日テレ「シナリオライターコンテスト」が目指す進化系ストーリー開発【日本テレビインタビュー後編】
ジャーナリスト 長谷川朋子
日本テレビは次世代の脚本家を発掘する「日テレ シナリオライターコンテスト2023」を始動した。新組織「スタジオセンター」が主導するこの取り組みは、「コンテンツの価値最大化」を目指す改革推進計画の一環にある。具体的にはどのように実行していくのか?前編に続いて、日本テレビ放送網コンテンツ戦略本部グローバルビジネス局担当局次長スタジオセンター長兼部長の佐藤貴博氏に伺わせてもらった話をお伝えする。
日テレが始動した「シナリオライターコンテスト」の背景には「コンテンツ中心主義」がある【日本テレビインタビュー前編】
■5年後には「アメーバー組織」を目指す
――「日テレ シナリオライターコンテスト」をきっかけに開発していくコンテンツは放送、配信、映画、そして海外などあらゆる出口を想定するということでしたが、ヒットを目指すストーリーコンテンツとして注目していくジャンルはありますか?
ジャンルを絞るということはないのですが、コンテストの副題に「愛とか、恋とか、事件とか」と書いてあるのは、日本テレビのストーリーコンテンツの中で恋愛系が手薄という意味から「恋愛」という言葉を先に置いています。
いろいろなストーリーを開発していく上で、弱点はない方がいいと思っています。人によって得意分野があるのは当然で、私自身もこれまでプロデュースした作品はサスペンスやアクションが多いです。その上で、日本テレビ全体として考えると、ゼロイチでコンテンツを作れるプロデューサーの周りに得意ジャンルがあるプロフェッショナルをたくさん抱えていくことが理想です。
コンテンツ中心主義に基づく改革を進めていくなか、将来的には企画プロジェクトによってリーダーが変わっていく「アメーバー組織」を目指すべきだとも思っています。5年後にはアメーバー組織になっていくことも見据えて、まずはスタジオセンターの中で得意ジャンルのリーダーとプロフェッショナルたちが当番実戦登板を繰り返していくことを目指します。
――コンテストは脚本家の発掘とプロデューサーと共に育成することが目的にありますが、書き手が足りないという問題もひとつの背景として考えられますか?
そうですね。シナリオを書ける人と、読める人も大事です。読める人とはプロデューサーのことを指し、このコンテストをきっかけに脚本家と社内のプロデューサーとマッチングしながら一緒にトレーニングして切磋琢磨させていきたいと思っています。多くの映像作品が集団で作り上げていくものなので、脚本家1人で物語を作るよりも、プロデューサーや各部スタッフも交えて練り上げていった方が良い場合もあります。チームでの作り方も学んでもらいたい。
海外のドラマ制作では作品全体のクリエイティブを指揮する「ショーランナー」が率いる「ライターズルーム」と呼ばれる体制があり、そこで議論を重ねてストーリーを生み出していくのですが、まずは日本テレビのスタジオセンターでは「ライターズベース」という呼び名の場所でトレーニングを兼ねて、ゼロイチプロデューサーとライターを育てていきたいと思っています。
■プレミアムなストーリーコンテンツを作る
――ストーリーコンテンツの開発が核にあるこのコンテストの立ち上げは、昨今のメディア環境の変化も影響していますか?
まさにストーリーコンテンツは、地上波だけの制作費の中では折り合いがつかなくなってきているのは事実です。バラエティや情報番組でも、地上波提供広告収入からの制作費だけではすべての制作費をまかなえていません。さらに、ストーリーコンテンツとなると、地上波広告収入からの制作費では完全に赤字になってしまいます。日本テレビに限らず、地上波の広告収入だけでストーリーコンテンツを作ることが難しくなっています。
もちろん、地上波が日本テレビの主軸であることは変わりません。けれども、ストーリーコンテンツにおいては、地上波より先に拡がっていく展開でも多くのユーザーに楽しんでもらえる可能性があり、収益も得られる状況なので、そこを企画の段階から考えて作っていける組織を目指してスタジオセンターが出来たのだと思っています。
日本テレビは今年、放送開始から70年を迎え、70周年という歴史の重さを感じますし、厳しい状況と言っても、日本テレビの地上波の広告費は2000億円以上ありますから、まだ強い。ただし、ユーザーのコンテンツの消費の仕方は日々変化していきますので、そのスピードについていくためには、我々の企画製作体制も日々進化していかなければならないと思っています。
――最後の質問になります。地上波を持ち、配信プラットフォームも持つメディアがストーリーコンテンツを開発し、ヒットさせていく上でスタジオセンターが進めていく戦略の強みとは何だと思われますか?
広告メディア全体からみると、YouTubeの広告モデルがある種の踊り場に来ているのではと感じています。だからYouTubeもプロコンテンツにシフトしてきていて、プレミアムなストーリーコンテンツを求めるユーザーは絶対に減らないと思っています。
これまで私自身、日本テレビでスポット営業から関西支社を経て、映画事業に異動してからは『デスノート』など映画作品を企画プロデュースし、その後インターネット事業部ではTVerで初のアーカイブコンテンツ配信などにも取り組みました。ICTビジネス局では配信に限らずデジタル全般の事業を統括し、現在のグローバルビジネス局スタジオセンターに至る今、これまでの経験から思うに、日本の地上波放送局、その中でも日本テレビにはまだ伸びしろがあると思っています。
Netflixをはじめグローバルプラットフォームが広告モデルを始めてきましたが、日本においては地上波放送が最強の広告モデルであり、その地上波のオウンドプラットフォームを維持しながら、あらゆる配信プラットフォーム展開も出来る日本テレビはまだまだやれることが沢山あると思うからです。
ストーリーコンテンツ、例えば映画は著作権存続期間が70年と、非常に寿命が長いので、目先の金額だけを追いかけずにロングスパンで回収することへの社内の理解も深め、地上波というストロングポイントとノウハウを活かしながら、改革を進めていきます。
――日本テレビの改革推進計画の中で始動した「日テレ シナリオライターコンテスト」の中身は、コンテンツ中心主義を具現化していく試みとして注目するに値する。業界全体にも変化の風を吹かせるようなストーリーコンテンツが作られていくことに期待したい。