。