岡山放送、手話放送普及の取り組み“岡山モデル”とは?~さらなる情報バリアフリーを目指して~
編集部
情報アクセシビリティ推進部長・篠田吉央アナウンサー
岡山放送株式会社(本社:岡山市北区下石井二丁目10-12 、以下OHK)の情報アクセシビリティ推進部が、2024年6月に公益財団法人放送文化基金 第50回放送文化基金賞・放送文化部門を初めて受賞した。
OHKは、“情報から誰一人取り残されない社会”を目指し、1993年から30年にわたり、ろう者とともに手話放送を継続してきた。今回の受賞は、そんな「情報バリアフリー」を目指した同社の取り組みが高く評価されたもの。情報バリアフリーを目指した一連の活動が、手話放送普及のモデルケースとしてだけでなく、すべての人に向けた情報伝達手段へと発展していると高く評価されての受賞だ。
岡山放送、第50回放送文化基金賞放送文化部門を受賞!「情報バリアフリー」を目指した取り組みが高く評価
さらには、30年継続する同社の手話放送の実績を生かし、障がいの有無に関わらず誰もが一緒にスポーツ観戦を楽しめることを目指し立ち上げた『OHK手話実況アカデミー』は、世界中のバリアをなくす取組を行っている団体「ゼロ・プロジェクト(本部:オーストリア・ウィーン)」の国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード2024」を受賞。2021年に続き2度目の受賞となっている。
この他、長きにわたりさまざまな取り組みに尽力しているOHK。今回、情報アクセシビリティ推進部長・篠田吉央アナウンサーに話をうかがった。
■あらゆる人が、自ら情報にアクセスできる社会を目指して立ち上がった新部署
――情報アクセシビリティ推進部について教えてください。
2022年5月の「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の施行を受けて発足した部署です。情報アクセシビリティというのは、自分で情報に触れて情報を選べること。私たちは、“情報から誰一人取り残されない社会”の実現を目指し、あらゆる人が、自分が知りたい情報を自ら選択してアクセスできる社会を目指しています。
――OHKの手話放送をさまざまな場所で目にする機会があります。
OHKでは聴覚障がい者の言語である手話にこだわり、30年以上前から手話放送に取り組んできました。ローカル放送が発信する情報こそが、その地域で必要とされている情報だと考えています。最近では、地元のコミュニティペーパーを声に起こして県内の視覚障がい者施設に配布するなど、目の不自由な方への取り組みにも力を入れています。
手話放送について知ってもらえる機会が増えてきましたが、情報アクセシビリティ推進部は手話放送を行う部署ではなく、情報を届ける部署です。手話に固執しているわけではなく、“伝わりやすい”ことにこだわり続け、身近な情報のバリアフリーを図ります。そのためには、頭でっかちにならずに当事者に話を聞くことが重要なんです。
■手話放送普及だけでなく情報伝達手段へと発展する“岡山モデル”
――“手話協力”としてスポンサー企業名を表示するなど、長年の活動からさまざまな“岡山モデル”も生まれているとのこと。こちらについても教えていただけますか?
岡山モデルでは、大きく3つの取り組みを行っています。
1つ目のOHK手話放送委員会では、「みんなで考える」をテーマに、ろう者、手話通訳者、テレビ局員が参画し、テレビ独自の手話を考案しています。ニュース原稿をただ手話に通訳するだけでなく、内容の意図を的確に表現する手話について議論して手話放送を行うことで、ろう者に情報が伝わりやすいことはもちろん、テレビ局にとっても学びになっています。
2つ目の取り組みは、手話協力です。OHKでは、番組へのスポンサー以外に、手話放送への協力として出資していただける企業や団体を募集しています。これはテレビ局の資金力が上がるだけでなく、地元企業の社会貢献にもつながりますし、当事者であるろう者にもよろこんでいただけます。特に、地元企業がろうへの理解を示してくれたことへのよろこびの声を聞けたときは、この取り組みを行ってよかったと強く感じました。
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3つ目は、遠隔手話通訳による記者会見です。コロナ禍でマスクの着用が必須となった社会は、口や表情を読み取ることの多いろう者にとって大変過酷な環境でした。手話通訳者は記者会見の場でマスクを着用すると、会見映像を見るろう者が情報を正しく理解できません。そこで、別室の手話通訳者を会場のモニターに映して放送することにしました。テレビ局ならではの生中継技術のノウハウを応用した取り組みだと思っています。
――どれも新鮮な取り組みですね。
そもそもローカル放送は、地域企業の情報を視聴者に届けることが求められています。「情報を平等に均等に」という原点に立ち返ると、健常者・ろう者など分け隔てなくスポンサーを募り、情報を届けることは、特別なことでもなんでもないんです。
今後は、民間企業とタッグを組んでOHKが培ってきた手話放送のアーカイブ映像をAI手話通訳のディープラーニングに活用するなど、新たなシステム開発にも取り組んでいきます。
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■「健聴者の人はテレビでスポーツ観戦を楽しめて羨ましい」―そんな声から始まった
――スポーツのリアルタイム手話実況の取り組みについても教えてください。来年、日本で初めてのデフリンピックも開催されますが、これに関連して行う予定の取り組みはありますか?
香川丸亀国際ハーフマラソンやJリーグ中継において、手話実況の取り組みを行ってきました。きっかけは、ろう者にスポーツ観戦の文化を作りたいと思ったことです。スポーツ実況はテレビならではのコンテンツなのに、ろう者が平等に楽しめていない。このことから、“スポーツの手話実況”の取り組みに力を入れ始めました。
2025年に、デフリンピックが東京で初めて開催されます。私たちは手話実況はもちろんですが、ろう者がテレビやスマートフォンでスポーツを楽しめる環境作りに取り組みたいと考えています。
――手話実況を拝見しましたが、想像以上の臨場感がありました。
ろう者は表情が豊かな人が多いんです。さらに、スポーツの“生”を伝えるために、スポーツ実況独自の手話表現を取り入れることや、字幕も活用することで、結果的にろう者だけでなく健常者にも字幕に注目してもらうきっかけを作ることができました。
■さらなる情報バリアフリーを目指して。思いついたアイデアを次々と形に
――OHKが企画開発したユニバーサル対応システム「シュワQ」についても教えてください。放送エリア外からの注目を集めていることについていかがですか?
「シュワQ」は、2022年9月に運用開始したサービスです。「Q」は、QRコードのQ。動画を見たい人がスマートフォンなどでQRコードを読み取ることで、手話や字幕、音声情報が補足された動画を見ることができます。2021年に障害者差別解消法が改正され、今年の4月から事業者による障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化されたことが、開発のきっかけです。
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私たち健聴者が普段何気なく眺めているCMや動画では、実は障がい者にとっては情報不足で、正しくメッセージを受け取れないことがあるんです。ナレーションでしか流れない情報をかみ砕いて字幕に起こしたり、音声解説を付けたりすることで、障がいのある人が平等に正しい情報を受け取れるようになってほしいと思い、開発しました。
実は、「シュワQ」というネーミングは、「QRコード」を商標登録している株式会社デンソーウェーブから、直々に権利許可をいただきました。厚生労働省からもシュワQを活用した取り組みの依頼が来るなど、本サービスへの高い期待がうかがえます。
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――ありがとうございます。最後に、Screensの読者に向けてメッセージをお願いします。
ローカル局としてScreensに取り上げてもらえることは、地元で行っている取り組みの存在を多くの人に知ってもらえる機会なので、すごくうれしいです。
長年、アナウンサーとして現場に赴いて「何を伝えなければいけないか」を考え続けたことは、テレビ局の記者としての財産だと思っています。テレビ局員にしかないものの見方、伝え方をフル活用して自分たちの活動に落とし込み、これからも「情報から誰一人取り残されない社会」の実現に向けてできることを考えていきたいと思います。