Amazonプライムビデオが語った日本市場の成功戦略【APOSイベントレポート中編】
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
アジアとグローバルのエンターテイメント企業のトップクラスが集結するイベントが「APOS」だ。メディア・パートナーズ・アジアが主催し、アジア市場の国際コンテンツビジネスの現状と将来像を共有する場として機能している。今年は9月24日~26日の3日間、インドネシア・バリ島で開催され、アジアとアメリカを中心に動画配信プレイヤーが出揃った。現地取材で注目したセッションを前・中・後編にわたってレポート。中編はアジアでも成功するグローバルプレイヤーAmazonのプライム・ビデオが登壇した市場戦略セッションの内容をお伝えする。
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■会員獲得に貢献する「プライム・ビデオ」
アジア市場の成長に注目するグローバル配信プレイヤーたちもビジネスサミット「APOS」の主役として、企画セッションに続々と登壇した。Amazonはアジア市場の特性に合わせたダイナミックかつ緻密なコンテンツ戦略について語り、プライム・ビデオ部門のアジアパシフィックおよびMENA地域を担当するバイス・プレジデントのゴラフ・ガンジー氏と、ジャパン コンテンツ部門コンテンツ・ヘッドの石橋陽輔氏が登壇した。
「A tale of two markets:Amazon Prime Video in Japan & India(Amazonプライム・ビデオの日本とインドの市場ストーリー)」と題したセッションの中で、アジア市場で先行して展開する日本とインドにおけるプライム・ビデオの事業は「プライム会員数および視聴者数共に大きく成長している」とガンジー氏は言い切る。Amazonにとってプライム・ビデオは重要な位置づけにあることも説明する。
「参入時から意図的かつ段階的に拡大しています。顧客にプライム・ビデオというサービスの選択肢をご提供するという観点からも、パートナー企業の映像コンテンツをリーチするサービスとして考えた上でも、成功例を生み出し、日本およびインド市場でプライム・ビデオは非常に上手く機能していると捉えています」
方針についても明確だ。1つは「ローカライズした差別化」、 もう1つは「セグメントを生み出しているのか、機能を果たしているのか、コラボレーションを作り出しているのかという視点」という。これをもとにコンテンツ戦略を進めてきた。
コアコンテンツにはアニメ、映画、バラエティー、ドキュメンタリーを挙げる。「多くの番組を積極的にローンチしたことで、想定以上のヒット作を生み出すことができました。これらの成功を足掛かりにチャンネル事業やアニメやスポーツのパートナーとの提携を広げています。なかでもスポーツ分野は日本市場でボクシングなど大変盛り上がっているところ。そして、これらに続く大きな柱として実写の長編シリーズにも取り組み始めています」とガンジー氏は話す。
■日本市場の成功要因は「アニメ」と「スポーツ」
Amazonのプライム・ビデオ部門で10年ほど携わり、現在、日本のコンテンツ事業を率いる石橋氏はアニメとスポーツの成功についてさらに言及した。
「2015年のサービス開始以来、アニメはプライム・ビデオの成功要因のひとつにあります。Amazonの戦略はいたってシンプル、お客様のニーズに真摯に向き合い、そのニーズを優先することです。それはつまり、独占タイトルを揃えることも大事なことですが、この約10年、幅広いセレクションのアニメを揃えることに力を入れてきました。だからこそ、アニメのホームグラウンドとして利用していただけるようになり、またパートナーとの信頼関係を築くことができたのだと思っています」
実際に『エヴァンゲリオン』シリーズや『ワンピース』『呪術廻戦』といった大ヒットIPが並び、藤本タツキ原作漫画の劇場アニメ化『ルックバック』の製作委員会にAmazon MGMスタジオが出資参加した成功例もある。さらに「アニメタイムズ」といった追加サブスクリプションをAmazonに追加することにも力を入れているという。
一方、スポーツ分野の参入については「戦略的に取り組んできた」と石橋氏が説明する。
「追加サブスクリプション事業として2018年に『J SPORTS』を追加して以来、複数のスポーツ専門サブスクリプションを立ち上げています。さらに、ライブ配信へと展開を拡大し、2022年からボクシングの独占生配信を開始しています。2023年には『ワールド ベースボール クラシック(WBC)』、2024年6月にはサッカーの『CONMEBOL コパ・アメリカ USA 2024』など広げています」
■「日本のIP活用」と「韓国コンテンツへの投資」計画
複雑かつユニークなアジア市場でAmazonのプライム・ビデオが成功している要因の1つに差別化したコンテンツが挙げられる。ガンジー氏は「成功のきっかけは実はバラエティ番組から作られています。日本の『ドキュメンタル』は多くの他の国でもリメイクされ、『バチェラー・ジャパン』『バチェロレッテ・ジャパン』シリーズや『ラブ トランジット』といったリアリティ番組の人気に繋がっています」と説明する。
また石橋氏は「プライム会員の反応に勇気づけられることは多い」と、Amazonオリジナルコンテンツの反響の高さについて触れ、実績を積み重ねてきたことでローカルIPの活用にも力を入れていくことを明かした。
「日本のローカルIPの活用は中核となる戦略です。日本にはマンガ、小説、ゲームなど、魅力的なローカルIPの知的財産が豊富にあります。事業拡大のためにさらに活用していきたいと思っています」
セガのヒットゲーム「龍が如く」シリーズをドラマ化し、10月25日から世界独占配信を予定する竹内涼真主演『龍が如く ~Beyond the Game~』はIP活用の事例の1つにある。
ガンジー氏の拠点であるインドのプライム・ビデオ事業も好調という。
「インドのコンテンツが世界中で勢いをみせています。2023年はインドの番組や映画がプライム・ビデオの中で世界トップ10入りしました。インド市場の経済成長に伴い、加入者も増加傾向にあるなか、さらに拡大させていくためローカルモデルの構築を計画しているところです」
最後にガンジー氏は今後の見通しについて「インドと日本の両国においてプライム・ビデオ事業が非常に好調なことから、具体的な計画の1つに韓国コンテンツへの投資が挙げられます。またクリエイティブ産業の発展に繋げるための投資も続けていきたいと思っています。市場の状況は変化していますから、従来のやり方に囚われず、柔軟な姿勢で進めていくことの重要性を感じています」と語った。
アジア市場に直接参入し成功させてきたAmazonとは別の道を歩むグローバル配信プレイヤーたちも「APOS」に参加していた。アメリカの老舗巨大スタジオのアジア展開について語られたセッションレポートは後編に続く。