視聴ログから生活者の「ペルソナ」を導き出す 〜Data Chemistry「TV Tribe」開発者インタビュー
編集部
ADKマーケティング・ソリューションズ、ジェイアール東日本企画(jeki)、東急エージェンシーの合弁による株式会社Data Chemistry(データ・ケミストリー)は、2023年5月29日、ネットに結線されたテレビ(以下、コネクテッドTV)の視聴ログをもとに生活者の行動パターンをクラスター化するソリューション「TV Tribe」を開発し発表。合弁元3社の広告商品に対する付随サービスとして提供を始めた。
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「TV Tribe」の元となるデータは、数百万台規模にのぼるコネクテッドTVの視聴データだ。これを独自のAI技術によって分析し、テレビの選局視聴番組を軸とする10のクラスターに分類。一定の生活者に共通する行動パターンとその規模を顕在化させることで、クライアント企業は自社の商材と親和性の高い層をペルソナレベルで把握することができる。
今回の記事では、株式会社Data Chemistry 分析・データオペレーションDiv長/3DDB Divの田中克人氏、同セールス・プランニングDiv/セールスプランニングチーム3の尾原史俊氏、榛村建人氏にインタビュー。テレビ視聴ログそのものをベースとしたターゲティングという新たなアプローチの可能性についてお話を伺う。
■視聴ログをAI解析、「テレビの見方」を軸に生活者を10のクラスターに分類
──「TV Tribe」はどのような経緯から開発されたのでしょうか?
田中氏:弊社では、テレビの視聴ログデータ、Webメディアの行動ログ、意識調査データをもとに潜在顧客層を浮かび上がらせるパブリックDMP「DC Catalyzer」を開発、提供してまいりました。新たなアプローチを研究するなかで「DC Catalyzer」に用いていた視聴ログデータをクラスター分析したところ非常に特徴的なクラスターが浮かび上がり、これらを仕組みとして活用するべく「TV Tribe」の開発にいたりました。
尾原氏:特定の放送局でCMを放送する場合、CMを放送できない局の視聴者をいかに効率よくカバーするかは広告プランニング上大きな課題です。特定の放送局をよく見ているクラスターが把握できる「TV Tribe」の仕組みを使って、予算などの関係でCMが放送できない局をよく見ているクラスターに対してデジタル動画を配信する、といった施策を講じることで、より効率的に予算を活かし、最大限のCMリーチを得られるのではないかと考えました。
──クラスタリングの具体的な手法についてお聞かせください。
尾原氏:メーカー等から提供されるコネクテッドTVの視聴ログをデータソースとし、同一のユーザーIDや同一ネットワーク内における機器の単位で視聴番組、視聴時間帯の傾向をAIで分析します。この際、特徴として現れる行動パターンを分類していき、一定の共通点を持つクラスター単位に分けていきます。
榛村氏:「TV Tribe」は、弊社の設立母体の1つである東急エージェンシーの独自ソリューションをベースにしたオリジナルなクラスタリング分析の結果を使っており、主に視聴される度合いの高いテレビ局を軸に、現在10のクラスターに分類しています。
■「テレビの見方」から、“ペルソナレベル”の生活パターンが見えてくる
──視聴ログとパネルデータを組み合わせることで生活者層をクラスタリングする「TV Tribe」は、従来の視聴ログ分析と比較してどのような点が斬新なのでしょうか?
尾原氏:これまでデジタル広告の世界で用いられてきたターゲティング手法では来訪者ひとりひとりの動向を分析していましたが、「TV Tribe」ではクラスターによって一定の共通項を持つ来訪者を面で捉え、属性にあわせたプランニングが行えるという点が大きな特長です。
榛村氏:クライアントデータを介さず、純粋な視聴ログのみをベースとしているため、既存のデータが持つバイアスに左右されないという点もひとつの強みです。たとえば「公共放送をつけっぱなしにしている層」など、民放の視聴データだけでは見えてこないクラスターも浮かび上がっており、既存の視点からは見えてこなかった潜在顧客層へのアプローチも可能になりました。
尾原氏:クラスタリングをしたことの大きな発見は、テレビ視聴という行為が人々の生活スタイルと密接に関係しているということです。どんな番組をどんな時間帯に視聴しているのか、という行動データから、画面の向こう側にいる人々の趣味嗜好や行動パターンといった“暮らし方”であったり、どのような目的や意志を持ってテレビを視聴していたりするのかというペルソナが浮かび上がってきたのは非常に面白い発見でした。
──「TV Tribe」では、具体的にどのようなデータを見ることができるのでしょうか。
尾原氏:クラスターごとに、テレビ局ごとの視聴割合や、よく視聴されている番組ジャンルや曜日別の視聴割合、よく視聴されている時間帯などの基本動向を始めとして、デモグラフィックの傾向(性別・年齢・年代や未婚・既婚、子どもの有無、さらに雇用形態や年収の割合)や、興味関心の傾向(オンライン上の行動データから推計されたアフィニティデータや意識価値観)を見ることができます。
──視聴ログをベースとした「TV Tribe」ならではというデータはありますか?
尾原氏:特定のテレビ視聴傾向を持つクラスターを基に、さらに深掘りした分析ができる点にあると思います。例えば「子供番組視聴層」のテレビ視聴を、放送局・曜日・時間帯の接触率ヒートマップで分析するとアニメや特撮の接触率が高くなっているのですが、INDEX値(クラスター/全体)で見ると平日日中帯の帯番組にも放送局の傾向が見て取れるため、より効果的なプランニングを行うことができます。
■既存のデータと組み合わせることで、潜在顧客の発掘とPDCAサイクルによる改善が可能に
──「TV Tribe」を活用したプランニングのイメージとして、具体的にどのような方法がありますか?
榛村氏:サイトへの来訪者を「TV Tribe」のクラスターを用いて分類し、それぞれのクラスターごとにCVR(コンバージョンレート)を測定することで、サイト訪問者とそれぞれのクラスターがどれほど似ているのかを比較することができます。
たとえば、既存のオウンドサイト訪問者が、優良な見込み顧客であるという前提に立つ場合、そのような優良顧客と似た人達をどのように外部から効率的に連れてくるか、試行錯誤しながらプランニングを行うかと思いますが、そのための手法の一つとして、TV Tribeを活用していただけるといいなと思っています。
オウンドサイト訪問者をTV Tribeを用いてテレビの視聴傾向で分類し、どのクラスターが多く来訪しているのかを調べることで、優良顧客になる可能性の高いクラスターや、逆に数が多くても、コンバージョンにつながっていないクラスターなども発見することができます。その中でアプローチすべきクラスターを選定することで、それぞれの課題に対してアクションを起こすことができるようになる、といった考え方です。ターゲットクラスターのCVRが低いという課題が見えてくればLP(ランディングページ)の構成や導線の具体的な改善につなげることができ、想定していなかった層が高いCVRを記録していれば、そこを潜在顧客層として新たなアプローチを検討することも可能です。
また、ターゲットクラスターに対して改善施策を打ったあとに、ふたたびターゲットとするクラスターのCVRを比較すれば、その効果を検証することができます。
──既存のデータと組み合わせることで、高い効果を発揮するのですね。
尾原氏:たとえば「子ども番組の視聴者層が多く来訪している」ということがわかれば、アニメ番組枠でのCM出稿検討や、子育て系サイトへの出稿も検討するなど、より効果的なメディアプランニングが行えます。クライアント企業のみなさまは、お持ちのマーケティングデータと「TV Tribe」を組み合わせていただくことでより解像度の高い顧客像を把握することが可能となります。
──「TV Tribe」に興味がある場合、どのような形で利用できますか?
尾原氏:現在は、ADKマーケティング・ソリューションズ、jeki、東急エージェンシー3社の展開するTVセールスの付随サービスとして提供しております。ご利用を希望される場合は、各社において各社の営業担当までお問い合わせいただき、ドキュメント資料の形で「TV Tribe」のレポートをご覧いただくことができます。また、Data Chemistryへ直接お問い合わせいただければ、詳細のご説明をさせていただきます。
田中氏:データ単体を見て「興味深い」と終わるのではなく、データをきっかけに消費者の置かれている環境や、企業様がコミュニケーションをしたい顧客像を照らし合わせてディスカッションさせていただき、その中で出てきたアイディアを具体的なアクションにつなげていくようなサイクルができると、「TV Tribe」は大きな価値を発揮します。「では次は、このセグメントを切りましょう」「次はこちらの媒体に出稿してみましょう」というご提案とセットでご提供することを想定しております。
■コネクテッドTV普及で進む、テレビとデジタルの“一枚岩化”。「TV Tribe」が描く展望
──現在「TV Tribe」はどの範囲の放送エリアに対応していますか?
田中氏:現在は関東広域圏のみを対象としていますが、これらのデータを企業様にご活用いただける機会が増えてきましたら、関西広域圏、中京広域圏などへも順次対象を広げていきたいと考えております。
──現在10個に分かれている「TV Tribe」のクラスターですが、今後はさらに増える可能性がありますか?
田中氏:10個というクラスターの個数そのものに大きな意味はありません。「現状は10個のクラスターで説明しやすい」というだけのことであり、今後データ量が増えていけば、20個にもそれ以上にも増えていくことが十分考えられます。
──コネクテッドTVの視聴ログをベースとする「TV Tribe」ですが、今後普及台数が増加するにつれて、精度もさらに向上していくのでしょうか?
榛村氏:その名の通り、コネクテッドTVは「ネット結線されている」ことが大きな特徴です。たとえば「地上波のリアルタイムではこの局を見ているけれど、動画配信、例えばTVerではこのような番組を見ている」といった動向を捕捉できるのです。コネクテッドTVの台数が増えていくのに従って、こうしたメディア間をまたいだ「テレビ視聴」の実態がより詳細に把握できるようになり、生活者に対するアプローチの幅はさらに広がっていくことが期待できます。
田中氏:テレビの地上波の視聴を軸としつつ、テレビのコンテンツの見られ方は多様化しています。TVerをはじめとした動画プラットフォームで配信されたコンテンツを視聴する人が増えてきていますので、リアルタイム視聴だけでなく、キャッチアップも含めたテレビコンテンツの「見られ方」を捕捉できれば、ターゲットとする生活層に対して「どのメディアでコミュニケーションすれば、届けたい見込み顧客にリーチできるのか」が把握できます。
放送、デジタルという垣根を越えた「見られ方」がより解像度高く把握できるようになることで、テレビコンテンツを使ったマーケティングはより多様で柔軟なものになっていくと思います。
──「TV Tribe」の今後に向けた展望や意気込みをお聞かせください。
榛村氏:デジタル媒体とマス媒体の間には、まだプランニングに関する垣根の大きさを感じる部分が少なくありません。「TV Tribe」を通じて、両者を連携させたマーケティング指標をご提供し、テレビとデジタルが“一枚岩”となる形を増やしていけたらと思います。
田中氏:「テレビ離れ」という言葉も聞かれて久しいですが、それを踏まえたとしても、短時間でこれほどにリーチを獲得できるメディアはテレビ以外にないと思います。尾原の言葉にもありましたが、テレビというメディアそのものの見られ方がさまざまになっている中で、いまは「やはりテレビコンテンツは良い」と再評価が進んでいる状況にあると思っており、私たちは「TV Tribe」を通じて、テレビというメディアをもっと価値のあるものにしていきたいと考えています。
尾原氏:今でこそメディア別の普及率はスマートフォンが1位ですが、それに次ぐ大きさとして、テレビは確固たる存在感を保ち続けています。選択肢が少なかったかつての時代と異なり、これほどに娯楽が多様化するなかでテレビが見られ続けているということは、「選ばれている」ことを意味します。今後、その強みはさらに増していくでしょう。繰り返しになりますが、生活者の中に浸透したテレビの視聴動向は、生活者のライフスタイルや生活パターンそのものを表すものです。今後、どのようなコンテンツをそこに流し、生活者とどのようなエンゲージを結んでいくのか、こうした次の打ち手につなげるツールとして、「TV Tribe」をぜひご活用いただきたいと思います。